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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第三章 堕落した神々の王都
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第五十話  サマリクスの戦い

「そうだ、その通りだ。あの戦場にニョルズ殿はいない。おそらく王宮であ神器を守っているのだろう。シンモラとグルヴェイグはそれを奪いにいったに違いない」


重成の言葉にヘーニルは我に帰って言った。


「ヘーニル殿、ヴァン神族の王が持つ神器とは一体どのような力を持っているのでしょう?」


「分からぬ。俺は人質として悠久の時をこのヴァナヘイムで過ごしてきたが、ニョルズ殿の神器などは見たことが無いし、話に聞いたことも無かった。だがあのニョルズ殿があの時見せた神器への異常な執着・・・・。そしてムスペルの女王が自ら乗り込んできて奪わんと欲する程なのだ。余程の物なのだろう」


ヘーニルは王の座する宮殿へと視線を向けた。


「おそらく二度目のラグナロクの行く末を左右する程の力を持っているのではないだろうか。そう思えてならない」


「確かに・・・・。神器をシンモラに渡してしまうのは非常にまずいかも知れませんね。神器の力は不明ですが、ムスペルの戦力が大いに増強されるのは間違いないでしょう・・・・」


ブリュンヒルデはしばし考えたが、すぐに腹は決まったようである。そのことを察した重成は彼女に頷いて見せた。


「行こう、ヴァン神族の王の元へ。ヴァルハラに帰るのはそれからだ」



その時、ヴァン神族の軍勢とムスペルの軍勢の戦いが遂に始まった。

騎乗したムスペルが掲げた剣先から炎が弾けて紅蓮の矢の雨となってゴーレムに降り注ぐ。

騎乗するムスペルは徒歩のムスペルの上位種なのだろう。炎を飛ばすのは彼らのみが有する能力らしい。

灼熱の炎が魔導兵ゴーレムの獣頭を吹き飛ばし、一瞬にして炎の彫像へと変貌させる。

一方、ヴァン神族の軍勢もルーン魔術を発動させ、光の矢や氷の弾丸をもって応戦した。

かつては武勇のアース神族、魔術と叡智のヴァン神族と称され、アース神族とは違う術式の魔術の使い手であった彼らであったが悠久の時を安楽に過ごし魔術の錬磨と研究を怠ってしまった。

結果その威力はアース神族と互角に戦った頃に比べ、見る影も無い程威力が落ちていた。

その魔法の多くはムスペルの炎にかき消され、命中しても致命傷は与えられないようであった。

魔力の雨が降り注ぐ中で両軍の位置は縮まり続け、ゴーレムの獣頭とムスペルの炎のような髪、黄玉のような瞳がぶつかり合うほどまで近づいた。

この場所はヴァン神族がサマリクスの野と呼ぶ平原である。

ヴァン神族とムスペルの子らによる「サマリクスの野の戦い」は白兵戦に移行した。


ゴーレム兵達はヴァン神族が全盛の神気と魔術文明を誇っていた頃に造られたものである。

造り主達自身の力は衰えてしまったがゴーレムの性能はかつてアース神族と互角に戦った頃に比べてほとんど劣化していないといっていい。

彼らの拳がうなりを上げてムスペルの顔面を粉砕し、頭蓋を叩き割り、あるいは炎の剣を持った腕をもぎ取り、首の骨をへし折る。

個々の戦闘力ならば徒歩の下位種であるムスペルよりもゴーレムの方が上回っていたかも知れない。

だがムスペルの軍勢は倍の数である。彼らはその数と犠牲を厭わない突進でヴァン神族の軍勢を磨り潰そうとしていた。


「何とまずい戦い方だ」


千軍万馬の又兵衛、姜維、義元などがヴァン神族の軍勢の戦いぶりを見れば、そう慨嘆するだろう。

ヴァン神族は戦術指揮も何もあったものではなく、ただ激情の発するままルーン魔術を行使し、ゴーレムを動かすのみであった。

もっともそれは仕方のないことなのだろう。彼らは悠久の時の間戦を放棄して過ごし、戦のやり方などはほとんど忘れてしまったし、ムスペルの侵攻など夢にも思わなかったのだから。

巧妙な戦術を用いていないのはムスペルも同様である。だが大軍に緻密な戦術や作戦などは必要ない。ただ進撃すればよいのである。

倍の戦力を揃え、奇襲が成功した時点でムスペルの軍勢の勝利は確定していたのである。

ゴーレム達は複数の炎の剣の斬撃を同時に浴びて声も上げずに無言で炎に包まれ、遂にヴァン神族の中にも飛来する炎を浴びて焼け死ぬ者が現れ始めた。


重成達エインフェリアとワルキューレは再び馬を走らせ王宮へと戻った。


「やはりニョルズ殿も、シンモラとグルヴェイグもここにいるぞ」


先にたどり着いたヘーニルが叫ぶ。怒りと警戒だけではなく、もう一度シンモラと戦える喜びと興奮が入り混じっているようであった。

重成達は馬から降りると一瞬のためらいも見せずに宮殿に突入し、王が座する大広間へと急いだ。

先頭のヘーニルが黄金の扉が自動的に開くのを待ちきれずにその強靭な脚力で蹴破る。

玉座に座したまま動かないヴァン神族の王ニョルズ、その傍らに女神フレイヤ、そして彼らの前にはムスペルの女王シンモラと狂気の女神グルヴェイグが立っていた。

周囲には破壊され、焼き尽くされたゴーレム兵の残骸が散らばっている。ニョルズとフレイヤが操作していたゴーレムだろう。

ムスペルの女王と狂気の女神が相手ではほとんど足止めすら出来なかったに違いない。


「・・・・やって来ましたか」


シンモラが鋭く舌打ちをした。


「単純で愚かな貴方達のことだから、ヴァン神族の者達と共に我が子らと戦って死ぬものだと思っていたのですがね・・・・」


「生憎だが、俺とは違ってこの者達はそう愚かではないようだ」


再び弓を構えたヘーニルが答え、玉座の王に視線を向けた。


「ニョルズ殿、シンモラ共が欲する貴方の神器とは一体・・・・?」


「・・・・」


ニョルズはヘーニルの問いかけに答えなかった。頬杖を突き、沈鬱な表情を浮かべながらあらぬ方向をじっと見つめている。


「・・・・ニーベルングの指輪・・・・」


グルヴェイグが陰々たる声で告げた。

シンモラが喜悦の表情を浮かべながら頷き、ニョルズが憤怒の形相でかつての同胞を睨み付けた。


「ニョルズがアース神族との戦に勝利する為に己の全知全能を尽くして製造した神器。その力は神の力をも超えた奇跡を起こせるはずだったが・・・・。結局完成することは出来なかった為、アース神族との和睦の道を選ばざるを得なかった・・・・」


「そのような神器があったのですか・・・・」


ニョルズは神器の存在を我が娘にも秘していたらしく、フレイヤが驚愕の表情で父を凝視した。


「貴様・・・・。どうやってそこまで嗅ぎつけた・・・・?」


「ですが、もう完成しているのでしょう?」


ニョルズのグルヴェイグへの問いかけをシンモラが遮った。


「その指輪の力があれば、先のラグナロクで砕け散り、失われたレーヴァテインを再生させ、完全なる状態で我が夫、破壊の化身にして劫火を統べる王たるスルトを目覚めさせることが出来るはずです」

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