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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第七章  再び極寒の世界へ
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第百二十二話  二つ目の指輪と四人目の戦乙女

重成達がヨトゥンヘイムの大地に降り立つ少し前まで時間は遡る。アース神族の王ヴィーザルは玉座で瞑想し、九つのニーベルングの指輪の行方を探っていた。


「む・・・・」


閉じていた目を開け、その瞳に闇夜を払う暁の日を思わせる黄金の光を鮮やかに灯した神王の様子を見て、側にいた雷神トールの遺児である双子神モージとマグニ、そしてヴァン神の愛の女神フレイは目を見張った。


「どうしたヴィーザル。まさか・・・・」


「うむ。指輪の一つが銀河の彷徨を止め、流星となって流れ落ちたようだ」


「それは何処へ?」


「極寒の地、ニブルヘイム・・・・」


「ニブルヘイム、そこは確か霜の巨人族の領域と聞いたな」


フレイがその神々しいまでに美しい顔をしかめた。伝え聞く霜の巨人の醜悪な姿を脳裏に思い描いたのだろう。


「その通りだ。しかも霜の巨人共はロキめの支配下にある」


「ちっ、二つ目の指輪はロキの奴が労することなく手に入れることになるか」


双子神が忌々し気に言ったが、神王は頷かなかった。


「さて、それはどうかな」


「と言うと?」


「あの指輪には恐るべき呪いが込められているらしい。狂気を起こし、野心を駆り立て、何としても残りの指輪を手に入れずにはいられなくしてしまう呪いが・・・・。霜の巨人共にとってロキはあくまで仮初の主に過ぎん。これを機に反逆を起こすのではないだろうか」


アース神族の王が言うと、ヴァン神の女神はその真珠のように白く艶めかしい首を傾げた。


「私は霜の巨人のことなど良く知らないし、知りたいとも思わんが、奴らは獣並みの知能しか持ち合わせていないと聞いておるぞ。主に逆らうことなど出来るのか?」


「・・・・」


フレイの疑問には答えず、ヴィーザルは沈思黙考していたが、それはほんの数瞬に過ぎなかった。


「エインフェリアとワルキューレを探索に行かせよう」



ヴァルハラに残って軍の調練に従事していたエインフェリア達、今川義元、武田信繁、山本勘助、グスタフアドルフ、夏侯淵、孫堅の六名が神王の御前に参集した。


「まだ最初の指輪がどうなったのかも分からぬというのに、二つ目の指輪の所在が分かりましたか」


朴訥そのものな温顔に鋼の如き武威を秘めた武田典厩信繁が神王に語り掛けた。


「うむ。霜の巨人共の住処であるニブルヘイムだ」


「ニブルヘイム・・・・。確か典厩信繁と勘助、それに夏侯淵、貴殿らはそこに赴き、霜の巨人と直接戦ったそうだな」


公家を思わせる高貴な顔貌の今川治部大輔義元が三国時代の弓の名手に水を向けたが、


「・・・・」


右腕がやや左腕より長い痩身の寡黙な武人は無言で頷くのみであった。


「知っての通り、霜の巨人共はロキの配下である。だが霜の巨人共が唯々諾々とニーベルングの指輪をロキに差し出すとは限らん。そしてロキも霜の巨人共が指輪を我が物とすることを許すはずも無い。お互いがどう動くか・・・・」


「死者の軍勢と霜の巨人共が仲間割れを起こすやも知れぬと言う事ですな」


道鬼入道山本勘助が独眼に深沈とした光を湛えながら言った。


「うむ。そこでお主達の何人かで彼の地に赴いて、様子を探ってもらいたい。もし霜の巨人があっさりと指輪をロキに譲っているようであれば、潔く諦めるしかない。だが、もし奴らが争っているようであれば・・・・」


「俺たちが指輪をかっさらって、漁夫の利を得ようって訳かい。いいねえ、面白いじゃねえか」


紅の帽子を戴いた孫堅が野卑に笑いながら言うと、神王はわずかに苦笑を浮かべたようである。


「身も蓋も無い言い方をすれば、その通りだな。信繁、勘助、夏侯淵の三人は一度直接ニブルヘイムに潜入したのだったな。済まぬが、もう一度頼む。軍勢を動かしてニブルヘイムに攻め入るかどうかは、お前たちの判断に任せる」


「では、我も行くとしよう」


義元が言った。


「俺も行くぜ。軍の調練ばかりするのにはいい加減飽きちまった」


孫堅も義元に続いた。


「グスタフ、お前さんはどうするんだ?」


「余は残らねばならぬな」


孫堅の問いに、ずば抜けた長身のスウェーデン王は顎鬚を撫でながら全く迷うことなく明快に答えた。


「お前たちがニブルヘイムに攻め入るべきと合図を送ったら、一瞬の遅滞無く進軍するよう、余が準備を整えておいてやろう」


「よっしゃ、話は決まったな」


孫堅は勢いよく立ち上がりながら言った。


「ニブルヘイムに行くには天翔ける船が必要だが・・・・。ブリュンヒルデ、フロック、エイルの三人はヨトゥンヘイムに向かっている。どうすればよろしいでしょうか?」


信繁がヴィーザルに問うた。


「うむ。そなたらとニブルヘイムに同行するワルキューレは選んでいる。入るがよい」


「失礼いたします」


ヴィーザルの声に答えて扉が開き、戦乙女ワルキューレが王の間に入って来た。


「始めまして、皆様方。わたくしはゲンドゥルと申します。戦乙女の中でも随一のルーン魔術の使い手と自負しておりますわ」


優雅に、しかし確固たる自信を示しながらそのワルキューレは名乗った。

月も星もない漆黒の夜空を思わせる艶やかな黒髪を腰まで伸ばしている。その身長はワルキューレの中でもずば抜けて高いだろう。

そして印象的なのは瞳の色である。右目はその髪と同じ闇色であるが、左目は真夏の空を思わせる鮮やかな青色であった。


「その者が申した通り、ゲンドゥルはルーン魔術の使い手で、いざ戦いとなればブリュンヒルデやフロックにも劣らぬ力を発揮するだろう」


そう言われゲンドゥルは艶然と微笑んだ。物腰柔らかであるが、極めて自負心が強いことはエインフェリア達にも充分伝わった。


「ゲンドゥルの操る船でニブルヘイムに向かうがよい。では頼んだぞ、我が勇者達よ」








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