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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第九章  巨人と巨神
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第百六十八話  微笑

「……」

ブリュンヒルデとゲンドゥルは最後の霜の巨人の上位種の記憶、怨念、そして勝利への渇望を脳裏に受け止めてしばし金縛りにあったように動けなくなっていた。

(あまりに桁が違い過ぎる)

これから真の姿を現すであろう、真の敵。ニーベルングの指輪を奪取する為には何としても打倒しなければならない相手であるのだが、どう戦えばいいのかまるで見当がつかなかった。

「敵は全盛期のトール様と互角に戦った程の相手、死者の軍勢と戦い消耗した私達に打つ手など……」

「……」

ゲンドゥルが吐いた弱音に、ブリュンヒルデは異議を唱えることが出来なかった。

自分自身も鮮明に見たのである。遥か昔に行われた雷神との壮絶を極めた戦いを。

(ヴィーザル様、もしくはマグニ様とモージ様が来られるまで何とかして持ちこたえ、戦っていただく?いえ、あの御方達を危険にさらす訳にはいかない。何として私達で……)

覚悟を定めたブリュンヒルデであったが、あまりに力の差が歴然としている強大な敵相手にどう戦えばいいのか、全く見当がつかなかった。

その時、またも最後の霜の巨人の敵意がより強く濃く、ブリュンヒルデに向けられた。

「走って!」

ブリュンヒルデはゲンドゥルとの通信を切り、同行しているフロック、ローラン、エドワードに向かって告げると同時に神馬を疾走させるべく念を送った。

赤い髪の戦乙女と二人のエインフェリアには霜の巨人の記憶は見えていなかったのだが、それでも後方に圧倒的な力を持つまさに神話的な怪物が形を成そうとしているのをはっきりと感じていた為、迷うことなく全力で駆けだした。

五人の男女はそれぞれ念を送って愛馬を叱咤し、夢中で走り続ける。

その時、ニブルヘイムの大地に吹き荒れていた吹雪がぴたりと止んだ。

静寂がこの地を支配したのはほんの数瞬で、やがてすさまじい地響きが鳴り響いた。

それも一度ではない。鳴りやむことなく連続に。

長大な体躯、超重量の生き物、そうかつてヨトゥンヘイムを闊歩していた山の巨人やムスペルの四姉妹の次女、半馬の巨人ラウナークをも遥かに超える巨大な存在がゆっくりと、猛々しい足取りで向かって来ているのだ。

戦乙女とエインフェリアは後方に視線を向けてその存在を確認することなくひたすら前方だけを向いて走り続ける。

振り返って見て、その巨人のおぞましき姿、言語を絶する巨大さをはっきり確認したら、心折れて戦う意思も逃げる気力も失いその場から動けなくなるであろうことが予想されたからだ。

(それでも、それでもあの存在は私が何とかしなければならない)

ブリュンヒルデは萎えそうなった心を叱咤し、奮い立たせながら己に言い聞かせていた。

(いえ、私だけじゃない。そう、重成、貴方と二人で立ち向かわねばならない。それが私達に課せられた宿命なのだから。そうでしょう、重成)


「その通りだ、ブリュンヒルデ」

重成は凛としてプラチナブロンドの戦乙女に答えた。

重成もまた、己の中に流れる雷神の神気を通して最後の霜の巨人の記憶と憎悪を読み取っていた。

「重成殿、何をしている、撤退するぞ」

後藤又兵衛が重成を促した。ゲンドゥルの指示が下る前から死者の軍勢と交戦していたエインフェリア達は既に撤退の準備をしていた。

これからニブルヘイムの大地に出現する存在、霜の巨人の真の姿は軍勢を率いて戦えるような存在ではないことを明確に察知していたからである。

それは死者の軍勢も同様で彼らは船であるナグルファルに向かって整然と撤退している。

だがどういう訳か青い陣羽織の若武者だけがこの場に踏み止まろうとしていたので流石の又兵衛も困惑しているようである。

「私は残って戦わねばなりません。霜の巨人の真の姿、霜の巨人の上位種にして王たる存在と」

「何だと?」

並ぶ者のいない剛毅さを持つ戦人が仰天した表情を浮かべた。

「馬鹿を申せ。お主も既に感じているだろう。これから現れる敵は剣や槍でどうにか出来るような相手ではない。ヴァルハラにいる神々が出陣せねばならないだろう。お主がどうやって……」

「それでも私とブリュンヒルデがどうにかせねばならないのです!」

重成は師と慕う武人に斬りつけるように答えた。

「彼の存在は雷神トールによって敗れ、遥か悠久の時より復讐の念を抱き続けて蘇った存在。雷神の力を継承した私が戦わねばならないのです」

その時重成、そしてブリュンヒルデの脳裏にアースガルドの宮殿、アース神族と戦乙女に選ばれた戦死者が集うヴァルハラの一室にて結跏趺坐を組み、神気を高めているトールの遺児たる双子神の姿が鮮明に映し出された。

(マグニ様、モージ様……!)

(神気を極限にまで高めている。最大限の力を込めて、ミョルニルの槌を投擲する為に……!!)

双子神の神気の高まりに呼応し、重成の神気、そしてブリュンヒルデの神気もかつてない程高まろうとしていた。

「重成殿、お主……」

雷の神気を纏い、そして神格もまた高まってより一層神々しく、神秘的な美しい姿になった重成を見て、又兵衛は息をのんだ。

そして成す術が無く撤退しようとしていた他のエインフェリア、武田信繁、山本勘助、今川義元、グスタフアドルフ、夏侯淵、孫堅、そして北畠顕家もが重成の神気の高まりを感じ取り、その場に踏み止まったようである。

「我らにお任せを」

重成は微笑を浮かべながら答えた。

それはかつて又兵衛が見た中で最も清爽にて自信を秘めた笑みであった。

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