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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
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第百三十話  烈勢面

「サムライとか言う東夷の戦士らしいな。良い兵士共だ。見ろよ雲長兄い、あいつらが持ってる剣を。すげえ切れ味だぜ。何だよ、あれ。どうやって造ってるんだ」

「ふむ」

関羽も張飛も己が知る中華の兵とは全く違う武装、戦闘様式の異国の兵士に目を見張った。

「我らの時代から千年以上先の時代の兵士共であるらしいからな。武器も鎧も優れていて当然と考えねばなるまい」

そう言った関羽の巨大な眼が異国の戦士が掲げる軍旗に注がれた。

「にも拘らず、我らより数百年前も先の人物である孫子の兵法を奉じているとはな。全く面白い者共だ」

そう言って笑った関羽は再び馬を駆り、青龍偃月刀を振るって霜の巨人を薙ぎ払った。張飛も負けじと続く。

武田軍と蜀漢軍に挟撃される形となった霜の巨人達であるが、動揺や恐慌は微塵も表さず、ますます原始的な獣性を露わにし、その分厚く鋭い爪牙を死者に叩きつけようとする。

しかし将の意のままに動く死者の兵は狂暴で狂気的な巨人にも一歩も怯まず、その生前身に着けた武技を縦横に振るう。

単純な力では霜の巨人が死者の兵を上回っていただろうが、関羽と張飛、それに武田軍の将の見事な用兵によって挟撃され、退路を断たれた霜の巨人が徐々に劣勢に追いやられていくのが明らかとなった。

「む……。何やら違った気を放つ巨人がいるな」

武神としての超人的武勇を極寒の地でいかんなく発揮しながら、同時に繊細なまでに感覚を巡らせて戦場を探っていた関羽が特殊な気配を持つ一匹の霜の巨人を捉えた。

「角も生やし、明らかに他の巨人とは違っておる。あの者がニーベルングの指輪の所持者か!」

関羽は青龍偃月刀を構え、馬腹を蹴って一筋の雷光のようになって走った。霜の巨人たちは爪牙を煌めかせて阻止せんと一斉に襲い掛かるが、関羽の猛進を阻むことは不可能であった。

青龍偃月刀の分厚い刃が信じられぬ速度で振り下ろされるごとに、霜の巨人は無惨な骸が量産されて行った。

斬られるのではない。割砕かれていくのである。霜の巨人の装甲そのものたる氷の肉体も、関羽の人智を超えた膂力で振るわれる刃の前ではまるで意味を成さなかった。

「あれがニーベルングの指輪か!」

角を生やした巨人のつららのような指に青い宝石が耀くのを捉えた関羽は歓喜と畏怖の声を上げた。

その指輪は碧く清冽な輝きであるが、同時に邪神ロキや亡者の女王ヘルとはまた別の、強大にして深淵な暗黒の力が秘められているのを関羽は感じた。

青龍偃月刀を一閃させて巨人の手首を切り落とし、返す刃でそっ首刎ねてくれん。

関羽は闘気を五体に隅々にまで充実させ、青龍偃月刀を構えた。その時である。

指輪の保持者である角を有した霜の巨人を肉体が一瞬で砕け散り、細かい氷雪へと変じた。

さらに周囲の、このニブルヘイムの戦場で死者の兵と戦う全ての巨人が追うように砕け散り、冷たく煌めきながら吹き荒れる吹雪と一体になって散じて行った。

「何だと!こいつら、自滅したのか……?」

「いや、違う!」

呆気にとられた張飛に関羽は鋭く答えた。

「氷雪へと身を変えただけだ。死んではいない、気は変わらず放たれている。こ奴ら、吹雪に紛れて身を隠すつもりだ」

怒鳴りながらも関羽は目的の指輪を得る為に目を凝らす。

「ニーベルングの指輪を探せ!絶対に見失うな」

「見当たらねえ。この吹雪の中じゃ……」

ニブルヘイムに吹き荒れる吹雪はますますその勢いを増した。この氷の世界の住人であり支配者である霜の巨人の意志に感応したのであろうか、関羽と張飛、それに武田軍の将の視界を白一色に満たす程の凄まじさであった。

寒さなどは微塵も感じない死者の軍勢であったが、己の肉体をひたすら打つ氷雪によって全く身動きができない状態に陥ってしまった。

猛吹雪はどれぐらい続いたであろう。関羽と張飛は目を閉じ、歯を食いしばってただひたすら純白の嵐、氷雪の弾丸雨を耐えねばならなかった。

おそらくゆうに十分は経過しただろう。ようやく猛烈なる吹雪が止んだことを感じた関羽と張飛は目を開けた。

吹雪が収まったニブルヘイムの平原は茫漠とした静寂の世界であり、ある種神秘的ですらある美しさであったが、関羽と張飛は無論感動など微塵も感じなかった。

「くそ、奴ら逃げやがった!」

張飛は憤然として怒鳴り、怒りを発散すべく側にいた死者の兵の頭部に拳を叩きつけた。死者の兵は頭蓋を砕かれ、無残に斃れる。

「落ち着け。逃げたと言っても、奴らはこのニブルヘイムから脱出する手段を持たぬのだ。いずれ追いつける」

関羽は張飛だけではなく己自身にも言い聞かすように言った。

「追いつけるたってな。どこにいるのか皆目見当もつかねえのに……」

「……」

「ひょっとして奴ら、このままずっと氷雪に身を変えて戻らねえつもりなんじゃねえだろうな」

「むう……」

流石の「万人の敵」である関羽と張飛も途方に暮れた。そこに風林火山の旗を掲げて戦っていた武士団の将が悠然と馬を駆り、二人の三国時代の将に近づいてきた。

その将は後漢末期、三国時代の頃の鎧とは比べ物にならない程重厚にして壮麗な甲冑を纏っている。

兜には金箔で飾られた山を前立てとしており、烈勢面と呼ばれる雄々しい怒りを模した鼻と髭の有る面頬で顔を覆っている。

「厄介なことになりましたな」

侍と呼ばれる東の島国の武将が恭しい態度で語り掛けていた。その声には関羽と張飛への畏敬の念が満たされている。

元々張飛は高貴な身分の者には素直に敬意を払うし、また己に畏敬の念をはっきりと示してくれた異国の武将には当然好意を持った。それ故

「全くですな。どうしたものですかな」

と先程までの殺気に満ちた獰猛無類な戦いぶりに似合わぬ温和で親し気な態度で答えた。

「無礼者め。人に話しかけるなら、まずその面を取れ」

一方の関羽は威丈高と言うしかない態度である。張飛は顔をしかめ、

「おい雲長兄い。だから言っただろ。そういう態度はな……」

「いや、確かに仰る通り。失礼仕った」

その武将は関羽の傲岸極まりない態度に気を悪くした様子も無く、素直に面頬を外した。

「武田四郎勝頼と申しまする。かの伝説の三国志の英雄、関羽殿と張飛殿と共に戦えるとは、これ以上の武人の名誉はありますまい。何とぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしまする」

そう言って武田勝頼は頭を下げた。

張飛は穏やかな笑みを浮かべながら丁寧に礼を返したが、関羽は表情一つ変えず、勝頼の言葉を完全に黙殺した。




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