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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百五十一話  対極の武

関羽の愛馬は主の強大な暗黒の闘気によってその肉体がより活性化されたのだろう、暗雲から(ほとばし)る雷光のような速度と勢いで駆け、ほんの数瞬で目的である敵の眼前まで到達した。

敵軍の眼にはまるで土地を縮ませて距離を短くする瞬間移動の仙術、縮地を使用したのではないかと疑わせたことだろう。

だが援軍を率いる仮面の将は微塵も動揺した様子はない。周囲の兵を呼び寄せて己を守らせようとはせず、逆に離れさせた。

己が振るう長柄の得物の邪魔にならないようにということだろう。

「ほう、一騎打ちに応じるということか。貧弱な体躯を侮られぬようにこけ脅しの仮面を被っている将にしてはなかなかの胆力ではないか……!それとも単にこの関羽の武勇を推し量れぬだけのうつけに過ぎないのか」

敵を侮るのが関羽の最大の性格的欠点だろう。そこを突かれて呉の呂蒙の計略に敗れ、首を刎ねられることとなったのだが、一度死んでもその欠点は改まっていないようである。

それどころか、死者の軍勢の将として蘇り、強大な暗黒の力を得てその武勇がより強剛となり、雄壮無比の存在となったことで傲慢不遜さもより強まったようである。

(この関羽に匹敵する武勇など、この天地において存在するはずなど無い)

その確信を込めて関羽は青龍偃月刀を真一文字に振り下ろした。

小癪な仮面ごと頭蓋を、胴体を叩き割り、そして乗る馬も両断されるだろう。

関羽の脳裏にニブルヘイムの白銀の雪原に鮮血の真紅の華が開く光景が鮮明に描かれた。

しかし我が両手に青龍偃月刀が肉と骨を断ち割る感触が伝わることが無かった。

(外した?そんな馬鹿な)

究極の力が込められた一撃である。奇怪な仮面を被って敵を威圧しようなどと企む愚昧な将にはその眼に映ることもないだろう。

ましてや振り下ろされる青龍偃月刀の刃に反応して躱すことなど絶対に不可能なはずである。

(少々力み過ぎた故、外してしまったか。それに標的から目を逸らしてたのもいけなかった)

己の過失であるととらえた関羽は気を引き締め、充分に力を込めながらもより精妙な操作を意識しながら横なぎの一撃を見舞った。

そして仮面を被ったまま首が血の尾を引いたまま宙を舞う光景を見逃すまいと、鳳眼をかっと見開きいて敵将を凝視した。

しかし関羽の眼に映ったのは、鬼面が宙に飛ぶ光景ではなかった。

敵将は己の刃を寝かせて関羽の青龍偃月刀の一撃の方向に沿って巧みに受け流したのである。

「なっ……!!」

関羽は全く想定していなかった光景を目にし、その巨体が一瞬硬直した。

己の一撃を凌いだ敵など地上における数十年に及ぶ戦いの記憶の中でも本当に稀である。

殆んどの敵を一撃で確実に仕留めることが出来た。それはかの袁紹軍における最強の猛将であった顔良も例外ではない。

張遼、徐晃、曹仁といった宿敵である魏の名将たちは関羽の一撃を防ぐことが出来たが、それとてもかろうじで刃で受け止めるのみであった。

強剛と迅速を極めた関羽の一撃を防ぐのではなく受け流すことは圧倒的な天賦の才、精妙を極めた技量の持ち主でないと不可能であろう。

そのような武才を持つ者はあの後漢末における三国鼎立の大乱世でも存在しなかったはずである。

(そのような天賦の武才を持っているというのか、このような貧弱な体躯の、こけおどしの仮面を被るような痴れ者が?)

そして関羽の一撃を完全な精度で受け流しきった仮面の将は恐ろしい速度で体勢を整え、長大な刃がついた、青龍偃月刀に似た長柄の得物を振るって反撃の一撃を繰り出した。

「小賢しい!そのような細い腕でこの関羽が斬れると思うてか!」

関羽は嘲笑しながら小癪な敵の反撃を弾き返そうと青龍偃月刀を構えた。

成程、確かに敵将の技量はなかなかのものである。しかしそれはあくまで防禦、敵の攻撃を躱す技のみで、このような貧弱な体躯ではどうしたって強烈な攻撃など繰り出せるはずもない。

我が鉄壁の防禦に成す術も無く弾き返され、腕が痺れて得物を握ることも出来なくなり取り落とすであろう。

しかしそのような関羽の予想を裏切る凄まじい速さの、まさに神速と言うべき一撃が眼前に迫ってきたのである。

余裕の表情であった関羽であったが、思わず全力で防御の構えを取った。

そして我が両腕に重い衝撃が伝わってきた。

「馬鹿な!こんなことはあり得ぬ。何故このような細腕でこれ程強烈な一撃が繰り出せるのだ!」

あり得ないことであった。

武勇とは剛力であり、剛力とは持って生まれた恵まれた体躯と鍛え抜かれた筋力で決定づけられるもののはずである。

戦場では小柄な者は巨躯の者には絶対に勝てないというのが道理であり、その道理はどれ程磨き抜かれた技術であっても決して覆せない。

それは人間を超越した存在であっても変わらぬはずである。

しかし今こうして刃を交えている小柄で華奢な仮面の武人は明らかにその道理を覆していた。

(何故だ!)

関羽は眼前に現出した現象が未だ信じられず、心中で叫びながらもその鳳眼を見開きながら仮面の将の五体の動きを注視した。

防禦の姿勢を取った関羽に対して仮面の将は長大な刃を矢継ぎ早に繰り出してくる。

その斬撃はまさに神速でありながら充分に重い威力が込められている。

そして関羽の眼は捉えた。仮面の将はそれだけの斬撃を繰り出しながらその両腕と胴体は全くという程力まれておらず、強張っていないということが。

(何ということだ。これが武術なのか?まるで舞踊ではないか……)

その動きは最高品質の絹のように滑らかで、冬解けした川の流れのように流麗そのものであった。

(これはこの関羽が知る中華の武術とは全く違う理合いのものだ。こういう武があるのか………」

刃を交わしているうちに関羽も仮面の将の武の本質が見えて来た。

この武人の力の淵源は完全に力を抜き切っていることにあるのだということを。

ほんのわずかの力も入れず、己の肉体を羽毛の如き軽いものにし、たゆまなく水が流れるようにほんの刹那の一瞬も動作を滞らせないことによって、究極の力と速さを生み出しているということを。

(まさに剛の武を極めたこの関羽とは対極の存在……)

久しく忘れていた敵への畏敬の念が関羽の胸中に勃然と沸き起こった。

「名を聞かせてもらおうおか、仮面の将よ!」

防禦に専念することを止め、再び青龍偃月刀の斬撃を繰り出しながら関羽は吠えるように名を問うた。

「鎮守府大将軍、北畠顕家」

仮面の武人はニブルヘイムに吹く吹雪よりも冷え冷えとした声で答えた。








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