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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第九章  巨人と巨神
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第百六十六話  予感

「これは……」

万人の敵、猛勇極まりない燕人張飛を夏侯淵、孫堅と共に力を合わせ、もう少しで討ち取れるという確信を抱きつつあった勘助の槍を振るう手が止まった。

弓を握る夏侯淵、二本の鉄鞭を操る孫堅、そして超絶的な膂力で蛇矛を振るって三人の猛攻を防いでいた張飛もその動きを止め、怪訝そうな表情を浮かべ、その動きを止めた。

(合戦の空気が変わった。いやそんなものではない。ヨトゥンヘイムの大地に異変が起こっているのだ。霜の巨人共が何かを為そうとしているのか?」

破滅的な大異変に備え、一旦は引いて何事が起きようとも対処出来るべく陣形を組みなおすべきだろうか。

(いや……)

何があろうとも今この場ではこのまま張飛を討つべきではないのか。恐るべき豪勇の持ち主である張飛を確実に討てる好機がこの先あるとは思えない。

最終的な勝利を得る為には、例え犠牲を出すことになっても、敵軍の主力たる将は確実に討つべきである。

(例え刺し違えてでも!)

勘助はそう覚悟し、槍を構えて豹頭環眼の巨漢へと突進して行った。そう、これはあくまで戦の為、最終的な勝利の為であり、決して旧主である勝頼との戦いから逃れ、苦悩から解放されたいが為ではないと己に言い聞かせながら。

「な、この老いぼれが!」

氷雪の世界に起こった異変、やがて訪れるであろう大災厄の予感に呆然としていた張飛であったが、老武人の決死の覚悟にいち早く反応し、瞬時に暗黒の闘気を五体に行きわたらせたのは流石と言うしかなかった。

「勘助!」

一瞬遅れて夏侯淵と孫堅も違う時代の異国人である朋友に加勢すべく、それぞれ武器を構える。

しかしそこに五人の武将の動きを否応なく封じ、馬上から吹き飛ばすほどの猛烈な吹雪が吹き荒れた。


「……」

「……」

北畠顕家と関羽はそれぞれの武器を構え、相手を我が視線で焼き尽くさんばかりの猛気を双眸に湛えて睨め付けながら、その五体は凍り付いたように微動だにしなかった。

顕家の仮面の上座に備え付けられた金の竜の翼が欠けている。

関羽の青龍偃月刀の切っ先がかすったからだ。

そしてその関羽の青龍偃月刀の刃に装飾された青龍もやはり一部が欠けている。

顕家の長巻の一撃を受けてそぎ落とされたのである。

互いに己の天稟の武に絶対の自信を持ち、口に出したことは無いが、それぞれ施した竜の装飾こそが己の無双の武勇の象徴だと定めていたのである。

表情には微かにも表さないが、己の竜に敵手の刃が触れたことに大きな衝撃を受けていた。

それぞれ地上では無念の死を遂げ、一方は光の神に、もう一方は暗黒の神に選ばれ人ならざる存在に生まれ変わった後に真に互角の力量を持つ敵手に巡り合おうとは。

(この男を滅ぼす為にこそ、我は神に選ばれたのではないか?そしてその為に必ず神の領域に達せねばならないということか?)

己の宿命、そして滅ぼすべき宿敵が定まったことで北畠顕家と関羽の魂を焦がす闘志の炎はさらに勢いを増し、紅蓮の嵐となって吹き荒れる超低温の氷雪をも融かすかと思われた。

しかしそれでも両者は微動だにしない。

両者の宿敵との戦いによって極限まで研ぎ澄まされた神気、神経、感性がこれからヨトゥンヘイムに形を成す破滅的な大災厄、大異変をほぼ正確に予感していたからである。

これ以上一騎打ちを続けることは許されない。今すぐ率いる兵に念を送り、味方と合流して陣形を整えねばならないだろう。

しかしこれから訪れる大災厄は己の武をもっても到底対抗出来ないこと程の途轍もない巨大な物であると確信に近い予感を得ていた。

(だが……)

同時に己以外の何者かがその大災厄を討ち滅ぼすであろうという予感が微かに脳裏をかすめていたのである。

これからかつて目にしたことの無い、想像すらしなかったであろう文字通り神話的な光景を目にする事になるだろうという喜悦と大災厄を払いのけるのは己ではないという無念が心を満たしたが、それはほんの一瞬に過ぎなかった

(貴様は必ずこの手で滅ぼす)

という宿敵必殺の意志を無形の刃に変えて空中で斬り交えた後、両者は示し合わせたように同時に武器を引いた。

そしてそのまま互いに無言のまま間合いを切り、我が元に参集するよう兵に念を送った。




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