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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
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第百二十四話  追跡

「これがニブルヘイムかよ。本当に雪と氷の世界だな。真っ白じゃねえか」


ニブルヘイムに到着し、騎乗の人となってゲンドゥルの船から降り立った孫堅が感嘆の声を発した。


「でも全然寒くねえ。ゲンドゥルだっけ、大したものだな、お前の術は」


そう言って孫堅は己の体に描かれたルーン文字を改めて確認した。ゲンドゥルの神気と念が込められたルーン文字が淡く輝いており、その神秘的な力が本来ならば骨をも凍らせるであろう寒冷を無効化している。


「お褒めに預かり、光栄ですわ」


ゲンドゥルは微笑みながら自身たっぷりに言い放ったが、すぐに皆に注意すべくその表情を厳しくした。


「ですが、お気をつけくださいませ。私の術はあくまでこのニブルヘイムの自然現象としての寒冷を防ぐものに過ぎません。例えばルーン魔術や霜の巨人の攻撃による冷気は防ぐことは出来ませんから、充分にご注意を」


「ルーン魔術と言えど、万能ではないか。うむ、充分心しておこう」


山本勘助はそう言ってから、二度目の来訪となったニブルヘイムに変化がないかその神経を研ぎ澄ませて探った。


「信繁様、何やら前に来た時とは何かこう・・・・」


「うむ。何かが違うな」


信繁は頷きながら、一面雪と氷の世界に鋭い視線を注いだ。


「大気が緊張しているような・・・・・」


「皆様方、しばしお待ちくださいませ」


ゲンドゥルは静かにそう言うと、印を組みながら短くルーンの詠唱を行い、瞑目した。

魔術を使ってこの周囲の気配を探っているらしい。そのことを察したエインフェリア達は口を閉ざして戦乙女を見守った。


「・・・・この周辺にいる霜の巨人達がある場所を目指して一斉に移動しているようです」


ゲンドゥルは目を閉じ、印を組んだままそのやや肉の厚い唇を動かした。


「何者かに呼ばれたように、ただ一心に。いえ、これはひょっとして、このニブルヘイムにいる全ての霜の巨人族が一度に移動している・・・・?」


「霜の巨人とは、獣同然の知性しかないと聞いているが?」


今川義元がヴァルハラで聞かされた霜の巨人に関する情報を思い出しながら尋ねた。


「同族を傷つけた者には機械的に襲い掛かることを習性としているらしいが、奴らを統率する存在がいると言う事なのか」


「そのような存在はいないはずです」


ゲンドゥルはきっぱりと言った。


「いえ、正確に言えばかつては存在していたらしいのです。ですが先のラグナロクよりもさらに前の時代に、今は亡きトール様によって滅ぼされたと聞いています」


「ふむ・・・・」


義元は考えに沈んだが、それはほんの短い時間に過ぎなかった。


「まあ、何にしてもここで様々に推測してみても無益であるな。あの巨人共が集まる所へ行ってみようではないか。その場所はどのような所か、一体何が獣に等しき巨人共を呼び寄せているのか・・・・」


「ええ、参りましょう」


ゲンドゥルは艶然と微笑んだ。



今川義元、ゲンドゥル、武田典厩信繁、夏侯淵、孫堅、そして山本勘助は万年雪と氷の山々に囲まれた極寒の大地を黙々と進んだ。

幾度か霜の巨人と遭遇しかけたが、ゲンドゥルの魔術によって一行の気配は完全に消えているので、気づかれることは無かった。

いや、例えゲンドゥルの魔術が無くても、霜の巨人は義元たちに襲い掛かることは無いのではないか。

飢えた野獣の如き獰猛で容赦のないはずの霜の巨人であるが、今の彼らからは荒ぶる野生も攻撃性も微塵も感じられない。

ただ呆然と、人形遣いに操られる人形のようにその氷のような足を機械的に動かしているに過ぎなかった。


「ちっ、気持ちの悪い奴らだな」


孫堅が毒づいた。


「不細工な面をピクリとも動かしやしねぇ。少しは牙を剥くなり吠えるなりしろってんだ。その方がまだ愛嬌があるってもんだぜ」


「文句の多い男だな」


義元が呆れたように言った。


「追跡の任務中ということを忘れているのではないか?」


「いくら文句垂れても奴らの耳には届いていないんだろ?だったら、いいじゃねえか」


孫堅は獰猛に言い返した。


「この雪と氷だけの世界で、不細工で虫みたいな怪物共のケツを追いかけるだけの下らねえ仕事なんだ。文句ぐらい好きに言わせてくれなけりゃ、やってられんぜ」


三国志の鼎の一つである呉の国の礎を築き、後世において始祖、あるいは武烈皇帝と呼ばれる英傑であるが、随分と不平家であるらしい。


「まあ、気持ちは分かるが・・・・」


義元が言った。信繁、勘助、夏侯淵も何も言わないが、気持ちは同じだろう。

何の変化も無い状況の中、もう既に三時間は移動に費やしている。いい加減うんざりしていた。


「・・・・皆様方。退屈な時間はもうすぐ終わりましてよ」


明らかに緊張を帯びたゲンドゥルの声が五人の武人の心に直接響いた。


「もうすぐ、彼らが目指す地点に到達するようです」


不平たらたらだった孫堅も、他の四人も気を引き締めて、いつ何時でも武器を抜けるよう構えながら慎重に愛馬を進ませた。眼の前に山岳氷河がある。その向こうに霜の巨人達が集まっているらしい。

一行は下馬した。


(皆さま、私の術であの氷河の上まで飛びましょう)


ゲンドゥルの念話が届くと同時に、六人の体は体重が無くなったかのように浮き上がり、氷河の頂上に到達した。

五人の武人たちはゲンドゥルの魔術に驚くことも忘れ、目の前の光景を凝視した。

そこは巨大な雪原であった。断層も窪地も無い果てしなく続く凍てついた大地。そこに数え切れない程の凄まじい数の霜の巨人達が集結していた。

だが霜の巨人達はそこで何をするまでも無く、人形遣いの手から離れた人形のように微動だにしない。


「何だってんだよ・・・・」


孫堅が心底気持ち悪げに呟いた。


「しかし、恐ろしい数でござるな。万を遥かに超えておる」


勘助がその眼帯に覆われていない右目で霜の巨人達の数を数える。


「ざっと見た所、三万匹と言ったところか・・・・」


「皆、奴らの中心の場に意識を注いでみよ」


義元が瞑目しながら静かに言った。


「何か・・・・特殊な気を放つ存在がいるようだぞ」


「これは・・・・」


義元に言われ、千里眼の術でその場の光景を鮮明に目視したゲンドゥルが驚愕の声を発した。

彼女は見たのである。霜の巨人達の中心に、ただ一頭明らかに一回り体躯が大きく、その姿が変形した存在がいることを。

その霜の巨人の頭部には巨大な三本の角が生えており、己が他の霜の巨人よりも上位の存在であることを雄々しく誇示していた。

そして義元が言った通り、その巨人が放つ気は明らかに他の霜の巨人が放つ獣的で野蛮な、だが野生の息吹を感じさせる気とは明らかに違っていて、人工的で禍々しい暗黒の色彩を帯びている。

正確には、放射される暗黒の気はある一か所を源流としているようである。その場所は探るまでも無い。巨人の左手の氷柱を削ったような指に青く輝く指輪がはめ込まれていたのである。


「あれが、二つ目のニーベルングの指輪・・・・」


ゲンドゥルのうっとりとした声が耳をつんざく吹雪の音と共に五人の武人の鼓膜に響いた。








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