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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十二話  第31話  天賦の才

「北畠顕家!」

関羽の声はかつて遭遇したことの無い全く異種異様な敵に対する喜びと驚愕で弾んでいた。

刃を交える将の体格が少女のように小柄で華奢なこともあるが、さらに発せられた声から発するに驚く程若い、ようやく少年期を過ぎたばかりの年頃であると察せられたからである。

「まだ若いな。二十歳ぐらいではないのか?その若さでそしてそのような貧弱な体格でこのような特殊な、恐るべき武を身に着けるとは……!!一体地上でどのように生き、どのような戦を経たのだ?」

「これから死ぬ貴様が知る必要はない」

関羽の生まれて初めて発したかも知れない敬意と畏怖の念が込められた問いに対し、仮面の将は冷徹極まる態度で答えた。

「無礼者が!」

我が問いをあっさりとはねつけられ、関羽に生じた敵への敬意と畏怖の念は一瞬で霧消し、憤怒と殺意が全身を満たした。

「この関羽によくもそのような大言壮語を……!絶対に許さぬぞ、その奇怪な仮面ごと頭蓋を叩き割り、両手足を切り落としてくれよう」

関羽の憤怒によって暗黒の闘気がさらに増し、雷のように迸る。そして繰り出される青龍偃月刀の斬撃は天地を割り砕くような剛強極まりないものになっていった。

しかし仮面の将、北畠顕家は比類ない暴威に真っ向さらされても微塵も動揺していないようである。

その全身から発せられる気はさらに冷たく、澄んでいくようであり、繰り出される技はいよいよ柔らかく、滑らかになっていった。


「あの雲長兄いと真っ向からやり合える奴がいるとは……。しかもなんだよあの技は。見たことがねえ動きだ。あんな武があるのかよ。しかもあの仮面の武人の体格、女みてえじゃねえかよ。一体何者なんだ」

張飛は蛇矛を振るって戦うことを忘れ、義兄と仮面の武人の戦いに見入っていた。

「あの得物も武器も中原のものとは違う。やはり東夷の武人なんだろうが……。あり得ねえ、あんな動き。やはりあれは人間じゃなくて鬼神なんじゃねえのか」

張飛の金壺眼が張り裂けんばかりに開かれる。

「……綺麗だ」

張飛はため息を漏らしながらつぶやいた。

「雲長兄いの技も豪快そのもので見事だが、あの仮面の武人の動きは滑らかで柔らかくて、舞ってるみてえだ。全く対極的な二人の動きがお互いをより際立たせている。とても一騎打ちの殺し合いには見えねえ。神秘的な舞だ」

張飛は目下の者、能力のない者には酷薄極まりなく、残忍に振る舞うが、目上の者、才を持つ者は積極的に評価し素直に敬服する性格である。

特に仮面の武人のあまりに特殊でそれでいて我が義兄に匹敵する武に心から敬服した。

「ずっと見ていたいぜ。雲長兄い、出来ればすぐに奴をすぐに斬らずに、このまま一騎打ちを続けていてくれねえかな」

張飛は仮面の武人の異能を認めたものの、それでも関雲長が敗れるとは微塵も思わなかった。

「おっ、仮面の武人の配下の将か。あの鎧、やはり東夷の将らしいな。もう少し雲長兄いと仮面の将の戦いを楽しんでから、あの者共の首は俺が頂くことにしよう」


「あの見事な美髭、そして手にする青龍偃月刀……。あれが三国志の英雄、猛将関雲長か」

援軍として駆け付けた後藤又兵衛が呟いた。

先程までは援軍の主将でありながら後続を置いて一人だけ突出して敵と刃を交えた顕家に怒り心頭に発していたのだが、関羽と顕家の神話的な一騎打ちを目の当たりにして感嘆の念を抱いたようである。

「見ろ、重成殿」

又兵衛は共に援軍の将を務める愛弟子に語りかけた。

「あの関羽の武を。一人で一万人の兵に匹敵すると評されたというのも、大げさではないのかも知れぬな」

「顕家卿もその武に全く引けを取りませぬ」

重成は静かに応じた。

猿飛佐助に敗れた傷心も、顕家に抱く複雑な感情も忘れ、武の深奥に達した二人の武人の戦いに畏怖の念に打たれていた。

「うむ。まさに史上に類の無いであろう天賦の才よ。あの男はその時の戦、敵に応じてすぐさま己を進化させ、順応させるのであろうな」

又兵衛の顕家を評した言葉に重成は意表を突かれた。

「では、顕家卿は関羽以上の敵に会えば、またその場で強くなると……?」

「恐らくな。そもそも顕家は武士ではなく公家の生まれだ。武士である我らと違い、幼少の頃から武芸の鍛錬を積み、軍略を学ぶといったことはしていなかったはずだ。しかし南北朝の争乱によって否応なく十代の半ばという若さで合戦場に出ることによって、軍略と武芸をその場で瞬時に会得したのだ」

「何と……!!」

重成は余りの衝撃で二の句が継げなかった。しかし冷静に考えれば、又兵衛の言は正しいのだろう。公家である北畠顕家が厳しい武の鍛錬を積んだとは考えにくい。

「鍛錬によらず、生まれ持った才能だけで兵を率いては足利尊氏と互角に渡り合い、武勇では関羽と互角に渡り合うというのですか」

物心ついたころから血がにじむような武の鍛錬を積んできた重成である。しかし到底顕家に及ばないことは誰よりも承知していた。

その顕家は全くという程鍛錬はしておらず、生まれ持った才能だけであれ程の境地に達していたとは。

己と顕家にこれ程の才の差があったとは。

「……」

だが不思議とこの時ばかりは嫉妬を覚えなかった。

究極の剛の武を振るう関羽と互角に渡り合う顕家の武は武と呼ぶには余りに華麗で美しく、異種のものであった。

あのような人物が己と同じ日の本に生まれたことを、己と同様にエインフェリアに選ばれたことを重成は心から誇りに思った

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