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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
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第百二十三話  ゲンドゥルの船

「へえ、これが星々の海を渡る船か。カッコいいじゃねえか」


この面々の中では初めて天翔ける船に乗ることになる孫堅が少年のように瞳を輝かせながら言った。


「黒と青の二色の色で塗装されているな。これは汝の瞳の色を模しておるわけか」


今川義元が言うと、ゲンドゥルは艶然と微笑んだ。


「ええ。素敵でございましょう?」


確かに、白一色のブリュンヒルデ、紅一色のフロックの船よりも重厚でそれでいて妖艶な雰囲気を醸し出している。

一行は船に乗り込んだ。


「ニブルヘイムってのは、常に吹雪が吹き荒れる極寒の地なんだってな。俺は南国育ちで寒いのが苦手なんだよなあ・・・・」


孫堅が言うと、信繁が応じた。


「あの寒さを前にしては苦手も得意もない。我々が人間だったならば、ほんの数分で凍え死ぬであろう凄まじい寒さだ。今の内に充分覚悟を決めていた方がよろしかろう」


「げえー、マジかよ・・・・」


「そのことならば、心配には及びませんわ」


ゲンドゥルが余裕たっぷりの態度で言った。


「わたくしのルーン魔術で、皆様方が寒さを一切感じないようにいたしましょう」


「ほう、そんな術があるのか。前にそれがし達がニブルヘイムに行った時は、フロックはそんな術などかけてくれなかったが・・・・」


「フロックは戦闘の為以外のルーン魔術の習得には全く関心がありませんからね。それに彼女なら、弱音を吐くな、寒さなど気合で何とかしろと言うでしょうね」


勘助の言葉にゲンドゥルは口元を手で押さえながら上品な仕種で笑いながら言った。フロックを揶揄しているようであるが、その口ぶりは好意的である。

己とは全く正反対の気性、考え方のフロックを案外気に入っているらしい。


「しかしそれ程の寒さなら、ニブルヘイムに炎の巨人族であるムスペルがやって来ることは無いと考えても良いかな」


義元がそれが癖であるらしく顎を撫でながら言うと、ゲンドゥルは頷いた。


「ええ。それは間違いないでしょう。強壮無比な生命力を持つムスペルですが、極寒の気候のニブルヘイムでは活動することは出来ないはずです」


「今回はムスペルの姿を拝むことは出来ませぬか・・・・。少し残念であるな」


「我は一度見ておる。あの醜い姿は一度見れば十分だ。ましてあれと直接戦うなど、出来れば御免こうむりたいがな」


勘助の独り言に義元は肩をすくめながら応じた。


「だが死者の軍勢と戦うことになる可能性は高いと・・・・。治部大輔殿、もう一度確認致しますが、死者の軍勢の中核を成しているのが、我が兄信玄が率いる軍勢に間違いないのですな?」


信繁が緊張を露わにしながら問いかけると、義元もまた居ずまいを正した。


「うむ。間違いなく風林火山の旗を掲げておった。そしてロキが死者の軍勢を束ねる総大将に選ぶのは、信玄以外にいないと考えるべきではないか?」


「・・・・」


信繁と勘助はそれぞれ沈痛な表情を浮かべた。己の全てを尽くして仕え、補佐した兄、主君が闇の亡者として蘇り、奸智と裏切りを司る邪神の僕と化した。その現実を未だに充分受け止め切れていない。

本当は信玄その人ではなく、別の人間なのではないかと一縷の望みを持っていたのだが、やはりそれは甘い考えなのだろう。

木村重成と後藤又兵衛は実際に闇の亡者と化したかつての親しき僚友たちと直接刃を交え、心に深い傷を負ったようである。

ロキの目的はまさにそのことにあるのだろう。ならばやはり、信繁と勘助を苦しめるべく武田信玄を亡者として蘇らせたのだと考えねばならない。


「信玄公以外にそれがし達と親しかった友もロキめは蘇らせているのだろうか」


勘助は考えた。重成と又兵衛の友であった真田幸村の祖父である真田幸隆。勘助、信繁と同じく川中島合戦で討ち死にした諸角虎光。あるいは勘助らより数年後、織田信長との長篠の戦にて討ち死にしてしまったという山県昌景、馬場伸春、内藤昌豊・・・・。


「いや、彼らは堂々と戦死したというから、むしろエインフェリアに選ばれてヴァルハラに招かれていても良いはずだが・・・・」


そこまで考えて、勘助に悪寒が走った。信玄が側室に産ませた子。勘助が傅役を務め、己の生きがいとして育てながら、その成長を見届けることが出来なかった若君。本来ならば諏訪家を継ぐはずであったが、武田家嫡男義信が廃嫡されたため武田家第二十代当主となり、織田信長に敗れ追い詰められ、遂には自害したと聞かされた悲劇の武将。


(まさか、それだけはあってはならぬ。それをしたら、ロキよ、絶対に許さぬぞ・・・・)


「関羽と張飛もいるんだよな、確か」


孫堅が夏侯淵に語り掛けた。


「曹操の奴とかじゃなくてよかったな。関羽と張飛が相手なら何の躊躇いもなく戦えるだろう。俺も奴らとは口すら聞いたこともねえ。ぶっ殺すのに何の遠慮もいらねえ」


「だが、奴らは間違いなく汝を恨んでおるぞ」


相変わらず寡黙な夏侯淵に代わって義元が言った。


「前にも教えたが、関羽は本来同盟を結んでいたはずの汝の次男、孫権の策略によって捕らわれて斬られ、張飛は関羽の報復の戦を挑もうとした矢先に、配下に寝首を掻かれたのだからな」


「ちっ、息子への恨みを俺が引き受けなくちゃならない訳か」


剽悍で豪胆な孫堅だが、流石に苦笑を浮かべた。


「あーあ・・・・。黄蓋や程普や韓当がいてくれたら、頼もしいんだけどなあ。奴らこっちには来てねえのかな」


「確か、彼らはいずれも戦死せずに病にて世を去ったはずだ。エインフェリアに選ばれることはなかろうな」


「さあ、皆様方。ニブルヘイムが見えてきました。御覚悟を決めて下さいまし」


ゲンドゥルの声を聞き、戦国時代と三国志の勇者達はそれぞれ気を引き締めた。純白の巨大な惑星ニブルヘイム。

かの極寒の地で霜の巨人族だけではなく、闇の亡者と化したかつての主君、あるいは「万人の敵」と評された強敵と対峙せねばならないのかも知れないのである。

今川義元、武田典厩信繁、山本勘助、夏侯淵、孫堅の五人はいずれも百戦をくぐり抜けた古豪であるが、かつて感じたことの無い緊張を覚えずにはいられなかった。







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