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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第六章  ムスペルライダーズ
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第百十五話  スキーズブラズニル

それは巨大な振動であった。まさに地が震え、天が割れるのではないかと疑われるほどであるが、これまでこのヨトゥンヘイムの大地を揺るがせた大地震とは種類を別にしているのは明らかであった。


「山々が・・・・崩れている・・・・?」


確かあの辺りの山地は、イズガが封印を解こうとしていた船が眠っているという場であった。

イズガ、長、グラールはかつて山の巨人族を乗せて銀河の星々を渡ったという船をついに復活させたらしい。


「・・・・」


エインフェリアとワルキューレ、真田十勇士、そして巨大な炎の柱と化したラウナークも氷の彫像と化したかのように微動だにせず、ただ凝然とヨトゥンヘイムの空に出現した存在を見つめた。


「何と巨大な・・・・」


そう、それは船などと言う言葉で表現すべき代物ではない。天空に浮かぶ城とも呼ぶべき物だろう。

アースガルドにそびえたつヴァルハラをも遥かに上回る巨大さであった。銀河に浮かぶ惑星を削って船に造り替えたのではないかと疑われるほどである。


「見たか。これこそがかつて我ら山の巨人族の先祖が銀河を渡り、そして封印した大いなる船「スキーズブラズニル」だ」


誇りと興奮に震えるイズガの若々しい声が大地から天空の船を見上げる者達の鼓膜に響き渡った。


「我らの先祖達の知恵が、記憶が流れこんでくる・・・・。この船はただ銀河を飛翔するだけの存在ではない。我らが敵を滅ぼす大いなる力をも秘めているらしい・・・・。受けよ、侵略者共!」


イズガの怒りに震える叫びと共にスキーズブラズニルの外壁から巨大な力が発散された。その無形の力は大気を切り裂き、大地を震わせた。

数秒後、散開して疾走し、思うように火を放ってヨトゥンヘイムの大地を火の海に変えていったムスペルの騎兵の生き残りたちが宙に浮かんでいた。

彼らはいずれもその醜悪な面貌に驚愕の表情を浮かべ、恐怖の悲鳴を上げていた。彼らが騎乗していた一角獣も混乱の嘶きを上げる。

反重力。重力を操る力で浮かび上がっているスキーズブラズニルは、その力を巨大な無形の矢と変えて敵に行使することが出来るらしい。

混乱の極みに達したムスペルは天空に浮かぶ巨大な船を見上げ、討ち落とそうと炎の矢を飛ばした。

凄まじい高熱の炎がいくつかスキーズブラズニルに命中し爆ぜたが、あまりの巨大さ故に小動もしなかった。

スキーズブラズニルが放つ無形の矢がさらに強烈さを増したのが地上にいる勇者と戦乙女、亡者と化した忍びにもはっきりと感じられた。

空中に浮かぶムスペルと一角獣が強大無比な重力によって圧迫され、その肉体が潰され骨が砕かれ、たちまち見るも無残な肉塊へと変えられた。

そして燃え滾る灼熱の血を振りまきながら、凄まじい速度で落下し、地面に叩きつけられた。


「・・・・」


エインフェリアとワルキューレ、真田十勇士も戦慄に震えながら、地上でおぞましい肉片と鮮血の花となって開いたムスペルの騎兵とその騎馬を見つめた。


「おのれ・・・・!山の巨人共・・・・」


ヨトゥンヘイムに連れて来た直属の配下の精鋭にして可愛い弟達の最後の生き残りのあまりに無残な殺されように、ラウナークは冷静さと余裕を失ったらしい。

炎の柱から元の半馬の姿に戻りつつあった。

だが強大な破壊力を誇るムスペルの四姉妹の次女と言えど、天空に浮かぶ巨大な城にはどうすることも出来ず、無念の歯噛みをするしかなかった。

この距離では得意の星球式槌矛も射程外であったし、炎の息を吐いても外壁を焦がすだけの結果に終わるのは目に見えていた。


「侵略者の頭目!貴様もだ、醜い肉塊に変えてくれる、覚悟せよ!」


勝利への確信と一方的な虐殺を行う残忍な喜びに満ちた声を聞き、流石のラウナークも怖気を振るった。

そして重力の攻撃から逃れるべく馬蹄を轟かせて大地を疾走した。

その巨体に似合わず放たれた矢をも上回る物凄い速度であったが、その努力も空しくスキーズブラズニルの重力波から逃れることは出来なかった。

半馬の巨人が宙に浮かび上がる。十五メートルに達する巨体、さらに未知の金属で造られた星球式槌矛、鎧、盾で武装した超重量のラウナークが風に舞う羽毛同然に翻弄されていた。


「こ、このムスペルの四姉妹の次女ラウナークにこのような真似を・・・・!こんなことが許されると思うのか・・・・」


ラウナークの顔が怒りと恥辱に歪む。ここまで圧倒的な力に翻弄され、己の無力さを思い知らされるなど、ラウナークはこの世に生まれ落ちた瞬間以来、想像だにしなかったに違いない。

彼女がこの銀河で恐れるのはただ己の父たるスルトと母であるシンモラだけであった。

その他の存在は何者であろうと己が持って生まれた火炎を操る能力と巨体から繰り出す星球式槌矛の力で容易く粉砕出来ると確信していた。事実そうだっただろう。

だが天空に浮かあまりに巨大な船と超重力を操る力の前では、己の最大の武器も児戯に等しかった。

ラウナークの眼球が飛び出て、鼻孔と口蓋から鮮やかな血が溢れ出る。

筋肉を潰され骨を砕かれ、内臓が裂かれる異常な音が地上にいる小さい者共の耳朶を打った。

圧倒的巨大さと鋼の如き筋肉を持つラウナークの肉体も、スキーズブラズニルが放つ強大な反重力の矢の前では全くの無力らしい。


「が・・・・!か・・・・」


断末魔の声を発したラウナークの巨体から生命が抜け出て行くのを、エインフェリアとワルキューレ、真田十勇士ははっきりと感じた。

無限に等しいかと思われた生命力、馬が持つ大地の力とムスペルの炎の力が融合した神秘的存在がいとも容易く蹂躙され、無残な肉塊に変えられて大地に放り捨てられるのをただ粛然と見守った。


「これだけでは済まさぬ」


同族を滅ぼし、郷土を焼き討ちにした侵略者を全滅させたにも関わらず、イズガ達山の巨人族の生き残りたちの胸を焦がす怒りと憎悪の炎は未だ消えないらしい。


「ムスペルという種族そのものを絶やさねば・・・・!スキーズブラズニルが教えてくれたぞ。ムスペルヘイム・・・・。奴らの故郷を。いざ、乗り込もう。我らの神聖な大地を汚し、同胞を殺めた報いを与えに。スキーズブラズニルの力でスルトとシンモラとその子達を残らず捻り潰してやろう」


イズガの高らかな宣言と共に、スキーズブラズニルはゆっくり上昇を始めた。ヨトゥンヘイムを飛び立ち、星々の海を渡って炎の巨人族ムスペルの領域であるムスペルヘイムに侵攻する為に。









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