表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
135/178

第百三十四話  双翼

「かー、やっぱ改めて見るとすげえな、この虹は」

「うむ。まさに神々の業と言うしかないな」

関羽と張飛とは遠く離れた場所で孫堅が感嘆の声を上げると、今川義元が同意した。

「そして美しいだけではありませぬ。エインフェリアとして精進し、神格が上がった今ならよく分かる。このビフレストの虹がいかに強大な神気によって描き出されているか、高度なルーン魔術が用いられているかが……」

勘助が独眼を細めながら言った。己もこの術が使えるようになりたい、ルーン魔術の奥義を極めたいという狂おしいまでの欲求が心を支配した。

「さあ皆さま方、やって来ますわよ」

ゲンドゥルが笑みを浮かべながら言った。その顔貌は青ざめ、滝の様に汗が流れている。やはりビフレストの虹をたった一人の力で構築するには尋常ならぬ程の神気の消耗、精神の酷使が必要とされるのだろう。

だがゲンドゥルの表情はこれまで以上に歓喜と誇りに耀いていた。己の存在と異能こそがこの戦の勝敗の鍵を握るのだという自負がそうさせるのだろう。

ビフレストの虹の鮮やかな七色の光がその強さを増した。あまりにも強烈な光彩であった為、エインフェリア達は思わず目をつむる。

白銀一色の世界であるニブルヘイムがその瞬間、神秘の七色の光が乱舞する夢幻的世界へと変貌を遂げた。

「……」

七色の光の輝きが止んだらしいとエインフェリア達はゆっくりと目を開ける。そして彼らは見た。

各地各時代の軍装に身を包んだ数万の兵が白い大地の上に整列しているのを。

「おお……」

戦国時代と三国時代の勇者達は感動と畏怖のため息をつかずにはいられなかった。

かつてアース神族の王、全知全能たるオーディンが自身の片目を引き換えにして得た、宇宙の法則を一時的に変換させるルーン魔術の奥義、真髄が現出させたこの世の奇跡。

この数万の軍団の中にあって己の血肉、意志を持つ者は数百人に過ぎず、残りは神聖な力で育った樫の木、オークで造られた人工の兵隊なのである。

五人の勇者達は意識を集中するまでもなく感じ取っていた。自分たちが率いるオーク兵もここに来ていると。

かつて駆け抜けた人間界、ミッドガルドの戦場とはあまりに異質な極寒の世界。刃を向けるべき敵手は人ならざる異形の巨人であり、闇の生命を得て蘇りし亡者たち。

そして己たちが率いるのもまた、人ではない、己の意志で完璧な精密さで動く神秘の人形兵なのである。

かつて地上に生き、戦っていた時には想像も出来なかった神話的な戦にこれから挑むことになるのだと今さらながらに思い知らされ、魂までもが震える様な感動を味わっていた。

「いよいよ初陣であるな」

並外れた長身の痩せた西洋人が言った。その声は抑えきれない歓喜と興奮で微かに震えている。

「北方の獅子」ヴァーサ朝スウェーデン王グスタフ・アドルフその人であった。革製の鎧を纏い、その腰間には豪奢な造りのサーベルが吊るされている。

高貴でありながら戦の愉悦に対する貪欲さを隠そうともしない。氷雪にも微塵も怯まぬ艶やかな金毛の威風堂々たる獅子であった。

「現在の状況はどうなっているのだ?手短に聞かせよ」

勘助がグスタフに説明した。霜の巨人達が敗れ去るのは時間の問題であること。此度の戦は死者の軍勢が主敵になるであろうこと。

「そして死者の軍勢の編成は貴殿らの同時代、日本のサムライと古代中国の兵による混成部隊という訳か」

グスタフがにやりと笑いながら言った。今まで己が戦って来たヨーロッパの軍隊とはまるで異種の東洋の軍隊と戦うのが興味深くてたまらぬと言わんばかりであった。

「いずれにしても、この気候では鉄砲も大砲も使用出来ぬ。余が得意とする戦術は使用できぬな、残念ながら」

そう言ったものの、左程グスタフは残念そうには見えない。それよりもここに来てまだ戦で学ぶことが出来るという向上心で心地良い高揚を覚えているようであった。

「そして余は東洋の軍隊の戦い方も詳しくない。よって義元殿よ、此度の戦は貴殿が指揮を執るがよい。余を学ばせてくれ」

「ふむ。いいだろう」

義元は特に気負うことなくあっさりと承諾した。

「我は信玄の戦い方はまあ、大体は分かっておる。まして、あ奴の双翼とも言うべき者が今はこちらにおるのだからな」

皮肉気に言いながら義元は武田典厩信繁と山本道鬼勘助を見据えた。

「これからは我の双翼になってもらうぞ。よろしいな」

「……我らを翼としてどこに向かって羽ばたくおつもりか」

信繁が常の温顔をかなぐり捨て、怒りと疑念が入り混じった厳しい表情で義元を睨んだ。

「ふっ、それは分からぬ。だが今は信玄率いる死者の軍勢を討ち、ニーベルングの指輪を手に入れることに全力を尽くすつもりだ」

義元は答えた。今は分からないという言葉に偽りはない。神々を出し抜き、己が指輪を手にすることなどやはり身の程を超えた滑稽な野心なのではないかという思いがあるからである。

「こちらの手の内を知っているのは向こうも同様でござる」

勘助が重々しい声で言った。

「お館様は義元公の政や戦を徹底的に研究されておりましたからな。ましてそれがしや典厩様の考えることなど(たなごころ)を指すように読むことが出来るでしょう」

「ふむ。もしかしたら千日手のようになるやも知れぬな。そうなったら厄介だ。恐ろしく気が長い信玄に比べ、我は自分でも気が短いと自覚しておる。そこを信玄に突かれるやも知れぬ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