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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
ユグドラシル編 第一章 宇宙樹
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第百七十五話  封印の間

「ここが新たに創設された封印の間ですわ。ルーン魔術の奥義を尽くした複雑な術式が幾重にも施された素敵な空間でしょう」

黒い髪、黒い甲冑を纏った戦乙女のゲンドゥルが誇る様に艶やかな口調で言った。

「うむ。一歩足を踏み入れた瞬間、五体が重くなり呼吸が乱れてしまった。拙者などでは理解することも抵抗することも叶わない強大な神気と高度な術式が組まれている」

姜維がぼそりと呟き、周囲の壁にほぼ隙間なく描かれたルーン文字を食い入るように見つめた。

「そうだね」

エドワードが相槌を打ちながら、姜維に劣らぬ熱心さで周囲を見渡す。

「成程。ここまで厳重にせねば到底ニーベルングの指輪が呪いを発散させぬように保管出来ぬという訳じゃな」

「左様」

ラクシュミーの言葉にアース神族の王ヴィーザルが重々しく頷いた。

「余は此度の戦に勝利することで得たこのニーベルングの指輪を破壊するべきかと考えた。だがどうやらそれは不可能のようだ。例えトールが蘇ってミョルニルの槌を叩きつけても、父オーディンが蘇ってグングニルの槍で突いても傷一つ付かぬかもしれぬ。いや、今こうして目前にしてはっきりと悟った。これは逆に破壊してはならぬものなのだ。

「……」

「この指輪には確かに恐るべき呪いが込められている。それは今ある宇宙の秩序をも劇的に変える程強大なものだ。それが指輪という形に封じられているから今こうして宇宙はあるべき姿にとどまっている。もし指輪が破壊されたら、その瞬間に呪いと悪意が解き放たれ、恐るべき大災害がもたらされるであろう。破壊するこは許されぬ」

王の言葉に戦乙女と勇者達は粛然となった。

「シンモラは指輪を揃えたらかつてアースガルドとその周囲の星々を焼き尽くして砕け散ったレーヴァテインを再生させ眠っているスルトを蘇らせると言った。ロキは我が父を飲み込んだフェンリルかトールと相討ちとなったヨルムンガンドを蘇らせると。確かにたった一つですらこれ程の力を持つニーベルングの指輪を十個揃えばその願いは容易に叶うであろう。いや、ただ蘇るだけでは済むまい。かつてより遥かに強大な力を有して復活することになるであろう。そうなってはこのアースガルドが滅ぼされるだけではない。全宇宙の星々が焼き尽くされるか、輝きを失い暗黒の淵に飲み込まれていくであろう」

「それは……何としても阻止せねばなりませぬ」

最悪の破滅の姿が鮮明に脳裏に浮かんだラクシュミーがあえぐように、だが決然として言った。

「その通りである。一つが既に我らの手中にあるのだから、もう敵が十個揃えることはないのだから安全だなどと断じて思ってはならぬ。ムスペルにしろ死者の軍勢にしろ、指輪を側に置くことよってその呪いと悪意の波動を受け、その忌まわしい力をさらに強大にさせるであろう」

「確かに……」

姜維がこの封印の間空の間に漂う呪符を忌々し気に見つめながら言った。このヴィーザルとゲンドゥルが造り上げた呪符の中に先程のニブルヘイムでの戦いで獲得したニーベルングの指輪が眠っている。

この呪符の中には神王と戦乙女最高のルーン魔術の使い手が新たに創造した異空間が広がっているのだという。

「この異空間はかつて姜維様達エインフェリアが生きたミッドガルド、地球そのものに匹敵する程の巨大さですのよ」

ゲンドゥルは呪符についてそのように説明した。

その途轍もなく巨大な空間にちっぽけな指輪が一つだけ存在するだけなのだ。

にもかかわらず今にも指輪に込められた呪いと悪意が漏れ出て来そうな気配を感じるのである。

「最早一つたりとも敵側に渡ってはならぬ」

「では、改めてこの指輪を封印する」

ヴィーザルが告げると、新たに七人の戦乙女が封印の間に入室した。

彼女たちは二度目のラグナロクの為に封印と防禦の術を専門的に修行してきた戦乙女達である。

ゲンドゥルを中心にして円陣を組むと、神王と戦乙女達はルーンの詠唱を唱えながら術式を組み始める。

「姜維様、エドワード様、ラクシュミー様、御助力をお願いします」

ゲンドゥルの言葉を聞き、三人のエインフェリアは完成しつつあるルーンの魔法陣に己の神気を注ぎ込んだ。

「封印!」

八人の戦乙女の声が高らかに響くと同時に、呪符は消え去った。

「指輪はどこに……?」

エドワードが呆然と呟く。

「さらに別の異空間へ閉じ込めましたわ」

白い顔を汗に満たしながらゲンドゥルは答えた。

「つまりニーベルングの指輪は二重の異空間に閉じ込められたのです。これでその悪意と呪いが漏れて周囲の者に感染する危険はありません」

そう答えるゲンドゥルの首にかつてなかったルーン文字が彫られていた。

よく見れば他の七人の体にもルーン文字が彫られているようである。

「これは鍵ですわ」

ゲンドゥルは己の首を恍惚の表情を浮かべながら撫でた。

「鍵を持つ私達八人が同時にそろわねば異空間の扉を開いてニーベルングの指輪を手にすることは出来ない訳です。これで万が一にも指輪が盗まれる危険性は無くなったというわけです」

「成程……」

三人のエインフェリアは神王と戦乙女達の用心深さ、絶対に油断も慢心もしないその重厚な姿勢に感銘を受けた。

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