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 ラグナロクセカンド 神界三国志  作者: 頼 達矢
第二章  愛の女神と狂気の女神
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第三十二話     女神

エインフェリアと戦乙女を簡素な木製の玉座に座した女神が迎えた。


(おお、何と美しい・・・・)


ヴァルハラにやって来て戦乙女達と出会い、神々しい気を放つ美女には見慣れたはずのエインフェリア達であったが、やはり女神の美貌には憧憬と崇拝の念を抱かずにはいられなかった。

燦と輝く黄金の髪、深く冷ややかな光を湛えた緑玉のような瞳、そしてニブルヘイムに降る氷雪を思わせる驚くほど白い肌。

全く欠点の無い完璧な美貌であるが、顔貌の秀麗さという点では、ブリュンヒルデも引けは取らないだろう。

だが、その放たれる神気は段違いであったし、何よりも内側から発散される異性を引き付ける強力な磁力のような性的な気配の存在があった。

ヴァン神族やアース神族のみならず、巨人族からも性的な欲望の対象となったというのも無理からぬことと言えるだろう。


「戦乙女とエインフェリア・・・・。まさか再び目にすることになるとは。やはりまたもラグナロクが始まろうとしているという話は本当であったか」


フレイヤが言った。ささやくような声であったが、男たちを刺激する官能的な響きがあった。


「お前たちの船を落としたことについては詫びよう。デックアールヴ以外の者がアルフヘイムに近づくとは思っていなかったのでな。それにしても・・・・」


そう言ってフレイヤは瞳に鋭い光を浮かべた。


「私は船を地表に激突させようと手加減無しで力を振るったのだ。にも関わらずよくぞ我が神気を払いのけたものよ。そこな戦乙女の手柄か?名を名乗るがよい」


「ブリュンヒルデと申します。フレイヤ様」


「ブリュンヒルデ・・・・?」


フレイヤはブリュンヒルデを見つめ、首を傾げた。


「その名、聞いたことがある。そなたの顔にも見覚えがあるな・・・・」


「・・・・」


「私が人質としてアースガルドにいた時、そなたと会った気がするが・・・。いや、そんなはずはないか」


フレイヤは苦笑を浮かべた。


「先のラグナロクの時のワルキューレはスルトの炎に焼かれて一人残らず全滅したはず。そなたは名が同じだけの他人であろうな」


「・・・・」


重成はそっとブリュンヒルデの様子を窺った。

ブリュンヒルデは呆然とした表情を浮かべ、凍り付いたように動かない。

だが、フレイヤはそのようなブリュンヒルデに構わず話を続けた。


「そなたらはヴァナヘイムを目指していたようだな。当然、ラグナロクに備えてのことなのだろう」


「はい、実は・・・・」


ブリュンヒルデに代わって重成が事情を説明した。


「ふむ・・・・。ヘイムダルと刺し違えて死んだはずのロキが生きており、ヴァルハラに侵入したと・・・・。それでヴァナヘイムにいるヘーニルを呼び戻して彼に結界を張ってもらおうという訳か」


フレイヤが細い眉をひそめながら言った。ロキの存在に怒りと憎悪を抱いたのだろう、険しい表情であったが、それすらも美しく蠱惑的であった。


「事情は分かった。ヴィーザルがヘーニルを呼び戻そうと考えたのは当然だ。だが、残念ながらそれは叶うまい」


「え・・・・。どうしてですか?」


エイルが困惑の表情を浮かべながら言った。


「ヴァナヘイムを治める我が父、ニョルズがラグナロクには一切関与しないという方針を断固として貫くであろうからだ」


フレイヤはため息をついた。その表情から察するに、彼女はその方針に反対であり、我が父に苛立ちすら覚えているようである。


「父は臆病なまでに慎重であり、一度決めたことは徹底的に細心の注意を払いながら守り抜く方だ。ラグナロクに関与しないと決めたからにはアース神族であるお前たちの話を聞くどころか、会う事すら拒否するだろう。おそらくお前たちはヴァナヘイムの父の元にはたどり着くことすらできまい。あらゆる手を使って妨害するだろう」


