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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十八話  決意

「張飛殿ー!!」

鉄をも断ち切る分厚い刃のような気迫が込められた声が氷雪吹き荒れるニブルヘイムの戦場に鳴り響いた。

「おお、勝頼殿か!」

虎髭に覆われた張飛のいかつい顔が歓喜に耀いた。

(やはり武田四郎勝頼か……)

内心の衝撃を抑えながら重成と又兵衛は新たなる敵将へと視線を向けた。

その武将は激しい怒りを表す烈勢面を被っている為に素顔は見えない。

だが槍を構えるその隙の無さといい、発される覇気といい、相当武勇に優れていることは明白であった。

いや、特筆すべきは個人的な武勇ではないだろう。その兵を従える威容である。

常に先頭に立って幾度も敵陣を破り、城を落としてきたであろう熟練の猛将としての風格を漂わせていた。

(勇猛さでは父である信玄を超えていると称されるだけはあるな)

一瞬感嘆の念に震えた若き勇将と戦人であったが、別方向からやって来た気配を感じ、互いに頷き合った。

そして言葉を発することなく次なる行動をとるべく再び騎乗の人となり、張飛を無視して武田勝頼に向かって疾走を始めた。

二頭の軍馬は恐るべき大喝を放った忌まわしき存在から逃れられることを歓喜するように雄々しい嘶きを発し、見事な走りを見せる。

(やはり張飛以外の相手ではまだまだ戦える!)

そうである以上、張飛との戦いは断念し、自分たちは武田勝頼と戦う事に専念すべきであろう。

(張飛はあれ程の大喝は当分の使えないはずだ)

重成と又兵衛はそう見ていた。あのような凄まじい気を日に幾度も放てるはずがない。

あの大喝は日頃練りに練った気を極限に追い込まれたことによってようやく爆発させることが出来るのであろう。

一度爆発させた以上、数日、いや数か月は使えないと見て間違いはあるまい。

(そして張飛は自覚していないかも知れんが、あの大喝によって体力気力共にかなり消耗しているだろう。孫堅殿や夏侯淵に任せておけば、彼らが討ち取ってくれるやも知れん。そして我らは四郎勝頼を討つ!)

重成と又兵衛の決意を受けてオーク兵達も武器をかざしながら風林火山の旗を掲げる死者の軍勢に向かって突撃を開始した。


「ふむ。北畠顕家と関羽は一騎打ちに興じておるな。しばらく決着がつきそうにない。そして重成と又兵衛は四郎勝頼に向かって行くか」

今川義元が新たに展開される合戦の様相を見ながら考えに沈んだ。そして後ろを振り返り、異形の軍師に視線を送った。

「……」

山本勘助は義元の視線に、そしてそれが早く策を示せという命令であることを理解したであろうが、俯いたまま無言を貫いていた。

「ちっ!」

義元は鋭く舌打ちをし、再び前方を向いた。やはり此度は勘助の軍略に頼らず、自身が決断を下さねばならないようである。

「張飛には夏侯淵、孫堅、勘助が当たれ。そして我と典厩信繁、グスタフアドルフで信玄の軍団と戦うぞ」

「おう!」

勘助以外の諸将は闘志に満ち溢れた声で応じた。

「勘助よ」

義元が冷ややかな声で覇気のない軍師に声をかけた。

「この戦ばかりは軍略が立てられぬというならば、それでよい。だがせめて一軍の将としては働いもらうぞ。勝頼ではなく、張飛であれば戦えるであろう。あの三国志の猛将、万人の敵張益徳だぞ。武人としてこれ以上戦いがいのある敵はおるまい。胸が躍るであろうが」

「御意……」

「では参ろうぞ!」

義元はもはや勘助を一顧だにせず、勢いよく軍馬を駆り立て武田信玄がいる方向に疾走した。

それに合わせて夏侯淵、孫堅、グスタフアドルフがそれぞれの敵手に向かって行く。

「勘助よ」

典厩信繁が勘助に近づきながら声をかけた。

「私は兄を、信玄をこの手で討つぞ。そのことに最早一切の迷いは無い」

「信繁様……」

勘助の独眼が驚愕と憂いを帯びて見開く。

(やはり、この御方は強い。常は控えめで、春風のように温和であるが、芯は鋼の如き強靭であることがこの御方の本質なのだ。実の兄を、かつての主君と戦うことへの躊躇いを完全に絶ち切っておられる……)

「四郎は必ずや重成と又兵衛が討ってくれよう。これでよい。これでよいのだ」

「……」

「さあ、勘助よ。お前はその手で必ず張飛を討て。これは今のお前の主君である、私の命令だ。違えることは断じて許さぬ」

「……」

「さあ、行くぞ。信玄の首は義元公やグスタフ殿には断じて渡さぬ。お前も張飛の首、孫堅殿や夏侯淵殿に渡すな」

そう言って信繁は連銭葦毛の軍馬の馬腹を蹴り、雄々しく駆けて行った。

「四郎様、御館様、信繁様……」

勘助はかつて戦国最強を謳われた在りし日の栄光の武田家を思い、涙をにじませた。

そしてその武田家が光と闇の陣営に分かれ、不俱戴天の敵となって戦わねばならないこと、そしてただ一人己のみがその戦いに加わることに対して未だ怖れと迷いを捨てれずにいることに忸怩たる思いを抱いた。

(そしてそんなそれがしを慮って、義元公も信繁様も信玄公や四郎様ではなく張飛と戦えと命令を下されたのだ)

かつて武田家の軍配を預かった身として、戦の鬼と恐れられた身としてこれ程不甲斐ないことはあるまい。

(そうだ、張飛は何としてもこの手で討たねばならぬ。これ以上無様を晒すことは断じて許されぬ)

勘助は四郎への思いを必死にねじ伏せ、槍を握り万人の敵がいる方向に独眼を向けた。




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