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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百四十五話  再会

「ヴァルハラの方々!」

武田信玄の朗々たる声がニブルヘイムの白銀の大地に屹立する氷雪の城塞に響いた。

その声は無形の砲弾と化してヴァルハラの将の鉄腸に痛撃を与えたのは疑いなかった。

「我はロキ殿とヘル殿より死者の軍勢の総大将の任を賜った武田徳栄軒信玄と申す者。これより貴殿らの城を弓箭もて落とす前に挨拶を述べさせていただきたい」

「……」

氷雪の砦からは何の反応も無い。全ての将兵が凍り付いたかのように静まり返っていた。

「いるのであろう、我が弟にして我が軍の副将であった典厩信繁。そして軍配を授けし我が軍師であった山本勘助よ。久しぶりに顔を見せてくれ」

「……」

信玄の奇妙なまでに深く澄んだ声に操られたかのように三人の武将が本丸の櫓に姿を現した。

「おお、信繁、勘助。久しいな。それに……」

信玄の眼がかつての重臣にではなく、その二人を従えた胸白の鎧に金の八竜を打った五枚兜をかぶり、赤地の錦の陣羽織を着込んだ武将へと注がれた。

今川治部大輔(いまがわじぶだゆう)殿ではござらぬか。貴殿が此度の戦の大将を務められておられるのか」

「いかにも。久しいな信玄よ。こうして直接顔を合わせるのは善徳寺での会談以来か?」

「左様ですな。それにしても貴殿までもがこの天上の世界に、しかも我らが滅すべき敵陣営におられるとは。かつては同盟を組み、婚姻関係を結びましたが、戦う運命とあいなりましたか。真残念至極にござる」

「ふん、ぬけぬけと申すな。我が桶狭間にて信長に討たれた後、早々に同盟を破って我が領土たる駿河に攻め寄せたくせに」

「……」

義元になじられても信玄は眉一つ動かさず重厚な微笑を浮かべたままであった。

「その不義理に対する罰を今こそ与えてやろう。かつては貴様の両翼であった典厩信繁と勘助を我が両翼としたその力でな」

「ほう……」

信玄の深沈とした瞳の色が不思議な熱を帯び、かつての我が両翼へと注がれた。

「信繁、勘助。治部大輔殿を補佐してかつての主君たるわしを滅ぼすと申すのか?」

「いかにも!」

信繁は烈々たる大音声で答えた。常は温和なその顔は猛火が吹き出でんばかりの気迫と武威に満たされ、鬼神もこれを避けるではないかと思われる程であった。

「貴殿はもはや我が兄でも主君でもない。おぞましき死者の兵を率いる邪神の走狗に過ぎぬ。滅ぼす以外に救いは無い。その為ならばこの信繁、鬼にもなって見せようぞ」

「よくぞ申した。流石は武士の亀鑑、真の副将典厩信繁よな」

信玄は心底感嘆したように言った。信玄は一見温和で従順な我が弟が金剛石の如き意思の強固さと古今稀なる賢明さを併せ持つ真の武士であることを誰よりも承知している。

情に訴えて調略することも屈服させることも不可能だと瞬時に見切ったようである。

「勘助よ、お主もやはり同じか?」

「……」

勘助は沈黙でもって応じた。

「そう言えばお主はわしより先に治部大輔殿の元に仕官を望んだのであったな。本願が叶ったということか?」

「……」

「いや、そんなことはどうでもよくて、かつて共に風林火山の旗の下で戦い、お互い手の内を知り尽くしたこの信玄と脳漿を絞り尽くして軍略を競い合い、戦の真髄を極め尽くしたい、それがお主の望みか。お主はそういう男であったな、勘助よ」

