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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十九話  勝頼と重成

「ふむ。日の本武士が二人、こちらに向かって来ておる。いずれの家中の者か……」

勝頼は眼に意識を集中し、壮年と青年の二対の武将を観察した。彼らと彼らが率いる魔導兵が纏う武具は勝頼が戦った織田家のものでも上杉家のものでも北条家のものでもない。

「真田昌幸の子である幸村の甲冑の型によく似ているな。とすればあの者同様、我らより先の時代から来た者共か。面白い」

勝頼は暗黒の気を放って配下の死者の兵に命令を下した。

彼らは風林火山の旗をなびかせ、槍を連ねて黒い甲冑の壮年の武将の方へ一斉に向かって行った。

(あの者の方が手ごわい)

そう見たからである。父信玄と同年代であろうあの武将は明らかに父と比べて遜色ない程の場数を踏んできたであろう歴戦の武人の風格を感じさせる。

それに較べて青い陣羽織を纏った若武者のその兵を率いる様は、まだまだ経験が浅いことは一目瞭然であった。

「強い方と戦いたい、などという青臭い考えは捨てねばならん。勝てる方と戦って確実に勝利を拾っていかねばな」

勝頼は面の下で自嘲を含んだ笑みを浮かべた。

我が配下の兵と黒い甲冑の武人の兵がぶつかり合い、激しい戦いが始まった。

そして死者の兵をなぎ倒す黒い甲冑の武人の豪快にして精妙な槍捌き。

「やはり大したものよ。一騎打ちをすれば私では勝てんな」

勝頼は冷静にそう判断した。

「だが若武者よ。お主の方はどうであろうな」

勝頼は槍をしごき、青い軍装の青年の方に向かって疾走した。

「!」

若武者は一瞬驚愕の表情を浮かべたものの、すぐさま爽やかな笑みを浮かべ、一騎打ちに応じる姿勢を見せた。

その表情から察するに相手はこちらが武田勝頼だということを知っており、敬意を表しながら武勇を全力で競ってみたいという純粋な意志が露わとなっていた。

「ふっ、若いな。今の私にはまばゆいばかりだ」

勝頼は心地良さと同時に、己が失い、二度と戻らぬ純粋なまでの武への嫉妬を感じながら槍を突き出した。


重成は勝頼の槍の一撃を払いのけた。

(張飛の一撃に比べれば……)

遥かに軽い。腕に痺れが残ることもなく、充分に防ぐことが出来る。だがその技は精密であり隙が少なかった。

重成は脱力を効かせながら反撃に出た。首筋を貫くべく雷火の如き突きを見舞ったが、勝頼は槍の柄で巧みに受け流した。

二人の槍の応酬はたちまち数十合に達したが、お互いの槍が相手の体を捉えることはなかった。

馬上槍の腕前は全くの互角であった。

(先に隙を見せた方が敗れる……!)

ここから先は技量の差ではなく精神力、集中力を競う戦いになるであろう。

先に心胆が尽きた方が槍先に肉体を穿たれる。

重成、そして同様に勝頼も配下の兵を操ることも他で繰り広げられている戦のことも忘れ、ただ槍を振るだけの精密な機械へと化していった。


「ちっ、また夏侯淵と孫堅が来やがったか。さらに東夷の武人が加わってやがる」

二人の東夷の武将、木村重成と後藤又兵衛を討ち損じた怒りがまだ冷めやらぬ張飛が喚いた。

再び怨敵である孫権の父が討てる機会が巡って来たという喜びは不思議と全く湧いてこなかった。

中華の武人とは全く違う性質の武を持つ二人の武人と全力で戦った興奮と、結局彼らが四郎勝頼の方へ向かったことへの無念に心が支配されていたからである。

「それに、大分体力を消費しちまった。流石に今の状態であの三人とやり合うのはまずいな」

己の比類ない剛勇に絶対の自信を持つ張飛であるが、流石にそう判断せざるを得ない。

夏侯淵、孫堅の実力は先程の戦いで充分知り尽くしている。さらにそこに新たなる東夷の武人が加わるのである。

「あの武人も只者じゃねえな」

気力体力の消費を感じ、慎重にならざるを得ない張飛の眼は看破した。

かの武人は隻眼にして貧相な小男であり、既に年老いているようだが、相当な数の戦場をくぐり抜けていること、そして長きにわたる鍛錬によって独自の武の境地に達していることは間違いないようである。

「ここは一旦、退くしかねえか……?」

その考えが過った瞬間、強力な光を帯びた矢が流星のように張飛の豹頭を穿たんと飛来してきた。

「ええい、畜生!」

張飛は怒号しながら蛇矛を振るって矢を弾き返した。

矢を放った張本人である夏侯淵が深沈たる光を湛えた鷹の如き眼で張飛を見ている。

その眼は張飛の心に浮かんだ撤退の意志を見抜き、そうはさせんという鋼の意志を無言のまま雄弁に語っていた。

「!!」

その眼を見て、張飛は一瞬で慎重さと敗北の予感を忘れ、活火山の如き憤怒と闘志に身を任せた。

「この張益徳が貴様ら如きに恐れをなすと思うか!三人まとめてかかって来い!五体切り刻んで見分けがつかぬようにしてくれる!」

張飛は怒髪冠を衝き、まなじりが裂けんばかりに見開きながら馬腹を蹴りつけ、魔人の如き勢いで蛇矛でを振り回した。


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