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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第六章  ムスペルライダーズ
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第百十三話  助太刀

「猿飛・・・・!」


己が思わず発した声に答えるように嘲りの笑みを浮かべた猿飛佐助を見て、重成の心に灼熱の炎が吹き荒れる。

先程出会ったばかりの存在に、何故こうも感情がかき乱されるのか、我ながら不思議であった。

あの男とは余程悪しき宿縁があるのだろう。こうまで嫌悪と憎悪を抱く対象に出会うとは想像も出来なかった。

重成はこれまで武士として、命のやり取りを行う敵に対しても憎悪を抱かず敬意を持って相対すべきという信念を持って戦場を疾駆して来た。

だが、あの猿飛佐助という男に対してだけはそれはどうあっても無理そうである。

あの男とはお互い憎悪をぶつけ合いながら、殺し合う以外に無い宿命を負っているのだろう。

重成はラウナークという強大過ぎる敵の存在すら一瞬忘れ、猿飛佐助に殺意の視線を送った。

だが佐助は重成の殺気を受け止めながら平然とそれを受け流し、明らかにラウナークの方へ視線を向けた。


「臨兵闘者皆陣烈在前!」


左手で早九字を切り、そのまま懐に手を入れて手裏剣を放った。放たれた五つの手裏剣はラウナークの眼からすればまさに芥子粒の様なものだっただろう。

だがその芥子粒のような鉄塊が瞬時にして、ラウナークが手に持つ星球に匹敵する程に巨大化したのである。


{な!」


余裕の表情を浮かべていたラウナークの顔貌が驚愕に凍り付き、恐ろしい速さで飛来する五つもの巨大な刃を躱すことは不可能と判断して防御の姿勢を取った。

深手を負う事は免れない。そう覚悟したラウナークであったが、想像する苦痛と衝撃は訪れなかった。

括目してよく見れば、己の体の表皮に芥子粒程の五つの鉄の刃が突き刺さっていたに過ぎなかった。


「幻か・・・・!」


舌打ちしたラウナークが視線を戻すと、真田十勇士達はそれぞれ得物を抜き放ち、半馬の巨人の肉体を削ぎ始めた。


「ヴァルハラの方々よ、貴殿らだけではこの敵は手に余ろう!拙者たちが助太刀致す」


猿飛佐助がその童顔にいかにもわざとらしい笑みを浮かべながら言ったが、無論重成は感謝や感動の思いは生じなかった。


(奴め、何を考えている・・・・?)


その時、重成はサイでラウナークを攻撃しながらじっと己に視線を向けている根津甚八に気づいた。


「気を付けろよ、木村重成。決して猿飛佐助に隙を見せるな。ほんの少しでも隙を見せたら奴は貴殿の喉笛を掻っ切り、あのワルキューレをさらって行くぞ・・・・・」


根津甚八が無言でそう忠告しているのを理解し、重成は頷いた。ほんの短い時間とは言え、全てを賭けて命のやり取りをした相手だけに、根津甚八という男を理解出来たつもりでいる。

闇の力で蘇った亡者でありながら、甚八が謀や詐術を嫌う堂々たる武人であることを。そして猿飛佐助と激しく反目していることを。


「助太刀だと?汚らわしい亡者如きが・・・・。先に奴らから始末してくれるか」


顕家が繊弱な顔貌に冷酷な怒りを浮かべながら言った。


「まあ、待ちなよ。あたしも奴らの手を借りるなんて真っ平だけど、あの巨人を助けてやるような真似をする必要も無いだろう」


フロックが顕家を制止した。


「まあ、そうだな。ここは一時的に力を合わせてあの巨人を討ち、その後で改めて真田十勇士と決着を付けるということで良いのではないかな?」


又兵衛が嬉しそうに言った。巨人とさらに十勇士ともう一度戦えるというのは彼にとって理想の展開なのだろう。


「そうですね・・・・。ですが、各々方、決して十勇士たちに隙を見せぬよう。彼らはラウナークとの戦いの最中であっても、我らに刃を向けるやも知れませぬ」


「ええ、絶対に心を許してはいけません」


重成の言葉にブリュンヒルデが神懸かり的な俊敏さで鉄の爪を振るう猿飛佐助にじっと嫌悪と警戒の視線を注ぎながら応じた。


「ふん、それは奴らも同じことだ。ほんの少しでも隙を見せたら、直ちにそっ首刎ねてくれん」


最早話はこれまでと顕家が太刀を構えて神速の速さで駆け出した。又兵衛、ローラン、フロックがそれに続く。


「まあ、一時的とはいえ彼らの力を借りるのも悪くないかも知れんな」


そう呟き、ラクシュミーが引き金を引いた。それに応じるように筧十蔵の銃もまた火を噴く。


「笛を吹こうと思ったけど、止めた方が良さそうですね」


敦盛が青葉の笛を懐にしまい込んだ。味方の力を増し、敵の力を削ぐ聖なる笛の音は、炎の巨人ラウナークだけではなく、闇の住人たる真田十勇士をも苦しめることになるだろう。


「・・・・」


ブリュンヒルデの視線はラウナークではなく、ただじっと猿飛佐助に向けられている。その青い瞳には嫌悪や憎しみだけではなく、はっきりと恐怖の色があった。

戦場において己に対して敵意や殺意ではなく、色欲や支配欲、そして妄執を向けて来た得体の知れない敵。

彼女は猿飛佐助という邪悪な欲望と歪んだ愛を己に向ける存在を理解できずに幼子のようにおびえているのだろう。

重成はそんなブリュンヒルデの肩に優しく手を置いた。


「大丈夫だ、ブリュンヒルデ」


その短い言葉に重成は全ての熱誠を込めた。この身に代えても貴方を守って見せる。あの猿飛佐助という男は私が必ず滅ぼす・・・・。

その気持ちははっきりと伝わったのだろう。ブリュンヒルデは全幅の信頼がこもった笑みで応じた。











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