「それがしは……」

「勘助!」

先程まで我が父信玄と我が叔父信繁の対話を見守っていた勝頼であったが、我が傅役であった隻眼の武人への懐かしさに耐えきられずに進み出た。

そして雄々しい怒りを模した鼻と髭を飾った面貌である烈勢面を取り、その顔貌をさらした。

「勘助よ私だ、分かるか?四郎勝頼だ」

「……!!」

勘助の浅黒い顔が一瞬凍り付いたように白くなったとに思われたが、すぐにその眼帯を着けぬ方の眼に涙がにじんだ。

「おお、四郎様、おお……。何とご立派になられて……」

「立派、立派と申すか」

勝頼はほろ苦い笑みを浮かべるしかなかった。

「確かに体だけはこの通り、立派になったのかも知れんな。お前と最後に会った時、私はほんの小僧に過ぎなかった。今の私はもはや壮年よァルハラの方々!」

武田信玄の朗々たる声がニブルヘイムの白銀の大地に屹立する氷雪の城塞に響いた。

その声は無形の砲弾と化してヴァルハラの将の鉄腸に痛撃を与えたのは疑いなかった。

「我はロキ殿とヘル殿より死者の軍勢の総大将の任を賜った武田徳栄軒信玄と申す者。これより貴殿らの城を弓箭もて落とす前に挨拶を述べさせていただきたい」

「……」

氷雪の砦からは何の反応も無い。全ての将兵が凍り付いたかのように静まり返っていた。

「いるのであろう、我が弟にして我が軍の副将であった典厩信繁。そして軍配を授けし我が軍師であった山本勘助よ。久しぶりに顔を見せてくれ」

「……」

信玄の奇妙なまでに深く澄んだ声に操られたかのように三人の武将が本丸の櫓に姿を現した。

「おお、信繁、勘助。久しいな。それに……」

信玄の眼がかつての重臣にではなく、その二人を従えた胸白の鎧に金の八竜を打った五枚兜をかぶり、赤地の錦の陣羽織を着込んだ武将へと注がれた。

今川治部大輔(いまがわじぶだゆう)殿ではござらぬか。貴殿が此度の戦の大将を務められておられるのか」

「いかにも。久しいな信玄よ。こうして直接顔を合わせるのは善徳寺での会談以来か?」

「左様ですな。それにしても貴殿までもがこの天上の世界に、しかも我らが滅すべき敵陣営におられるとは。かつては同盟を組み、婚姻関係を結びましたが、戦う運命とあいなりましたか。真残念至極にござる」

「ふん、ぬけぬけと申すな。我が桶狭間にて信長に討たれた後、早々に同盟を破って我が領土たる駿河に攻め寄せたくせに」

「……」

義元になじられても信玄は眉一つ動かさず重厚な微笑を浮かべたままであった。

「その不義理に対する罰を今こそ与えてやろう。かつては貴様の両翼であった典厩信繁と勘助を我が両翼としたその力でな」

「ほう……」

信玄の深沈とした瞳の色が不思議な熱を帯び、かつての我が両翼へと注がれた。

「信繁、勘助。治部大輔殿を補佐してかつての主君たるわしを滅ぼすと申すのか?」

「いかにも!」

信繁は烈々たる大音声で答えた。常は温和なその顔は猛火が吹き出でんばかりの気迫と武威に満たされ、鬼神もこれを避けるではないかと思われる程であった。

「貴殿はもはや我が兄でも主君でもない。おぞましき死者の兵を率いる邪神の走狗に過ぎぬ。滅ぼす以外に救いは無い。その為ならばこの信繁、鬼にもなって見せようぞ」

「よくぞ申した。流石は武士の亀鑑、真の副将典厩信繁よな」

信玄は心底感嘆したように言った。信玄は一見温和で従順な我が弟が金剛石の如き意思の強固さと古今稀なる賢明さを併せ持つ真の武士であることを誰よりも承知している。

情に訴えて調略することも屈服させることも不可能だと瞬時に見切ったようである。

「勘助よ、お主もやはり同じか?」

「……」

勘助は沈黙でもって応じた。

「そう言えばお主はわしより先に治部大輔殿の元に仕官を望んだのであったな。本願が叶ったということか?」

「……」

「いや、そんなことはどうでもよくて、かつて共に風林火山の旗の下で戦い、お互い手の内を知り尽くしたこの信玄と脳漿を絞り尽くして軍略を競い合い、戦の真髄を極め尽くしたい、それがお主の望みか。お主はそういう男であったな、勘助よ」

「御館様、それがしは……」

「勘助!」

先程まで我が父信玄と我が叔父信繁の対話を無言で見守っていた勝頼であったが、我が傅役であった隻眼の武人への懐かしさに耐えきられずに進み出た。

そして雄々しい怒りを模した鼻と髭を飾った面貌である烈勢面を取り、その顔貌をさらした。


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