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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第一章  戦死者の宮殿
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第十三話    オーク

夜になった。空には氷輪の如く冴えた月がかかり、星はまばらである。肌に心地良い風が吹き、雪かと身紛う白い花びらの一片が宙に舞った。梅の花に似ているようだが、地上にある花と同じなのだろうか、と重成は思った。

重成達五人はヴァルハラの中庭に集められていた。数千の燭台をつらねた石造りの中庭である。


「貴方達エインフェリアに最も重要な技法を覚えてもらいます」


再び甲冑姿となったブリュンヒルデが言った。

彼女の前には武装した等身大の人形が十体並べられている。遠目から見れば人間と判別できない精工なつくりである。


「この人形は・・・・?」


「樫の木にルーン魔術を施して造られた人形兵、オークです」


人形の顔をコツコツ叩きながら問うエドワードにブリュンヒルデが答えた。


「貴方達の念に応えて自在に動くことができます」


「ほう、本当か。ではやってみるか。・・・・動け!」


又兵衛の声に応じて、一体のオークが足を動かして前に進んだ。


「すごい、本当に動いた。僕もやってみよう」


「ならば、私も・・・・」


又兵衛に続いて、エドワードと重成がオークを動かし、子供のような無邪気な歓声を上げた。


「・・・・で、この人形遊びがなんだというのだ?この人形を使って巨人どもと戦えと言うつもりなのか?」


ブリュンヒルデを睨みながら、ローランが苛立たし気に言った。


「その通りです」


ローランの苛立ちなど歯牙にもかけず、ブリュンヒルデは平然と答えた。


「エインフェリアの総数はおそらく数百名になるでしょう。ですがその戦力では到底魔軍に拮抗することはできません。そこでその不足を補うために造られたのがオーク兵です」


オーク兵はそれぞれ重成達の出身国に合わせて日本 、中国、 西洋の甲冑をまとっている。


「無論、オーク兵の戦闘力はエインフェリアには遠く及びません。ですが貴方達が神格を高め、ルーン魔術を極めることに応じてより多くのオーク兵を、より精密に動かすことが出来るようになるでしょう。


「どれぐらいの数の人形を動かすことが出来るんだ?」


「貴方達には最終的にそれぞれ千体のオーク兵を動かすことを目標に鍛錬に励んでもらいます」


「千体・・・・!」


「私が選んだ貴方達ならば、可能です」


ブリュンヒルデが断言したが、


「俺はそのような人形遊びに付き合う気はないぞ」

 

とローランは言い捨て、その場から立ち去ろうと踵を返した。


「お待ちなさい。勝手な振る舞いは許しませんよ」


「ブリュンヒルデよ。この際だからはっきり言っておくぞ。よく聞け」


ローランは振り返り、ブリュンヒルデをきっと睨みながら宣言するように言った。


「騎士の名にかけて、化物どもを滅ぼす為に最後まで戦ってやろう。それは約束してやる。だが、このローランは死しても、どこにいてもキリストに仕える身に代わりはない。汚れた魔術に手を染めることだけは断じてせん」


「汚れた魔術などと・・・・」


ブリュンヒルデはローランの無知と偏見を嘆くように頭を振った。


「ルーン魔術は、かつてオーディン様が片目を犠牲にすることと引き換えに得た、宇宙の法則を一時的に変換させる偉大なる知恵なのです。貴方が知る、悪魔との契約による黒魔術などと一緒にされては困ります」


「どちらにせよ一緒のことだ。キリスト以外の神によってもたらされた力など必要ない。俺はこの聖剣「デュランダル」のみを頼りに戦うのみ」


ローランは腰にある剣の黄金の柄を愛おし気になでると、力強い足取りで去っていった。


「なんて勝手な奴だ!」


エドワードが憤慨の声を上げた。


「あんな奴を選んだのは明らかに間違いだろう。仲間の結束を乱すためにいるようなものじゃないか」


「切支丹は頑固で容易に妥協せん輩と相場はきまっておるが、あ奴はまさに筋金入りだの」


そう評する又兵衛の声には嫌悪の色は無い。むしろローランの揺るぎない信念の強固さに好感を持った様子である。

元々又兵衛は切支丹の主君に仕えていたため、切支丹の教えに理解を持っていたし、時と場合に応じて容易に自分の考えを変えるような人間こそ最も唾棄すべきと思っている。


「明石全登殿を思いだしますね」


重成が言った。


「あの方は普段は寡黙でしたが、信仰に関しては別人のように猛々しく、一歩たりとも引かない御仁だった。大坂の陣から逃れた後、一体どうしていることやら・・・・」


「ローランのことは今は放っておきましょう。貴方達にはオークの操作とルーン魔術は必ず会得してもらいます。いいですね?」


ブリュンヒルデは強い言葉で念を押したが、


「人形兵の操作は覚えたいが、魔術とやらには興味が湧かんのう」


「私もだ。魔術に時間を費やすよりも武術を磨きたい」


生粋の武人である又兵衛と重成は乗り気ではない。


「僕は是非覚えたいな。元々、腕っぷしよりも学問の方が得意だったし、向いていると思う」


同じキリスト教徒でもエドワードの態度はローランとは真逆である。天性、知的好奇心が強く、信仰などはかえって邪魔としか思っていないのだろう。


「拙者も魔術のご教示を願いたい。若いエドワードと違って老いてしまった拙者に覚えられるかどうかは分からんが・・・・」


姜維は控えめに言ったが、言葉とは裏腹にその目には強い光が宿っている。ルーン魔術を、ヴァルハラに蓄えられた知識を余さず極めて見せるという執念が感じられた。


「・・・・まあいいでしょう。それぞれ得手不得手、興味の深浅があるでしょうから。それぞれが納得するやり方で鍛錬に励んでもらいましょう」


こうしてエインフェリア達の鍛錬の日々が始まった。基本は神気を高める為の瞑想と、オーク兵の操作である。それが済むと、重成、又兵衛、姜維が戦術、兵法について語り合う。

エドワードに乞われて重成が剣の型を教えていると、ローランが現れ、真剣を用いた試合を申し込んでくる。

重成とローランは互いに一切手加減することなく実戦そのものの気迫で打ち合った。

その間にエドワードは姜維がいるヴァルハラの書庫に行き、ルーン魔術の本を読み漁るといった様子である。

こうして月日は瞬く間に過ぎて行った。



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