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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第二章  愛の女神と狂気の女神
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第二十四話   二つの任務

「さて、エイルに選ばれし五人の勇者達よ。ヴァルハラに来て早々で済まぬが、お前たちには重大な任務にそれぞれ加わってもらう」


強大な光輝と力感を放ちながら、存外に優し気な声で神王は告げた。


「任務は二つである。一つはブリュンヒルデが率いる者達とともにヴァン神族の住まうヴァナヘイムへと赴くこと。そしてもう一つはフロックが率いる者達が行うヴァルハラの軍隊の調練の手助けをすることである。エイルよ、その五人をどちらに加えさせるかはお前の判断に任せる」


「はい!」


エイルが元気いっぱいに応え、緊張していた五人のエインフェリアは思わず笑みを浮かべた。


「では頼んだぞ」


こうして神王の謁見を終えた五人のエインフェリアとエイルは元にいた部屋へと戻った。


「すげえな、あれが神様の王かよ。あんな緊張したのは生まれて初めてだったぜ」


孫堅が顔に浮かんだ汗をぬぐいながら言った。


「うむ。出来れば言葉を交わしたかったが、緊張で声も出そうになかった。我もまだまだよの」


義元が言った。微笑を浮かべているが、己の不覚を恥じているらしい。


「ところで、二つの任務の内一つは、軍隊の調練と言っていたな。ならば当然、余はそちらをやるぞ」


グスタフアドルフがエイルに有無を言わせぬ口調で言うと、ラクシュミーバーイは呆れた表情を浮かべた。


「全く落ち着きのない男じゃな。まずはもっと詳しい内容をエイルに聞いてから判断すべきであろう」


「詳しい内容などどうでもいい。世界は変われど軍隊の調練と言えばやることは一緒に決まっている。余は地上ではわが祖国の軍隊の改革と調練に全てを捧げてきたのだ。エイル、それ故に余を選んだのだろう」


「うん、そうだね!グスタフさんは軍隊を鍛えさせたら世界一だもんね」


エイルは力強く肯定した。


「エイル、ヴァナヘイムとは一体・・・・?」


「あ、そうだね、そこを詳しく説明しないとだね」


敦盛に問われ、エイルは真面目な表情を浮かべた。


「さっきヴィーザル様が言ったけど、ヴァナヘイムはヴァン神族の人たちが住んでいる世界なの」


「ここヴァルハラにいるのがアース神族であったな。他にも神々の一族が存在するということか」


「うん」


ラクシュミーの言葉にエイルは頷いた。


「でもね、アース神族とヴァン神族は仲が良くなかったの。長い間お互いが嫌になるくらい戦争しちゃってね。で結局お互いに人質を出して平和にやっていこうて決めたの」


「先のラグナロクではヴァン神族はどうしていたんだ?」


「基本的にはヴァン神族の人たちは関わってないよ。ただスルトに殺されちゃった美しいフレイ様は人質としてここに来ていたヴァン神族の人だったんだけど」


「ふむ。その人質が死んだことによってヴァン神族との和平が切れるやも知れぬ。そこで再び交渉に行くというわけか」


義元が己のあごを撫でながら言った。


「そういうことなんじゃないかなー。ブリュンヒルデ姉さまから後でもっと詳しく聞かなきゃだけど。で、どうする?みんなはどっちのお仕事がいいの?」


「先程も言ったが、余は軍の調練の方を要求するぞ。それ以外はあり得ぬ」


「だったら俺もそっちにするかね」


グスタフに続いて孫堅が言った。


「世界一の軍隊の鍛え方とやらを拝ませてもらおうじゃねえか」


「エイルはどちらの側に行くのじゃ?」


ラクシュミーが問うと、


「うーん。ヴァナヘイムの方かなー。ヴァン神族の人達に会ってみたいし、それに・・・フロック姉さまは怖いから・・・・」


エイルは頬を指で掻きながら言った。


「ブリュンヒルデ姉さまもエイルのことたまに冷たい目で睨んで怖いけど、怒鳴ったりしないだけましかなーって・・・・」


「ならば私はエイルと一緒に行こう」


ラクシュミーは目を細め、エイルの頭を撫でながら言った。


「このような愛らしいエイルをいじめる者は誰であろうと許せぬ。私が守ってやろう」


「わーい。ありがとう、ラクシュミーさん」


エイルがラクシュミーに抱き着き、その豊満な胸に顔をうずめた。ラクシュミーはまだ二十代前半という若さらしいが、エイルを抱きしめて微笑むその慈愛溢れる表情は妹に対する姉と言うよりも、母のそれである。

この高貴と野生を兼ね備える美しい女性は地上で子を産んでいるのだろうか、と敦盛は思った。


「我もヴァナヘイムとやらに参ろう」


今川義元が言った。


「今はより多くの場所に赴き、より多くの事を見聞したい。こんな気分になるのは幾年ぶりかの。僧籍を捨てて、俗世に戻った時以来か・・・・」


「敦盛くんもエイル達と一緒に来て」


エイルがラクシュミーに甘えた姿勢のまま言った。


「ヴァン神族の人たちにも敦盛くんの笛を聴いて欲しいから」


「・・・・!分かった、そうするよ」


敦盛が力強く応じた。


「では、エイルと私、それに義元と敦盛がヴァナヘイムへ。グスタフと孫堅がここに残って兵の調練と決まった訳じゃな」


「うん、そうだね。せっかくエイルが頑張って選んだみんながいきなり別れ別れになっちゃうのは寂しいけど・・・」


確認するラクシュミーにエイルはうなづいたが、その瞳には涙が浮かんでいた。


「おいおい、そんな顔をすんなよ。全く大げさだなー嬢ちゃんは」


孫堅がエイルの髪を乱暴に撫でた。態度も口調も荒々しいが、やはり彼も人の子の父親で、エイルを地上で別れた子らと重ねて見ているのかも知れなかった。


「ヴァナヘイムだかなんだか知らねえが、行って戻ってくるのにそんな時間はかからねえだろう?戻ってきたらこの六人でゆっくり酒を汲みかわそうぜ」


「うむ、悪くないの。だが、エイルには酒の席は少し早い気がするがな」


義元が微笑しながら言った。敦盛以外のエインフェリアはどうしてもエイルに対して親のような感情を抱いてしまうらしい。


「そんなことないよーだ。エイルにだってお酒の味は分かるし、みんなよりいっぱい食べて飲んじゃうんだから」


エイルが愛らしい顔をしかめ、舌を出しながら言い、五人のエインフェリアの朗らかな笑い声がヴァルハラの一室を満たした。






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