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 ラグナロクセカンド 神界三国志  作者: 頼 達矢
第二章  愛の女神と狂気の女神
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第三十話     ゴーレム

「獣の頭をした人形兵か・・・・。ふむ、わしらのオーク兵とは材質が違うようだ。土をこねて造った兵隊らしいな」


又兵衛が猫科動物のように瞳孔を開きながら言った。

こちらに向かって整然と歩み近づいてくる兵団は成程、皆それぞれ獣の顔していた。獅子、虎、豹、狼といった肉食の猛獣のみならず、牛、山羊、兎といった草食獣、さらには鳥類の頭まである。

その色は黒か茶色で、いかにも粘土と言った感じであった。体躯は霜の巨人に匹敵する程である。


「え・・・・。ってことはゴーレム・・・・?」


「ゴーレムとは・・・・?」


重成が愛刀に神気を込めながらエイルに問うた。


「ヴァン神族の人達が使う人形兵だよ。エイルも見るのは初めてだけど・・・・」


「では操っているのはヴァン神族のゆかりの者なのだな?何か心当たりは・・・・」


「あ、そうか、分かった!」


エイルが叫んだ。


「あれを操っているのはエルフの人たちだよ!」


「エルフって・・・・確かヴァルハラの書で読んだな。ヴァン神族に仕える光の妖精だっけ?」


「そうそう、そうだよ」


エドワードにエイルは大きく首を振って頷いた。


「それじゃあ、ここはラグナロクで死んじゃったフレイ様が治めていたエルフの国、アルフヘイムなのかな・・・・?」


「だが、操っているはずのエルフらしき者の姿が見えんな」


姜維がエインフェリアとエイルを守るようオーク兵を動かしつつ言った。


「見えるのはゴーレムとやらだけで操っている者の気配が感じられん」


「うーん。分かんないよー。ヴァン神族の人達、エルフはルーン魔術に優れているらしいから、オーク兵とは違って遠くから操作できるのかも・・・・」


「取り合えず、我らに敵意は無いと伝えて見てはどうじゃ?」


頭を抱えるエイルにラクシュミーが落ち着かせるよう、優しく言った。


「あ、そうだね!」


自分がやるべきことを見つけたエイルは瞳を輝かせてうなづき、大きく深呼吸した。


「エルフのみなさーん、聞いてくださーいー」


エイルの高い、愛らしい声が 白い砂浜に響いた。


「エイル・・・・私たちはヴァルハラからやって来ましたー。ヴァナヘイムに行くのが目的で、あなたたちと争うつもりはないんですー。返事をくださーい」


数十秒待ってみたが、聞こえてくるのはやはり近づいてくるゴーレムの足音だけである。


「相手にされていないらしいな」


ローランが失笑し、冷ややかに言った。


「うー!」


エイルが頬を膨らまし、地団駄を踏んだ。


「諦めないもん!もういっぺん・・・・」


「エイル、僕にやらせてくれないかな」


敦盛がエイルの肩に手を置き、優しいながらも凛とした口調で言った。


「敦盛くん!」


エイルは淡褐色の瞳を歓喜で燦と輝かせた。

敦盛は青葉の笛を取り出すと、瞑目し、呼吸を整えた。臍下丹田に気を集中して神気を高めながら笛に唇を当て、曲を奏でた。

無益な争いは避けたいという祈りと、このアルフヘイムという未知の世界のことが知りたいという好奇心、そしてまだ見ぬ光の妖精と友誼を結びたいという思いが渾然一体となって天成の美音と化し、浜辺に吹く風と波の音までが止むかと思われた。

その音色は決して大きくなく、曲調は繊細で哀愁を帯びていたが、このアルフヘイムの天地に永遠に鳴り響くのではないかと思わせる程の神々しい力強さが秘められているようであった。

得体の知れぬ敵との闘いを控え緊張していた他のエインフェリアであったが、今は緊張を忘れ、ただ呆然と敦盛が奏でる音曲に耳を傾けていた。

エイルはその瞳に涙を湛え、だが嬉しそうに敦盛をじっと見つめている。


「ゴーレムの動きが止まった・・・・」


重成が呟いた。生物の気配を放たず、無機質の巨躯をただ機械のように整然と動かしていたゴーレムの群れだったが、まるで時間が止まったかのようにその動きを停止していた。

敦盛はそのようなゴーレムのことなど眼中に無いのだろう。曲を奏で終えたが、己の思いに没頭しているらしく、眼を閉じたままであった。


(このような強さもあるのか・・・・)


神聖な気配を醸し出す敦盛の姿を見て、重成は深い感動を覚えた。

重成は武の錬磨こそが人間、エインフェリアに秘められた可能性を引き出し、神の領域に近づく手段だと信じ、これまでひたむきに励んできた。

だが、それだけではなかったのである。芸もまた極めれば神の領域に近づくことが可能であるらしい。

むしろ、ヴァルハラに来て間もない十代半ばのあどけなさが残ったこの少年こそが最も神に近いエインフェリアなのではないだろうか。

笛を吹き終え、端然と姿勢を正す敦盛から発せられる清浄な神気は、竜の仮面を被って戦場に舞う北畠顕家の神気を凌駕するかと思われる程であった。


「ヴァルハラより来たれし者達よ。お前たちに敵意は無いのはよく分かった」


戦乙女とエインフェリアの心に念話が届いた。声の主からアース神族の王ヴィーザルに匹敵する程の圧倒的な神格が感じられた。


「私は亡き兄フレイに代わってこのアルフヘイムを治めるフレイヤ。お前たちに我が館に立ち寄ることを許そう」


「フレイヤ様・・・・・」


女神の神格に圧倒されたエイルが呟いた。


「ゴーレムの後に続くがいい」


念話はそこで切れ、同時にゴーレム達が一斉に踵を返し、自らがやって来た方向に向かってゆっくりと歩みだした。


「・・・・」


しばしの間呆然として無言であった一同であったが、


「敦盛くん!」


エイルが歓喜の声を上げ、敦盛に抱き着いた。


「すごい、すごいよ、敦盛くん!エイルが思っていた通り、ううん、それ以上だよ」


「あ、ああ。そうかな。僕は上手いこと出来たのかな」


敦盛は夢から覚めたばかりのような表情で言った。笛を吹いている最中とその後は忘我の状態にあり、自分がどれ程の効果を現したのか今一判然としないらしい。


「見事に神の心を動かしたな、敦盛殿よ」


義元が感動を抑えることが出来ずにわずかに震える声で敦盛を賞賛した。


「そうですか・・・・。僕の笛は神の心に通じたのですね・・・・」


敦盛は祖父より受け継がれた青葉の笛を握りしめながら、控えめに、だが誇らしげに呟いた。


「おおい、平敦盛を褒めるのは取り合えずそこまでにしておけ。あの土人形どもに置いて行かれるぞ」


又兵衛の声で皆我に帰り、慌ててゴーレムの後を追った。




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