「・・・・フレイヤ様の御力で何とかならないでしょうか」


茫然自失の状態から戻ったブリュンヒルデが双眸に強い光を宿らせながら言った。

その気高く凛然たる表情はフレイヤに引けを取らぬ美しさだった。


「ロキは何やら途方もなく邪悪な企みを抱いているようですし、スルトの目覚めも近いようです。最早一刻の猶予もありません。我々は何としてもヴァナヘイムにたどり着かねばなりません。何卒お力添えを・・・・」


「・・・・手を貸してやっても良い」


「本当ですか!」


ブリュンヒルデとエイルが等しく歓喜の声を上げた。


「うむ。ラグナロクに一切関与しないという父の方針、私は気に食わぬ。我が最愛の兄の仇であるおぞましく醜いスルトは何としても滅ぼさねばならぬ。またかつてラグナロクを引き起こしたロキも仇の片割れ。あ奴が生きており、またしても悪しき行いを為そうとしていると知った以上、最早手をこまねいているわけにはいかぬ。出来るだけのことはしてやりたい」


「フレイヤ様・・・・」


「だが、残念ながら今、この時は私は動くことが出来ん。事情は知っておるな?」


「デックアールヴですか?彼らの攻撃はそれ程までに・・・・」


「うむ。私がほんの一時でもこの地を離れれば奴らは大挙として攻め寄せ、瞬く間に占領してしまうだろう。アルフヘイムは我が兄より受け継いだ地、何としても守り抜かねばならぬ。そこで・・・・」


「私たちにデックアールヴとの戦に加勢せよとの仰せですか」


重成がフレイヤの美しい顔を真直ぐ見ながら言った。


「その通りだ。正直に申して、私は戦が不得手だ。エルフ達もそれは同様で、狡猾にして狂暴なデックアールヴ相手ではどうにも分が悪い。そこでお前たちの力が欲しい」


そう言ってフレイヤは緑の瞳でエインフェリア達一人一人に視線を送った。その視線はエインフェリアの技量を探っていると同時に、好みの男を品定めしているような好色な気配が確かにあった。

女神の視線は最終的に重成に注がれることになった。戦士としての力量も、美貌においても重成が最も優れていると判断したのだろう。

重成は女性からこのような視線を送られるのは慣れている。かつてはそれで心を動かされたことは無く、女性に対しては謹厳そのものの重成であったが、流石に女神の圧倒的な美貌と性的な魅力を前にしては心がざわつくのを完全に抑えることは出来なかった。


「分かるぞ。お前たちは私がアースガルドに居た時に出会ったエインフェリアに比べて格段に優れた技量を有しているのが。お前たちの力があればデックアールヴ共を打ち破ることは可能であろう」


「一つ聞いても良いかな、フレイヤ殿」


今川義元が女神に対してふてぶてしいまでの好色さを隠そうとせず、常と変わらぬ傲岸不遜な態度で尋ねた。

周囲の者は内心慌てたが、


「構わぬ。何なりと聞くがいい」


女神は気分を害した気配は無く、むしろそのような義元に好意を抱いたように機嫌よく応じた。


「戦に勝つためには敵の大将を討たねばならぬ。デックアールヴとやらを率いる大将は何者なのだろう。もしや、エルフに貴方がいるのと同様、あちらも神が率いておるのでは・・・・?」


「その通りだ」


「その神とは・・・・?」


「グルヴェイグ。かつてヴァン神族より追放されし女神よ」


「グルヴェイグ・・・・?」


ブリュンヒルデは首を傾げた。


「そのような女神の名は聞いたことが・・・・」


「ないであろうな。当然だ。あの者の存在はヴァン神族から無かったことにされているし、アース神族の記録にも残す訳にはいかぬであろうからな」


「それは何故でしょう?」


「それについてはどうでもよい」


女神はそれ以上の問いは許さぬとばかりに強い口調で言った。

何やら複雑な事情があるらしいことが察せられる。


(もしや、アース神族のヴァン神族の争いの発端となったのがその女神の存在なのでは・・・・?)


ブリュンヒルデは直観的にそう思った。だが、そのことを確認することはおそらく不可能なのだろう。

フレイヤはもとより、ヴィーザルも決して答えない気がするのである。


「デックアールヴ共を討つ策はお前たちが立てるがよい。私もエルフ達も全面的に従おう」


フレイヤの言葉に、戦乙女とエインフェリアは揃って頭を垂れた。











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