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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第六章  ムスペルライダーズ
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第百二十一話  光を束ねて

「重成!」


ブリュンヒルデ達が駆け寄って来た。


「あ、かなりひどいけがをしてるね。今すぐ治してあげるから」


エイルが全身血まみれになりながら呆然とへたり込んでいる重成に癒しの力を振るう。


「長、グラール、それにイズガも・・・・」


ブリュンヒルデは無惨な屍と化した三人の山の巨人を痛ましげに見つめていたが、やがてイズガの右手首が失われていることに気づいた。


「指輪は・・・・猿飛に奪われてしまったのですね・・・・」


「・・・・」


重成は歯噛みをしながら、頷いた。


「この今も残された強大な暗黒の神気の跡、これはロキの物。奴も現れたのですね」


「・・・・」


「ならば仕方がありません。あの猿飛佐助とロキの両者を同時に相手にしては、流石に貴方といえどどうにもならなかったでしょう」


「・・・・ロキは何もしていない。奴が現れる前に、既に私は猿飛に、完膚なきまでに敗れていた。そう、完全なる敗北だ。私は一矢報いることすら出来なかった・・・・」


「・・・・」


ブリュンヒルデと仲間達は敗北に打ちのめされた重成を痛ましげに見つめた。いや、全員がではない。繊弱な顔貌の貴公子は冷徹な怒りと侮蔑の感情が込められた鋭い眼で若き侍を睨み付けていた。


「私は・・・・この先何度戦っても、恐らく猿飛には勝てない。技量は互角かも知れんが、あの男は完全に私の精神の隙を、弱点を見切っており、そこを一切の躊躇いも無く、容赦せずに突いてくる。それを私は防ぐことが出来ないだろう・・・・」


「・・・・」


「それに比べて、あの男には弱点も隙も無い。あの男の精神は純粋なる悪で、人間の弱さを完全に克服している。勝てる道理などあるはずが無い・・・・」


「重成・・・・」


「重成殿・・・・」


ブリュンヒルデ、そして又兵衛は完全なる敗北と、そしてあまりに邪悪で異様な精神構造を持つ敵に初めて恐怖を覚えて心が折れようとしている若く誠実な侍をどう励まそうかと苦悩した。

だがそんな彼ら二人より先に動いた者がいた。

北畠顕家はつかつかと重成の元に歩み寄り、いきなりその顔面を足蹴にした。常ならば余裕で躱しただろうが、放心状態だった重成はまともに喰らって蹴り倒された。


「な・・・・」


「貴様、何を・・・・!」


驚愕の表情を浮かべるブリュンヒルデと又兵衛を冷然と黙殺し、顕家は刀の柄に手をかけながら倒れたままの重成を見降ろした。


「忍びなどという下賤な敵に敗れ、まんまと目的の物を奪われたあげく、惨めな顔で敵への恐れを口にするとはな。恥を知れ」


「・・・・」


「武士と言う者共は敗北や失態の責任を取る為に己の腹を切るのだろう。敗北した上、心を折られた貴様はこれ以上役に立つことはあるまい。潔く腹を切るがいい」


重成は呆然とした表情のまま死の宣告をする貴公子を見上げた。


「これまでの働きに免じて、この鎮守府大将軍北畠顕家が介錯を務めてやろう。名誉に思え。そして死ね」


これは重成を発奮させる為の演技などではない。北畠顕家は本気で重成を死に追いやろうとしている。そのことを理解した又兵衛は激高し、南北朝時代の青年公家の白く細い首をへし折ろうとその猿臂を伸ばす。

顕家もまた戦国時代の戦人の怒気と殺意を受け、その向かって来る太い鋼のような腕を斬り落とさんと姿勢を変えた。


「止めなさい」


プラチナブロンドの戦乙女が声を発した。その言葉に込められたダイアモンドのように気高く清冽な耀くような気に打たれ、顕家と又兵衛も、そしてこれ以上生き恥をさらすぐらいなら潔く腹を切ろうと脇差を握った重成も動きを止める。


「重成、貴方は侍である前に、エインフェリアなのです。死でもって失態の責任を取るような真似は許されません。そして顕家。貴方に彼を裁く権利はありません。同士討ちような真似も許しません。」


「・・・・」


ブリュンヒルデの常以上の気高く、厳然たる態度に圧倒され、三人の勇者は粛然として声も無い。


「何故、エインフェリアは自害した者は選ばれる資格が無く、堂々たる戦死を遂げた者にだけその資格があるのか、私はようやく分かった気がします」


ブリュンヒルデは重成、顕家、又兵衛だけではなく他のエインフェリアにも視線を向けながら言った。


「それはやはり戦場で死の直前なで諦めず最後まで戦い抜こうという意思に神聖な力が宿るからなのでしょう。それこそが神々の戦士エインフェリアの力の源泉なのです。ですから、絶対に諦めてはいけません。これから先いくら失敗しても敗北しても、自害して責任を取るような真似は許されません。折れずに戦い抜くのです。その意志こそが死者の軍勢とムスペルを打ち破る力になるのだと私は確信しています」


そこで言葉を切り、ブリュンヒルデはその神秘的に耀く青い瞳を重成に向けた。


(重成・・・・)


ブリュンヒルデは重成の心に直接語りかけた。そのブリュンヒルデの神気はかつてないほど優しく温かく慈愛に満ちているように重成には感じられた。


(確かにあの邪悪で狡猾極まりないな男には貴方は勝てないのかも知れません。そしてそれは私も同様でしょう。私一人では絶対にあの男には勝てず、捕らえられ飲み込まれるでしょう)


(・・・・)


(ですから、あの男には私と貴方の二人で立ち向かわねばなりません。それぞれが一人で刃を振るってもあの男を破ることは出来ませんが、二人で力を束ねたら、その刃が放つ光はより強大となり、猿飛佐助の暗黒をも切り裂くことができるはずです)


(・・・・)


(さあ・・・・。立ち上がって、重成。私の勇者。貴方はここで終わる人ではないはず・・・・)


ブリュンヒルデが伸ばした切ない程に白い繊手を重成は握った。その手からこの銀河で最も清く気高く慈悲に満ちた温かい力が伝わり、重成は己の芯に生じた亀裂がたちまちのうちに修復されたことを感じた。


(そうだ、私はまだ戦わねばならない。ブリュンヒルデと共に・・・・。彼女と一緒なら、必ず勝てる。猿飛佐助だけではない。ロキであろうとヘルやシンモラであっても。いや、例えそれ以上の敵が現れたとしても・・・・)


重成はブリュンヒルデの手を借りて立ち上がった。その凛々しく端麗な顔貌にはもはや敗北による恐怖と挫折の暗い翳が晴れていることを他のエインフェリアとワルキューレを認めた。それは北畠顕家と言えど例外ではなかった。










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