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シロ

「高原君」不意に声が聞こえ「おきてますか」

 白い部屋に白いカーテン、白い布団に包まれるように横になっていた高原が目を開ける。

 すでに日は落ち暗くなった部屋に商店街の喧騒が届く路地裏で出会った女がぽつんと立っていた。女の輪郭にそうように白い光が包んでいるように見える。

「シロ……さん」

「うん」高く透き通る声が響く「なんでしょう」

 視線を外さずに目を細める。腕は組むでもなく、交差させることもなく、だらりとたれている。

「シロはこれを知っていたのか」

「うん」目を閉じて「知ってたよ」

 垂れた腕、その先の手だけが強く握り締められていた。強く。

 それも次第に弱くなっていく。ゆっくりと開けられた目には微かに潤っている。

「私はずっと、あなたの轢死を回避するために今まであなたに会い」頬に水が流れる「そして何度もあなたを死なせました」

「どうして……」

「名前をくれたから」視線を下にうつむく「本当に、嬉しかった」

 手を再度握り締める。

「でも、また失敗」

 つぶやきが遠く聞こえた。

「シロ」

「止めろ、とは言わないで」頬を伝うものはとまらない「もう聞き飽きちゃった」

 何も返事はなかった。何も会話がなくなった。

 白いカーテンがゆれる。シロの体も揺れる。

「……聞いていいか」

「私に答えられることなら、いいよ」

「寒くないのか」

 見当違いの問いかけにシロは目を丸くした。

 高橋は体を起こし、物を探して顔を左右に振る。

「寒いよ、うんと寒い」自分の体を抱きながら「体は寒くないのに、胸の奥がずっと寒いままなんだ」

「そうか」目当てのものに手を伸ばす「ちょっとこっちきて」

 また目を丸くする。それから一歩一歩ゆっくりと近づきながら、次第にゆっくりになっていく。

 そして、ベッドの横までくる。歩いたところに白い粒子が浮遊している。

 見下ろす姿はとても暗く重い。その姿を誰にも見られたことはない。

 高原は小さく手招きして、さらに近くに寄るように合図する。

「どうしたの」少し顔を赤くして「これ以上近づけないよ」

 ベッドの脇、もう腕を伸ばせば届く距離。ちょっと顔を近づければキスさえできそうな間。

 高原は見つけたものを手繰りよせ、シロに覆いかぶさるように近づいた。

 抱きしめるような格好で両手を後ろに回し、離れていく。

 シロの首には黄色と黒のマフラーが回されていた。今の高原が大事にしているものだ。

「あげ……ます」目の前で微笑みながら「これで寒くないっすか」

 気がつけばシロの体はもうすでに半分以上白い光の粒子になっていた。それでも、シロはゆっくりとそのマフラーに手をやり、握り締める。

「うん」マフラーに手に顔を埋め「すごく、暖かいよ」

 そして消えた。雪のような光の粒子だけが後に残る。光の粒子はあらゆるものに降り注ぎ、溶けるように消える。

「次は、助けてやってくれ」

 最後にその声だけがその場所に響くのみだ。

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