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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT11 カルト宗教結社、天声会
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第十三話「遊興ハイブ、チャイナエリアのバー『白龍楼』」

「それではヨハン先生。今日はどうもありがとうございました」

「いえいえ、同じ天声会の先生方だもの。

 協力は惜しみませんよ。

 またいつでもいらして下さい」


 カムイはヨハン先生に別れの挨拶を行い、シヴァ・クリニックの出口へと向かう。


「行こうか、池上さん」

「はい」


 マキとカムイは並んでクリニックのドアから外へ出る。

 そこでは長峰が受付の女性と雑談しながら待ち構えていた。


「おっ、もうこんな時間でしたか。

 お疲れ様です。

 そうそう、午後のオフィスエリアの視察ですがね。

 天通ティアントン速運スーウィンという総合物流管理会社、天通ティアントンExpressって貴方方もどこかで見たことがあるでしょう?

 そこのオフィスを視察して頂くのですが、15時からでなければ駄目だそうです」


 カムイは内心、キットの下準備と手配の的確さに感心していた。

 天通ティアントン速運スーウィンと言えばこのアトラス内の唯一の運輸業者であり、アトラス内の他の全企業とアトラス運営組織の物資の管理、運送を一手に引き受けている。

 人身売買ヒューマン・トラフィッキングの観点で言えば最大の容疑者でもある。

 アルコロジー・オオヤマツミの9726人の住人失踪の調査をするならばもっとも良い対象である。

 キットは場を与え、嗅ぎ付ける事が出来るかはカムイに委ねたのだ。


「お昼の時間が大きく開いてしまいましたけども、お二人共、昼食一緒に行きます?

 いい所があるんです。

 案内しますよ?」

「うーん……」

「お誘いは有難いのですが、実は二人で遊興ハイブを見に行こうと話してたんです。

 それとやはり外部の人間にはあまり聞かれたくない相談事とかも……」


 マキの言葉にカムイは内心驚きつつも合わせる。


「そう、そうだったよ。いやぁ申し訳ない」

「そうですか。ではそうですね……14時30分に中央エレベータの40階で落ち合いましょう」

「分かりました」


 ***


「一体どこへ行く気だい?」


 カムイはエレベーターで消える長峰を見送った後、スタスタと先を歩くマキの後に続く。

 マキは人目に付かない廊下の端まで来ると、シュタッとジャンプして天井に張り付く。

 そして通風孔を素早く開けて、中からロボットの頭を取り出した。

 そのままバッグへ突っ込み、通風孔も元に戻す。


「コソコソしてると思ったがそれをかっぱらっていたのか」

「カムイさんならば協力して看護師の方の気を反らし続けてくれると確信していました」


 マキはスタスタ歩きながら手早くそのロボットの頭に格納された生の頭脳、脳だけの男の事を説明する。


「遊興ハイブのカジノエリア、バーの白龍楼か。

 オフィスエリアの視察が15時になったのは好都合だな」

「時間は限られています。

 動く歩道が全て稼働中だとして、今のペースでそこに到達するまで最短で23分掛かる想定です。

 急ぎましょう」


 ***


 遊興ハイブの下は地下商店街のようになっており、いくつもの高級飲食店、高級ブティックや大人のお楽しみ用の店が立ち並ぶ。

 1階層上はカジノであり、そこで多少のあぶく銭を得た客からむしり取る事を狙ってこういう店が集まるのである。

 時間帯はまだお昼ではあるが、ここは海面下数キロの暗闇世界。

 昼夜の感覚は無いに等しく、人通りは多い。

 それもまたある種の社会実験として注目されている。


 マキは左右の賑やかにネオンが煌くお店や人ごみを完全に無視してスタスタ早足で迷いなく歩き、カムイも遅れない様に後に続く。

 そしてついに『白龍楼』という木彫りの看板が天井に掲げられたバーへとたどり着いた。

 商店街の通路側は朱色の柱が3、4本立っているだけの完全にオープンな構造になっており、中のフロアのカウンターや大小さまざまなテーブル席は外から丸見えである。

 そして客であふれており、あちこちで賑やかな話声が響く。

 人種的には中華系が多いが、日本人もちらほら居るようである。

 カウンターの隣には炙り焼きでこんがり茶色になった鶏肉がすだれのように大量に下がっている。

 マキは店の前で立ち止まり、ツインテール内部の通信ケーブルを、バッグの中のロボットの頭に接続した。

 その間に10歳くらいの子供が通路の向かいから現れて歩み寄り、カムイの服の袖を掴んで引っ張りながら言った。


「お兄さん、もっといい店案内するよ。

 料理は上手いし、ここより安い、踊り子のお姉ちゃんも綺麗だよ。

 お酒は一杯サービスだよ」

「悪いな、俺はこの店に興味があるんだ」


「この店の料理にはゴキブリが入ってるよ」

「こらっ! このクソガキ、うちのお客から離れなさいっ! しっ! しっ!」


 片手に青い液体を称えたグラス数本の乗ったお盆を掲げ、店のウェイトレスと思われるチャイナ服の女性が駆け寄って子供を追い払う。

 子供は中国語で何か悪口を叫びながら逃げ去った。


「ごめんなさいねお客さん。

 二名様ですね?

 今ならカウンター席もテーブル席もありますよ」


 マキが答える。


「フー・テイシュウさんに合わせて頂きたいんです」

「オーナーに? ……お客さんどちら様?」


「ヤン・ジールイの使いだと言えば分かるでしょうか?」


 ウェイトレスはインフォメーショングラスを片手でかけると、ミュートモードで誰かと会話した。

 しばらくやり取りを終えた後、グラスを外して店の中へ少し歩き、振り返る。


「どうぞこちらへ」


 マキとカムイはウェイトレスの後に続き、客席の間を進み、従業員用のドアを開けてカウンターの中へと入る。

 そしてさらにバーのウェイターの背後を通り過ぎてドアをくぐり、裏の調理室へと入った。

 数人のコックが中華鍋を振り、ソースや酒を鍋に振って蒸気を上げている中を淡々と進む。

 一番奥の冷蔵庫が複数並んでいる突き当りにくるとウェイトレスは立ち止まった。

 そしてカムイ達を振り返り、片手の平を上に上げて背後を示す。


「どうぞ」


 狐に包まれた顔をしているカムイをそのままに、ウェイトレスはスタスタと一人で業務に戻る。


「なんだ? どうぞってここは只の突き当りだぞ?」


 マキが抱える鞄の中でロボットの頭、ヤン・ジールイはマキから送信された情景写真データを見てマキに答える。


(右から2番目の冷蔵庫の扉を開けてくれ)


 マキは言われた通り、右から2番目の業務用冷蔵庫の扉を開ける。

 そこにあったのは冷蔵された食材ではなく、さらに奥へと続く隠し廊下である。


「カムイさん、行きましょう」


 マキはカムイを連れてその中へと入って進む。

 冷蔵庫の扉は自動的に閉じた。


 ***


 廊下の先も行き止まりである。

 狭い小部屋となっており、四方が棚となって様々な中国語のラベルの張られた酒が所狭しと並んでいる。


(左の棚、下から3段目に置いてある青い瓶を右にすこしねじってくれ)


 マキが言われる通りにすると、棚の一部が開き、さらに隠し通路が奥へと続いていた。

 その通路をさらに進んでいく。

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