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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十五話  不俱戴天の敵

「益徳!」

関羽は生涯最大の恐るべき敵と刃を交わしながら、生まれた日は違えども、同年同月同日に死せん事を願った義兄弟が窮地に陥ったことを鋭敏に察知し、思わず声を上げた。

「詐術を用いて誘い込み、二人がかりで仕留めるか。いかにも下郎どもらしい小賢しい真似よ」

仮面の武人がニブルヘイムの氷雪よりも冷え冷えとした声で言った。

この声から察するに、この北畠顕家という男は己の同胞であるはずの副将達が討たれても微塵も心を動かすことは無いだろう。

いや例えそれが血がつながった肉親が眼の前で殺されたとしてもその冷徹さには刃こぼれ一つ生ぜず、ただひたすらに己の目的を果たすべく邁進するのではないか。

類を絶した恐るべき胆力、精神力である。青年期に入ったばかりであろう若さにも関わらず、いかにすればこれ程の境地に達することが出来るのか。

関羽は慄然とした。生まれて初めての経験であったかも知れない。

「ええい、どけい!」

関羽は義弟の元に駆け付けるべく、己の武と暗黒の闘気を極限まで込めて青龍偃月刀を振るう。

倒せずともよい。敵が一瞬でもたじろいで隙を見せれば、それで充分なのである。

そこに生じたわずかな時間で関羽は馬を飛ばして義弟の元に行くことが出来るのである。

しかしどれ程青龍偃月刀の刃が暗黒の闘気を奔出し、百万の雷光となって降り注がれても、仮面の武人が隙を見せることは無かった。

関羽が繰り出す強壮無類の斬撃を払うその武技はあくまでも柔らかく滑らかで、その体捌きは怒りと焦りで狂わんばかりの関羽を思わず陶然とさせるほど華麗で美しかった。

「武神関羽も存外大したことはないな」

仮面の武人が関羽の溶岩のように燃え盛る心をも瞬時に凍らせるような声で言った。

「己の部下に寝首を掻かれたような愚劣極まりない義弟の危機程度でこれ程うろたえるとは……。正直がっかりだ。漢寿亭侯に封じられ、協天大帝関聖帝君という神号が与えられても、所詮は成り上がりの下郎に過ぎぬという訳か」

「……!!」

仮面の武人の遠慮も容赦も一切ない言葉が関羽の心の最も脆い部分、最も触れられたくない劣等感を刺激し、全身の血が一瞬で沸騰して目がくらむ程の憤激を生じさせた。

仮面の武人北畠顕家はことさら挑発して関羽の動揺を誘おうという意図でこのような事を言ったわけではないのだろう。

ただ思ったことをそのまま口に出しただけに違いない。

その振る舞い、所作から察するに北畠顕家は高貴な血統、貴族として高度の教養を持つことを陶然のように誇り下賤な生まれ、成り上がり者を見下すことが常なのだろう。

その明白な事実がどれ程武を極め、千載の後まで語り継がれる程の武勲を積んでも決して払拭できない関羽の出自に対する暗い劣等感をかつてない程刺激した。

(この男だけは絶対に生かしておけぬ。この男こそ不俱戴天の敵だ。この関羽の全てを賭して討たねばならぬ……!!)

関羽の憎悪の標的が変わった。この仮面の武人に比べれば、同盟を破棄し敵と結んで己を捕らえ首を刎ねた卑劣な孫権と光の神に選ばれエインフェリアとなったその父親孫堅への憎しみももはや淡いものになったと言わざるを得ない。

何故なら、この北畠顕家は関羽を決して対等の存在とは認めないだろうし、強敵として畏敬の念を持つことも無いだろうからである。

高貴な生まれ育ちにごく当然の自負を持ち、塩の密売人の護衛という卑しい出自から成り上がった関羽をあくまで下賤の者と蔑み、成り上がり者はいかに努力をしようと成り上がり者でしかないと断ずるに違いないのだ。

(許せぬ、絶対に許せぬ。この万人の敵、最強の武を誇る関雲長を蔑む者、認めぬ者は。高貴な生まれを鼻にかける者は誰であろうと生かしておけぬ。この世から滅ぼし尽くさねばせねばならぬ。その為にこの関羽は暗黒の力を得て蘇ったのだ)

関羽は満腔の憎悪と怒りを込めて青龍偃月刀を振るった。これまで既に剛強を極めていたと思われた関羽の武であったが、ここに来てさらにその一撃に重さと勢いが増していた。

北畠顕家は完全に脱力しきった柔の技でこれを防いだが、ほんのわずか、紙一重ほどもない程の本当にかすかであったが、確かにその動きから滑らかさが損なわれた。



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