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 ラグナロクセカンド 神界三国志  作者: 頼 達矢
第一章  戦死者の宮殿
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第四話  戦乙女との邂逅

重成は肉体の束縛から解放され、宙に浮かんでいた。

そして、眼前に繰り広げられる光景を呆然と見つめていた。


帷幕内で多くの武士を従えた小具足姿の老人が、床机に座している。

よく肥えており、血色も良いが、頭髪も髭も雪のように白く、七十歳を超えているだろう。

目は眠っているかのように細いが、その眼光は尋常のものでなく、他者を圧倒する威が備わっていた。

重成はこの老武人を知っている。


(あれは・・・家康?!徳川家康か!)


豊臣家を滅ぼさんとする徳川家の総大将、征夷大将軍の座を息子秀忠に譲り、今は大御所と称される徳川家康その人である。

重成は家康と直接面会している。

冬の陣が講和に終わり、公式の調印のために右大臣豊臣秀頼の名代となったのが、重成である。

茶臼山の徳川の本陣で、重成は家康から血判状を手渡された。

重成は、


「血が薄うございますな。もう一度、押していただきたい」


と言った。居並ぶ諸将から一瞬殺気が噴出したが、家康は穏やかに微笑したのみであった。

重成の胆力に感心したらしい。


「年を取ると、どうも血が薄くなるようだ。若さ溢れるお主がうらやましいわ」


と言って、短刀を抜き、己の指を切った。

その家康は、首実検をしているらしい。

首台にあるその首は・・・


(私か?私の首か・・・?)


「五月の初めだというのに、僅かの悪臭もせん。香を焚きこめておるらしいの」


家康は己の白い髭をなでながら、感じ入ったように言った。


「まことに良き嗜みよ。これこそ真の武士というものかな。皆の者、近くに寄って首を嗅ぎなさい。かの者の心得と風雅を見習うように」


間違いない。出陣の際、死後の己の首が見苦しくないよう、我が妻に香を焚かせ、兜にたきしめておいたのである。


「やはり、私は死んだのだな・・・」


一人呟いた重成の心に、清らかな、音楽的な美しい声が響いた。


「そうです。あなたは戦場で見事な死を遂げました。そして選ばれたのです」


重成の前に一人の乙女が舞い降りた。

異国風の、宝石を散りばめたような輝かしい甲冑にも驚いたが、それよりも乙女の美貌に、重成は思わず息をのんだ。

腰まで届く白金の髪、青玉のような瞳、陶器のような白い顔。

何より、乙女から発せられる神々しい気が、彼女が人間を超越した存在であることを一瞬で悟らせた。


(これは切支丹達が言うところの、神の御使い、天使というやつか・・・?)


「私は戦乙女ワルキューレのブリュンヒルデ」


「ブリュン、ヒルデ・・・」


「アース神族の王オーディンの子、ヴィーザルの命により、来るべき巨人族との戦「ラグナロク」に参戦すべき死せる戦士を連れ帰る使命を帯びて、地上に参りました。あなたは選ばれたのです。死せる戦士「エインフェリア」として、神々の軍勢の一員に。誇りに思いなさい」


「・・・・」


アース神族、オーディン、ヴィーザル、ラグナロク、エインフェリア・・・・。

全く聞き覚えの無い言葉に、荒唐無稽としか言いようのない話である。

だが、不思議なことに重成には、彼女の話が真実であると何の疑問も抱かず受け入れられた。

それどころか、己はその戦に加わる為に生まれ、生き、そして死んだのではないかという思いすら生じた。


「全く可笑しな話だな。徳川との戦に敗れたわしら如きを巨人とやらとの戦に駆り出そうとは」


腹に響くような野太い声が響き渡った。

ブリュンヒルデの側から、黒い具足を纏った六尺を超す大兵の武者が現れたのである。

見事な髭には幾分白いものが混ざっており、五十歳を超えているだろう。眼光鋭く、まさに戦の中で生まれ、戦の中で生きたであろう豪傑そのものの姿であった。


「貴殿は又兵衛殿?!後藤又兵衛殿か!」


重成は驚愕し、そして再会の喜びで涙を浮かべた。

豊臣方の双璧の一方、天下に名高い豪傑後藤又兵衛基次は、重成にとって単なる僚友ではない。

初陣前の重成に様々な戦の心得や作法を教え聞かせてくれた師とも言うべき存在なのである。


「重成殿。まさかお互い死して後に再開するとはな」


又兵衛がいかつい髭面に笑みを浮かべながら言った。


「では、又兵衛殿も・・・?」


「うむ。伊達家との戦で銃弾を浴びてな」


そう言って又兵衛は腕を組み、しばし考えにふけった。


「わしらに、神々の敵の巨人や怪物と戦えと・・・」


そう言いつつ、又兵衛には迷いや恐怖はほとんど無いようだった。

むしろまだ見ぬ、いや想像すら出来ぬ戦に震える程の喜びと興奮を感じているようだった。


(又兵衛殿らしい・・・)


重成は半ば感嘆し、半ば呆れて又兵衛を見つめた。


「重成殿はどうするね」


又兵衛がけしかけるように問うた。










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