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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第九章  巨人と巨神
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第百七十一話  神器探索の術

「ゲンドゥル……」

清冽にして圧倒的なまでに高い神格、力感に満ちた念話が届き、ゲンドゥルは我に帰った。

それまでこの白銀の世界ニブルヘイムに顕現した雷神、伝説のアース神族最強の戦士の凄まじい戦いぶり、黄金の雷光に耀くこの世の物とは思えない程美しく勇壮な姿に完全に心を奪われ黒髪の戦乙女は恍惚の表情を浮かべながら茫然自失となっていたのである。

「そ、その声はブリュンヒルデ?確かに声といい、神気といいブリュンヒルデのものだけど、やはり違う。顕現したトール様と一体になっていることで、魂が変質したのね?ああ、羨ましい。私もトール様の一部となって最強の戦神として力を振るってみたい。それでブリュンヒルデ、今は一体どんな気持ち?やはり凄く気持ちがいいの?ねえ、詳しく聞かせてくださいな」

「お、落ち着いて下さいゲンドゥル。状況を考えなさい」

ゲンドゥルが興奮を露わにしながら質問を浴びせたことで雷神と一体になっている戦乙女は困惑を隠せないようである。

そのことでゲンドゥルは否応なく冷静になった。

「ごめんなさい。確かにこんなことを貴方に問うような状況ではありませんわね……」

「いいですか、ゲンドゥル」

ブリュンヒルデも落ち着き払った念話を送って来た。

「貴方も見たでしょう。霜の巨人の王、スリヴァルディは強力な再生能力を有しているようです。ですがあの力はおそらくスリヴァルディ本来の物ではない。ニーベルングの指輪の力によるものだと思われます」

「成程、確かに」

興奮が収まり、ゲンドゥルは己の頭脳、戦乙女随一と自負する己の才知が勢いよく回転し出すのを心地良く感じていた。

「無限に再生するやも知れない霜の巨人の王を倒すには、ニーベルングの指輪を巨人の体内から引き離さなければならないという訳ね?」

「その通りです」

ブリュンヒルデの念からは流石ゲンドゥルは話が早いという賞賛の念と喜びがにじみ出ていた。

「今の私はトール様を顕現させることに全ての力を注がなければならないので、神器探索の術が上手く出来ません。いえ、指輪は意思を持っているようで巧妙に気配を消しているようなので、私が通常の状態でも指輪を追えない可能性もあります」

「そこでこの戦乙女最高のルーン魔術の使い手たるゲンドゥルの力が必要ということなのね」

ゲンドゥルは誇りと自信に満ちた返答をした。

戦乙女で最も神格が高いと目されているブリュンヒルデも、ルーン魔術に関しては己の後塵を拝すしかない。

そのことがゲンドゥルの誇りをこの上なくくすぐるのである。

「その通りです」

普段であればゲンドゥルに劣らぬ程気位が高いブリュンヒルデであるが、この切羽詰まった状況ではあえて逆らわず、素直に応じた。

「貴方も大きな術を建て続けに使用して相当消耗しているようですが……。やってもらうしかありません。お願いできますか」

確かに己はかつてないほど疲労している。これほど大きく、また精妙な念と術式を必要とする高度なルーン魔術を連発しなければならない状況は生まれて初めてである。

だが雷神の顕現を目の当たりにしている興奮と歓喜、そして霜の巨人の王を再び滅ぼすには己の力が不可欠であるという責務によって己の体内から無尽蔵の力が湧いてくるという強い実感があった。

「どうぞこのゲンドゥルにお任せを」


黒髪の戦乙女が吹き荒れる吹雪の中、印を結びルーンの詠唱を行いながら術式を展開するのを確認しながらブリュンヒルデは重成と意志を統一し、再び攻勢に出た。

霜の巨人の王に宿るニーベルングの指輪が己を探知しようとしてしているのだと気づかせない為である。

雷を纏った戦槌はいよいよ激しく、恐るべき速度で振るわれる。

時間が経過するごとに重成とブリュンヒルデ、そしてマグニとモージの魂はより強固に一体となって雷神の顕現を具体化していくようであった。

この凍れる大地に巨大な雷雲が荒れ狂い、轟雷を振りまいてその凄まじい熱量と振動で全ての氷山が砕け散っていくかと思われた。

だが氷と豪雪の世界であるニブルヘイムを統べる王であるスリヴァルディは己の身を穿たんと降り注ぐ神雷に一歩も退くことは無かった。

強剛極まる槌の打撃と超高熱の電雷に身を削られても瞬時に回復し、その氷山の先端の如き爪を猛烈に繰り出してくる。

この二体の巨大な神秘的存在の戦いは永遠に続くのではないかと思われたが、

「このままではまずいぞ……」

息をのんで見守るエインフェリアとワルキューレとワルキューレの中で最も鋭敏な感覚を持つエドワードが呟いた。

確かに雷神トールが振るう力、神威は時間が経つごとにより強大になっていくように見えるが、その力には限度があること、あと数分で終焉の時が来ることがはっきりと感じられるのである。

「それに比べて、霜の巨人の王は無限に再生し、永遠に活動するだろう。このままでは雷神は必ず敗れる。そうなったら、僕たちは終わりだ……」

敗北と死の予感に打ちのめされ、眩暈を覚えたエドワードであったが、突如近くに巨大な神気が湧き起こったことに目を見張った。

見れば黒い装束を纏った黒髪の戦乙女が複雑で高度な術式を完成させ、誇りと勝利の確信に満ちた笑みを浮かべていた。

「お待たせいたしましたね、皆様。もう大丈夫ですわ。此度の戦、私達の勝利です」

艶やかな響きの念話が全てのエインフェリアとワルキューレの心に響いた。


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