男とココア
その男が悩み始めるのは、決まってココアを淹れてからだった。
度々、その理由を知人等から聞かれるが、彼曰く、
「コーヒーでは強すぎて、紅茶では弱すぎる。ココアが丁度良いのだ」
ただし銘柄や淹れ方にこだわりは無かった。
強いて言えば、最近はスティック型のココアパウダーが何も手を加えずに飲めるから手軽だ、という理由で飲んでいる。
けれども、飲み方だけはいつも同じだ。
窓際にある小さいテーブルに淹れてきたココアを置いてから、その横にあるリクライニングチェアに腰掛ける。
そして、甘い香りが鼻先に届いてから、ゆっくりと飲み始めるのだ。
程よい苦さとミルクの甘みが、彼の心に落ち着きをもたらす。
それと同時に、頭の中で雑然と渦巻き飛び交っていた思考が、じょじょに姿を現していく。
飲み進めるたびに、それがはっきりと見えてくる。
なるべく、飲むペースを一定にする。
そして、思考は漫然と散らかったキーワードと化す。
ココアがぬるくなり少しだけ味が濃くなる。
その時、散らかったキーワード達が、あるべき姿へと変化していく。
あるものは消え、あるものは別の物と交じり合う。
そして、ココアを飲み干した時、それは一つの答えとなる。
「ふむ、分かった」
男は立ち上がり、その答えが真実かを、確かめに行くのであった。