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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百四十九話  卓抜な防御戦

「やはり我らの兵力で城を落とすことは不可能でしょうね。兵が少なすぎます」

配下の死者の兵に猛攻をかけさせながら、勝頼は応じた。

「その上、向こうには信繁がおるからな」

信玄は軍配を指で弄びながら言った。

「あの者は特に粘り強く隙の無い用兵をするからな。信繁が籠る城を落とすのは倍の兵力があっても困難であろうよ」

「ではやはり、敵の援軍の将を討ち、そのまま彼らをおびき出すと……」

「敵の援軍は必ず来る。それもそんなに先のことではあるまい」

信玄は言った。その表情はあまりに確信に満ちていたので、勝頼は不思議に思った。

「父上、それは……」

「兵の動きを見てわからぬか」

信玄は軍配の先を氷の城塞で防戦に努めるオーク兵に向けながら言った。

「あれは援軍の到来を確信している動きだ。あの兵共は命を持たぬ人形の兵であるが、操る主の意志と感情がにじみ出ておる。援軍が来ればこの状況がひっくり返ると確信を得ているのだ。間違いない」

勝頼は信玄の将として円熟の極みに達したことによって得た慧眼に圧倒された。

「それにしても……」

信玄は怪訝そうな表情を浮かべた。

「あの関羽と張飛の圧倒的な武勇を知りながら、勝利を期待できる援軍の将か。果たして何者であろうな」

「さて……」

勝頼は首を傾げた。かつて己が戦った敵の中で、関羽、張飛に匹敵するであろう武人と言えば……。

「徳川の将で本田忠勝と申す者がおりました。彼の者の豪勇は比類なく、あの織田信長から「張飛の如し」と評されたようです。確かに恐るべき武人でした。あの者ならば本当に張飛と互角に戦えるのやも知れません。しかし……」

エインフェリアに選ばれ、ヴァルハラに招かれる資格を持つ勇者は戦場にて見事な戦死を遂げた者に限られるという。

伝え聞くところでは本田忠勝は討ち死にすることなく病にて死去したらしい。ならばヴァルハラの軍勢に加わっていることはあるまい。

「儂が知る限りでは、不識庵上杉謙信しかおらぬ」

信玄は生涯最大最高の宿敵の名を挙げた。

「己の欲得を断ち切り、全てを毘沙門天への信仰に捧げることで得たあの神秘的な武勇であれば、正面から堂々と戦って関羽と張飛を討ち取ることも可能かも知れん」

「確かに。しかし謙信公は私が織田家に敗れて自害するより先に突如亡くなりました。大酒飲みだったそうですから、おそらくそれが原因でしょう。ヴァルハラに招かれることはありますまい」

「そうらしいな。あれ程戦に打ち込み、戦に全てを捧げて来た男が合戦場で堂々と討ち死にすることなく酒が原因であっけなく命を落とすことになるとは。さぞや無念であったろう」

信玄はもはや再会することが出来ないであろう宿敵を哀惜するような表情で言った。

「であれば……」

信玄の視線は激しい氷雪にも凍り付くことなく雄々しく翻る風林火山の旗に向けられた。

「我らより先の時代、南北朝の時代にて風林火山の旗を翻して戦ったというあの御仁であろうかな」

「ああ……」

勝頼は首を傾げた。

「確かにあの御仁は用兵の天才であることは疑いないでしょう。しかし個人的武勇に優れていたとは聞いておりません。二十歳やそこらで討ち死にした若者に関羽や張飛とやりあえるだけの武芸が修得出来るとは思えませんが……」

「まあ、いずれにせよすぐに分かる。楽しみに待とうではないか、エインフェリア最強の武勇の持ち主を。武勇に限っては疑うことなく死者の軍勢最強の関羽と張飛相手にどれ程通用するのか、見ものだわい」

信玄は珍しく笑みを浮かべながら言った。


「氷の城に籠城する人形兵共、堅実で隙の無い動きをしてやがるな。良い兵共だ」

張飛が金壺眼を見張りながら言った。

「夏侯淵も孫権のくそったれの親父も野戦の上手だが、籠城戦の経験はほとんど無いはずだ。今中心となって指揮しているのは武田信繁とかいう東夷の将だろう。全く地味だが良い将軍だな」

張飛の表情には感嘆の念と忌々しさが混在していた。最も苦手な型の将だからある。

「曹仁めを思い出す……」

関羽もまた静かな怒りを込めながら応じた。曹仁は魏王曹操の従兄弟であり、魏王朝における最大の名将と言っていいだろう。

関羽は樊城(はんじょう)に籠城する曹仁の卓抜な防御を崩すことが出来ずに撤退している。そしてその間に寝返った孫権に本拠地を陥落されたのである。

「む‼……」

しかめ面だった関羽の表情が変わった。

「どうした雲長兄い?」

「ヴァルハラの援軍がやって来たようだ」

関羽が喜悦を露わにしながら応じた。

「そうなのかい?俺には全く気配が感じられないが……」

張飛は目を細めながら遠くに目をやった。しかし目に映るのは相変わらず氷雪と氷山のみである。

「間違いない。奇襲をかける為だろう。気配を殺し、馬にも(ばい)をかけさせているのだろうな。だが新たな力を得たこの関雲長の警戒網をかいくぐることなど不可能よ」

関羽の鳳眼に凄まじい光が灯り、全身から暗黒の気が発散される。

「恐るべき速度で迫って来ている。益徳、陣を敷け」

義弟に指示を出しつつ、関羽もまた配下の死者の兵を動かした。




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