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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
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第百三十五話  鶴翼の陣

「いえ、皆様。意外と早く決着がつくかも知れませんわ」

未だ神気と体力の消耗から回復しておらず、滝の様な汗を流しながらも興奮でわずかに頬を紅に染めながらゲンドゥルが言った。

「死者の軍勢の一部がこちらに向かって進軍してきています。それも凄まじい勢いで……」

ゲンドゥルの言葉を聞いた五人のエインフェリア達は気を研ぎすまして敵の気配を探った。

「この恐るべき二つの猛気。関羽と張飛だ。間違いない」

夏侯淵が確信を込めて静かに言った。

「信玄が率いる本隊は動いておらぬようだ。あえて軍を二つに分けてそれぞれ霜の巨人と我らと同時に戦うつもりか?信玄らしからぬやり方だな」

義元が不審げに言うと、勘助が応じた。

「いかにも。お館様ともあろう方が二正面作戦という下策を取る訳がありませぬ。おそらくこれは……」

「関羽と張飛が信玄とやらの統率から離れて勝手に動いているという訳か」

そう言って孫堅が夏侯淵に視線を送った。

「俺は奴らとは面識が浅いが、何となく分かるぜ。恐ろしく気位が高くて、滅多なことでは人の下には付かないってな」

「うむ。劉備以外の者の下で戦うことに未だ納得しておらぬのかも知れん」

夏侯淵がその無駄な肉が削ぎ堕ちた鋭角的な顔貌にわずかに忌々し気な表情を浮かべながら言った。

「何せ、我が主君孟徳にあれ程の恩を受けながら、それを振り切って劉備の元へ帰って行った男だからな」

「いずれにしても、これは千載一遇の好機ですな」

典厩信繁が決然として言った。

「兵の数が我らの半分程しか率いておらぬ以上、かの伝説の猛将、関羽と張飛でも討ち取ることは難しくないはず。そうなったら、我が兄信玄も恐れる必要は無い」

そうは言いながらも、これは何かの策なのではないかという疑いが捨てきれない表情である。

「よし、決めた。ここで関羽と張飛を討つ。その後で信玄の相手をしてくれよう」

義元は決然として言った。

「勘助よ、布陣の方は汝に任せる」

「心得ました」

勘助は恭しく一礼し、改めてオーク兵による軍勢にその隻眼を向けた。

「敵はおそらく関羽と張飛の二人が軍の先頭に立って攻め寄せて来るのだろう。ならば包囲してこれを追い詰め、討ち取ってくれる。鶴翼の陣!」

勘助は自身のオーク兵に念を送った。漆黒の具足を纏ったオーク兵が鉦をけたたましく打ち鳴らす。

するとオーク兵の軍勢は素早く、それでいながら整然と動き始めた。

その陣形は巨大な鳥が悠然と翼を広げたような三日月型であった。

「ほう、これが古代中国や日本で用いられた陣形か。成程、自軍の方が兵力が勝っていた時に仕える陣形であるな。一見防禦の為のようであるが、翼を閉じるようにして敵を包囲して行く訳だな」

グスタフが感嘆の声を上げた。

「いかにも」

勘助は嬉し気に頷き、後漢末の二人の武人に語り掛けた。

「夏侯淵殿、孫堅殿は遊軍を率いていただきたい。特に孫堅殿は……」

「囮になれってんだろ。分かってるよ」

孫堅は怒っているような、苦笑を浮かべているような複雑な表情で言った。

「ま、宿縁から言って、奴ら二人の首は俺たちで取らないとな。なあ、夏侯淵」

孫堅が水を向けると、夏侯淵は無言で頷いた。再び口を堅く閉ざしているが、その瞳には必殺の覚悟と信念が静かな炎となって鮮やかに燃え盛っていた。

弓矢を構え、弦の調子を改めていた夏侯淵であったが、厳しい表情で因縁のある敵がいる方向を睨んだ。

「大気が震えている……」

それぞれ敵を迎え撃つ準備を進めていた他のエインフェリア達も、寡黙な弓の達人の独語を聞いて、神経を研ぎ澄ませた。

「これは凄まじい怒り、怨念か?もはや狂気の域に達しておるのやも知れん」

常は余裕の笑みを浮かべている義元であるが、この時ばかりは顔貌が蒼白となり、唇が微かに震えていた。

「信じられんな。例え現在は闇の亡者と化したとはいえ人間が、かつては人間であった者がこのような強大な荒れ狂う気を発散できるものなのか?」

「これはまさに荒ぶる神の如き存在。闇の亡者も神の領域に達することが出来るということか」

信繁が言うと、勘助が頷いた。

「張飛はともかく、関羽は関聖帝君として祀られた紛う事無き神にございまする。唐土においては護国の神として信仰を集めていたようですが、今はロキに準ずる暗黒神へと変貌しようとしているのやも知れませぬな」

「あんなの相手に囮になれってのかよ」

常は勝気な孫堅が、全身に冷や汗をかき、明らかに弱気になっていた。

「恐れるな」

夏侯淵が鋭く叱咤した。常は極端に口数が少なく、控えめな彼らしくない物言いであった為、驚いた一同の視線が夏侯淵の痩せた顔貌に集まった。

「我らも光の神に選ばれ、いずれは神の領域に達することが出来る武人であろう。例え相手が荒ぶる暗黒神であろうと、必ず倒せる。必ず殺せる。恐れることなど何もない」

「その通りですわ、皆様方」

ゲンドゥルが嬉しそうに言った。

「敵の速度は恐るべきものがあります。激突するまで時間がありません。お急ぎ下さい。私も出来る限り神気を回復させて皆さま方の手助けをさせていただきます。必ずや勝利を我らの物に……」

力を消費し疲労の極みにありながら、勝利への渇望をその美しい顔貌に露わにする戦乙女を見て、五人の勇者達は力強く頷いた

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