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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十七話  接近

重成殿!ええい、くそ動けい!」

常は誰よりも重厚で不敵であるはずの又兵衛が焦りと緊張を露わにして愛弟子の危機を救うべく騎乗する馬の腹を蹴りつける。

しかし漆黒の神馬は主の怒りを受けても苦し気に頭を振るのみで、やはり命令に従おうとはしない。

「この駄馬めが!」

又兵衛は鋭く舌打ちすると、巨体でありながら驚く程の俊敏な動きで身を翻して馬から降りた。

そして滑るように氷原を走り、馬上の張飛に向かって槍を繰り出した。

「うお、こ奴!」

あと数合で東夷の若武者を討ち取れると確信を得ていた張飛が横合いから不意に槍を着けられ、憤怒の表情を浮かべる。

又兵衛は間断なく豪槍を繰り出すが、やはり地上から徒歩の状態で馬上の敵相手では圧倒的に不利である。

すぐに攻守が入れ替わり、張飛の馬上からの蛇矛の攻撃に又兵衛が苦しむことになった。

「又兵衛殿!」

師であり父とも慕う戦人を討たせてなるものかと重成は覚悟を決め、馬から飛び降りた。

そして再び又兵衛と二体一心になるべく呼吸を合わせ、脱力を効かせながら槍技を尽くした。

「小賢しいわ!馬から降りた状態でこの馬上の張益徳を討てると思うてか!」

張飛の言う通りであった。馬上の敵に対して徒歩であっては二人がかりであっても互角には戦えない。

重成と又兵衛は嵐のように降り注ぐ張飛の蛇矛の曲がりくねった矛先を防ぐことに必死にならねばならなかった。

張飛の攻撃が二人に分散されることでようやく生き長らえている状態である。

一人であれば、既に暗黒の気を纏った鋼鉄の蛇によって体が食い破られていたであろう。

(このままでは二人ともやられる……)

重成と又兵衛の胸中に黒い鉛のような絶望と敗北の予感が広がった。

その時、白銀の氷原に砕かれたオーク兵の残骸と死者の兵の肉片が散らばるニブルヘイム戦場に異変が起こった。

重成と又兵衛の五体の活力と神気を一気に高める聖なる力がすぐ側にまでやって来たのである。

(風林火山の力が増した!)

窮地に追い込まれ、逃れられぬ死に再び捕食されることに否応なく覚悟を決めようとしていた重成と又兵衛の顔貌が歓喜と希望に耀いた。

氷の要塞で籠城していた同胞達が援軍としてやって来た自分達と合流すべく軍を率いてやって来たに違いない。

そして武田信繁、山本勘助、そして孫堅が持つ風林火山の力と彼らの盟主である北畠顕家の風林火山の力が合わさることによって相乗効果を生み、かつてなかった威力を発しているのだろう。

これならば馬上の張飛をも討てるのではないかと若武者と古豪の戦人は胸を躍らせた。

しかしすぐに五体に満ち溢れる聖なる力をかき消すような別の力が戦場にやって来たのである。

(これは暗黒の力を帯びているが、やはり風林火山に違いない。武田信玄が近づいて来ているのか)

重成と又兵衛に戦慄が走った。

戦国時代最強の兵団を率いた最高の名将。重成と又兵衛よりも先の時代の人物であるが、その逸話、多くの合戦を制したその重厚にして緻密に練りあげられた軍略について学んでいない戦国武士は存在しないと言っていいだろう。

戦国の覇者として先鞭をつけた存在であるかの織田信長でさえも武田信玄を恐れ彼との戦は徹底的に避け、屈辱的なまでに低姿勢な外交に臨んでいたというし、重成と又兵衛を地上において死に追いやった大敵である徳川家康も信玄に大敗し、それ以後は師として仰ぎその軍法を取りいれたという。

日の本の歴史における風林火山の担い手として北畠顕家に匹敵する存在であることは疑いない。

彼が率いる死者が掲げる風林火山の旗の暗黒の力は、北畠顕家の風林火山の旗の聖なる力に匹敵し、互いに打ち消し合うことが可能だとしても不思議ではない。

そして重成と又兵衛は察知した。武田信玄以外にもう一人、暗黒の風林火山の力を発揮する武将がいることを。

(何者だ……?)

重成と又兵衛は武田軍団を率いた伝説的な名将の名を思い出していた。

四天王と呼ばれた重臣中の重臣である不死身の鬼美濃こと馬場信春(ばばのぶはる)内藤昌豊(ないとうまさとよ)、赤備えを率いた山県昌景(やまがたまさかげ)、山本勘助の軍略の弟子であった高坂昌信(こうさかまさのぶ)、それに真田幸村の祖父である真田幸綱、そして……。

(信玄公の跡を継いで甲斐武田家を率いた武田勝頼。まさかあの武人か!)

恐らく間違いないだろう。信玄が落とせなかった高天神城を落として父を超える勇猛さを発揮しながら織田信長に敗れ自刃した悲劇の武田家当主。

間違いないだろう。武田家の父子が揃うことによって暗黒の風林火山の旗の力は北畠顕家、武田典厩信繁、山本勘助、孫堅による四人の聖なる風林火山の力と五部の力を放つことが出来るのだろう。





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