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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第八章  風林火山の旗の下
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第百四十三話 誘導

「とう!」

勝頼が裂帛の気合と共に刺突を繰り出し、霜の巨人の頭部を突き砕いた。

「よし!これで最後の巨人を仕留めたな」

張飛は己の虎髭にこびりついた氷雪を払いながら吠えるように言った。

「……」

関羽は青龍偃月刀を油断なく構えながら、険しい表情でなおも警戒を怠らない様子である。

「何だったんだ、こいつら。数こそ少なかったが、今までの奴らとは全く別格の強さだ」

「霜の巨人達の上位種と申すべき存在なのでしょうか」

張飛と勝頼が謎の存在について議論をしていると、旗本を引き連れて信玄がやって来た。

「少なくない兵が討たれてしまったようだな」

信玄は頭部を打ち砕かれて最早復活出来なくなった死者の兵の残骸を見ながら言った。

「一度死んだ兵共を再び滅ぼすとは、話に聞いていたより霜の巨人とは強力な存在であるらしい」

「……おそらくこれで終わりではあるまい」

関羽が重々しく言った。その声には信玄に対する強烈な対抗心が込められておらず、予言を告げるような神秘的な響きがあっったので三人の将は瞠目した。

「また奴らの攻撃が来るだろう。さらに強大な存在へと進化してな」

「雲長兄い、それは……」

「無論、根拠を説明しろと言われてもそれは出来ん。奴らの正体など何一つ分かってはおらぬ」

関羽はずしりと肚に響くような声で義弟に応えた。

「だが確かな予感がするのだ」

「関羽殿がそう仰るのなら、そうなのでしょうな」

信玄が頷いた。信玄は慇懃な態度を取りながらも内心では関羽の人柄、将としての力量は軽侮している。しかし傑出した武人としての並外れた直観力は信じるに足ると評価したのだろう。

「いつ頃現れるか、予測はつきますかな?」

「……そこまでは分からん」

関羽は忌々し気に答えた。一瞬忘れていた信玄への嫌悪、反感が蘇ってきたらしい。

「父上、関羽殿、我らはどのように動きましょう」

関羽が激発するのを抑える為に勝成は常よりも恭しい態度で問うた。

「またも霜の巨人が強化して現れるとしても、まだかなり先ではありませんかな、関羽殿」

「……恐らくな」

関羽は信玄に敵意がこもった視線を向けながら静かに答えた。

「ならば先にヴァルハラの軍勢を討つべきでござるな」

信玄は迷うことなく言った。

「霜の巨人達はどういう訳かヴァルハラの軍勢は眼中に無いようであった。まあ、先に彼らを攻撃して散多くの者を打倒した故かも知れんが。奴らの考え、習性はまるで分からぬ。この先も攻撃を仕掛けるのは我らだけなのか。あるいは少しでもヴァルハラの者共に攻撃されたら彼らにも矛先を向けるのか」

「ふむ……」

「いずれにせよ、次に霜の巨人の攻撃が来た際、必ずヴァルハラの者共は上手くそれを利用して我らに致命的な痛撃を与えようとするだろう。そうなると非常に厄介だ」

「確かに。そうなる前にヴァルハラの連中を殲滅しようという訳だな」

張飛が得たりと応じた。

「左様。先程の戦にて確信し申した。関羽殿と張飛殿であれば次は確実にヴァルハラの将を討てるでしょう。我らの勝ちは動きませぬ」

「ああ。憎き孫権の父親と夏侯淵の野郎を何としてもこの手で討たねばならねえ。なあ、雲長兄い」

「うむ」

関羽がその鳳眼に怒りと憎悪をたぎらせながら頷いた。そしてその表情には余裕がある。孫堅の武勇を完全に見切り、次に刃を交えれば確実に討てると確信しているのだろう。

「では参りますかな」

信玄は微笑を浮かべながら言った。

(全く上手いものだな)

勝頼は内心感嘆した。己に対して露骨に反感を示し、指示などには耳を貸さぬであろう関羽に対してその過剰すぎる自尊心を巧みにくすぐり、さらに怨敵へと闘志を向けさせることで結果として意のまままに操っている。

見事すぎる人心操作術と言うしかない。

己に敵意を向ける相手であっても必要であればどこまでも辞を低くし、そうすることで巧みに己の欲する方向へと誘導する。まさにかつての勝頼に全く欠けていた姿勢である。

(俺もこのように振る舞えたのなら、ああまで無様な最期を遂げることも無かったのだろうな)

またも悔恨の苦い思いが胸を満たす。だが勝頼はその思いを振り払い、きっと前を見つめた。

(今から父のこの姿勢を取り入れればよい。必要であれば、味方であってもいや、敵であっても這いつくばり、犬の真似でもして見せよう。自尊心など完全に捨て去るのだ。真の勝利と栄光を掴むためならば……)

四人の将はヴァルハラ軍の気配を追って進軍を開始した。



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