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それぞれの場合
1「中川れいらの場合」
ひどく寒そうにして、彼女はたたずんでいた。
「もうこんなのイヤだ。早く終わりにしたい」
ショートの黒髪を振って上を見ながら目を閉じる。
近くには鍵が落ちていて銀色に光っている。
彼女は閉じた瞼の中で、ゆっくり思いをめぐらせた。
半ば絶望のように、誰も共感し得ないであろう気持ちに浸りながら。
「私はこうやってほんとの自分を閉じこめて生きている。でも、、、これでいいんだ。こうしとけば外の人たちは誰も私を攻撃してこない」
彼女の周囲には柔らかだが冷たい壁が取り囲み、その身体を守っていた。
それが、彼女、すなわち『中川れいら』の場合だった。