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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第九十九話  天才

「・・・・!!」


山の巨人族、指輪の魔力によって狂奔する若者達も、彼らを止めようとする理性を保っている年長者達も、等しく目の前に起こった光景が信じられず、我が目を疑った。

山の巨人族は遥か昔に行われたラグナロクにも参戦せず、他の種族と争うことなく生きて来た。

だがこの地に生まれ落ちたその時から、本能的に己たちこそがこの銀河において最強最大の生命であることを感じ取り、その誇りと自負を皆一様に抱いている。

他の種族と戦うことを避けたのも、戦えば当然圧倒するはずであるという自信と余裕、弱小な種族を蹂躙するのは哀れであるという哀れみの感情が根底にあったからだと言って良い。

にもかかわらず、体力も膂力も絶頂期であろう若者の大地を穿つ渾身の一撃が他種族にいともたやすく捌かれ、かつ反撃を受けたのである。

しかも巨人族ですらない、小さくか細い種族に。山の巨人から見れば、ただの風に吹かれて落ちた小枝の様にしか見えない生命にである。


「顕家・・・・。お前って男は・・・・」


フロックが感動と畏怖の念で震えながら言った。彼を選んでヴァルハラに招いた己の眼にやはり間違いは無かった。

その誇りが海野六郎との戦いに敗れ、さらに山の巨人族に対する恐怖の念によって委縮した心を再び奮い起こしたようである。


「顕家卿・・・・」


重成もまた、震える声でその名を呼んだ。だが感動だけではない。重成は認めたくはないが、やはり嫉妬と口惜しさの念がにじみ出ていた。

確かに北畠顕家は偉大なる英雄、仰ぐべき先人である。だが生まれた時代は二百年以上先とは言え、実年齢で言えば、顕家は重成よりも年少なのである。

しかしその天稟の武勇、強大な敵に微塵も怯むことの無い大胆力は明らかに重成の上を行っている。


(やはりあの人は私などとは格が違う)


改めて重成はそう思わずにはいられなかった。振り返ってみると、重成がかつてミッドガルドと呼ばれる地上で戦った大戦は大坂冬の陣、夏の陣の二回でしかない。しかも何程の武勲も立てることは出来なかった。

確かに冬の陣において佐竹家の渋江内膳を討ち取り、鉄砲の玉が飛び交う中単騎で駆けて部下を救ったことにより秀頼から「日本無双の勇士である」と激賞された。

だが所詮は局地的な些末な活躍でしかなく、戦の大勢には何ら関与していないというしかない。

それに比べて顕家はニ十歳に満たぬ若さで奥州の諸将を率い、かの名高い秀吉の中国大返しを遥かに上回る速度で進軍し、足利尊氏の大軍を二度も打ち破るという史上空前の大功を打ち立てているのである。

まさに北畠顕家こそは日本史上最高最大の早熟の天才であることは疑いようがない。


(持って生まれたものが、背負って来たものが違い過ぎる・・・・)


重成はそう自覚せずにはいられなかった。ならば己の分を弁え、顕家に仕え、彼の補佐に徹するべきであろうか。それならばそれで良い。顕家が必要としてくれるのであれば。

だが顕家は重成を嫌悪し見下し、あくまでその力を認めず、必要としないのは目に見えている。


(ならば私はどうすればよいのだ・・・・)


その時、顕家に斬られ、朦朧としていたはずの巨人が咆哮した。そして稲妻のような横なぎの一撃を顕家に見舞う。

顕家は軽やかに、優美に跳躍してこれを躱し、巨人に止めを刺すべく殺到する。

だがそうはさせじと別の巨人の若者が戦槌をかざして顕家に突進した。


「顕家卿!」


重成の胸中に渦巻いていた顕家への嫉妬と己の格の不足を嘆く心情が一瞬にして霧消し、彼の窮地を救うべく全力で走った。

だがまた別の巨人が重成に呼応し、彼の前に立ちふさがる。その両手には巨大な棘付の槌矛が握られている。

重成の全身の筋肉が戦慄と恐怖で強張る。だがその瞬間、重成の脳裏に顕家、そして猿飛佐助の神速にして華麗な体捌きが鮮明に蘇った。


(そうだ、筋肉が強張ったらだめだ。力を抜け。微塵も力むな。風に吹かれる羽毛の如く、体重が無いものと思え。そして流水の如く自然に流れるように・・・・)


重成は無意識のまま納刀し、居合術の構えを取った。居合術こそが剣術の精髄だという師匠の言葉を信じ、弓や槍よりも多くの時間を割き、睡眠時間を削ってまで稽古した。一つの型を一万本は抜いたであろう。

その結果、脱力を意識するとごく自然に居合術の構えを取るように体が出来上がっていた。

だが、山の巨人の若者は小さき種族が武器を収めたことを小癪な愚弄、挑発と取ったようである。

髭に覆われた顔貌を朱に染め上げ、猛獣の如く怒号して槌矛を振り下ろした。得物こそ違うが、顕家を叩き潰そうと戦斧を振り下ろした動きとほとんど変わらない。

そして重成から見ればあまりにも余計に力が入りすぎ、無駄な動きが多い。重成の胸中に重く沈殿していた戦慄と緊張は風に吹かれたかのように霧消した。

重成は先程顕家が見せた動きと同じ動きで巨人の攻撃を躱し、その懐に入り込んだ。顕家にくらべればその動きは明らかに軽やかさと滑らかさが及ばなかったが、速さという点ではわずかに凌いでいただろう。

そして腕力を一切用いず、腰の切れを生かして体捌きそのもので抜刀した。

巨人の鎧に覆われていない首筋から鮮血の滝が生じ、ヨトゥンヘイムの大地に注がれた。その血の量、そして首筋の傷の深さは明らかに顕家に斬られた巨人を上回っていた。



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