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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT11 カルト宗教結社、天声会
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第十話「アトラスでの朝」

 案内AIホログラム、キーパーとの対話を終えた後、マキはカムイから手のひらサイズのシリンダー状のガジェットを受け取った。

 そして夜間用の淡い黄色の電灯に切り替えられた廊下へと歩み出る。

 マキはカムイに指示されたポイントを目指し、中央エレベーターへと向かった。


 ***


 ピピピピ ピピピピ

 

 カムイはベッドの頭側にあるパネルから鳴り響くアラームで目が覚めた。

 パネル上の時刻表示は午前8時30分、カムイが眠る前に設定した時間である。

 眠け眼をこすりながらカムイは上半身を起こし、パネルにタッチする。

 するとアラームが停止し、代わりに合成音声が流れた。


「水野様、ホログラムメールが3件届いています。

 1件目、午前2時37分43秒、池上様より件名『おやすみなさい』

 2件目、午前6時00分01秒、アトラス管理センターより件名『本日のアトラス定期メンテナンス情報』

 3件目、午前8時12分23秒、長峰様より件名『視察予定のカウンセリングルームへご案内します。9時に伺いますのでご準備をよろしくお願いします』

 以上です。

 再生する場合は番号か件名、連続再生する場合はその対象と順番をご指定下さい」


 カムイはローブ姿のままベッドから降りてスリッパを履き、バスルームに向かいながら言った。


「先頭から順番に再生してくれ」

「1件目、午前2時37分43秒、池上様より件名『おやすみなさい』の再生を行います」


 カムイの顔の横にマキがこちらを見るホログラム映像が現れた。

 マキの自室で、ローブを羽織っている。


「水野さん、気晴らしの散歩(・・)を終えたので私も就寝します。

 それでは明日もよろしくお願いします。

 おやすみなさい」


 カムイはバスルームのドアをくぐり、備え付けの洗面台で顔を洗う。

 歩みに合わせてカムイを追尾していたホログラムは一旦消え、再びバスルーム内でカムイの横に出現して再生を継続する。


「2件目、午前6時00分01秒、アトラス管理センターより件名『本日のアトラス定期メンテナンス情報』の再生を行います」


 アトラスの全体マップがホログラムで表示されて回転する。

 そして半回転してアトラスが横に切断されたようになって下半分の構造物が透明化、オフィスエリアと工場エリアを結ぶ地下の電子基板のような縦横斜めの流れで構成された通路の内の一本が黄色く強調されて点滅する。


「本日の定期メンテナンスの為、工場エリアとオフィス中央エリアを結ぶB01エレクトリックカーゴ、路線番号EO030が9時から12時までと、13時から16時までの間、封鎖となります。

 同路線をご利用の場合はコントロールパネルからの指示に従い、EO027、EO017路線を代替として分散利用を行ってください」


 カムイは眠い目のまま、置かれていた口内クレンジングツールで歯を磨く。


「3件目、午前8時12分23秒、長峰様より件名『視察予定のカウンセリングルームへご案内します。9時に伺いますのでご準備をよろしくお願いします』の再生を行います」


 正装した長峰がこちらを向いているホログラム映像が映る。


「おはようございます。

 水野さん、本日は元々は午前の予定がオフィスエリアの視察、午後の予定がカウンセリングルームの視察だったんですが……。

 オフィスエリアの予定部署は今立て込んでて余裕がが無いそうでして、午前は先にカウンセリングルームの方へご案内致します。

 患者の方などへの配慮の為、服装に関してはカウンセラーの規定に定められたものを着用してきて欲しいとの事です。

 アトラス内物資移送システムでそちらへ衣装は届けておきましたのでご着用下さい。

 他には入館証……そうですねぇ、水野様や池上様が使用したいメモや記録用の電子機器程度であれば許可が出ますのでそれくらいですかねぇ。

 お持ちいただくのは。

 9時にお二方の部屋の前に伺いますのでご準備をよろしくお願いします」


 カムイはバスルームを出ると、壁に埋め込まれた物資輸送システムのコントロールパネルへと向かう。

 そして受け取った衣装へと着替え始めた。


 ***


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます。それではカウンセリングルームへ向かいましょうか」


 マキとカムイは長峰の後に続き、海底が薄暗く窓から見える渡り廊下を通って中央エレベーターへと歩く。


「朝でも外は真っ暗なんですね」

「アトラスは今海面下5キロで定着しています。

 まぁ厳密にはちょっとだけ浮いてるんですが。

 海面下5キロともなると太陽の光はほぼ届きません。

 泳いでいる魚も目の退化したような深海魚がたまに居るくらいですよ。

 光源が無ければ真っ暗ですね」


「そもそもの話なんですけど、ちょっと今更何言ってるんだとお笑いになるかも知れませんが、どうしてこんなところに都市を作ろうとしているんですか?

 メガフロート上のほうがよっぽどやりやすいでしょうし、開いてる場所もありそうですし」

「将来を見越した基礎技術の蓄積の為の、実験ですね。

 例えば地球と同じように液体状態の水のある惑星は21世紀の段階で7個、現時点では32個確認されています。

 そこへ人類が進出して、拠点を築くにはアトラスでやっているような技術や経験の蓄積が生きてくるわけです。

 まぁ前世紀のスターウォーズ計画と呼ばれる壮大な無駄な実験と同じ、国庫に余裕があり、国費が投入されているからこそ出来る無茶な実験とも言えますね」


「そうなんですね」


 長峰はしばらく無言で歩いた後、前を向いたまま意味ありげに言った。


「ノアの箱舟ってご存知です?」


「すいません、良く知りません」

「旧約聖書に記載のある物語、伝説なんですがね。

 世の堕落を憂いた神が、世界を洪水で滅ぼす事を決意します。

 そして敬虔な信者だったノアにその事を予言し、世界の全ての種類の生命を避難させる事が可能な、巨大な船を作らせました。

 ノアはその箱舟に正しき人々と、全ての動物のつがいを載せ、世界を滅ぼす大洪水から生き残ったのです。

 ある意味似てますよね、アトラスと。

 アトラスに居るのは敬虔な天声会の信者達。

 上にある5キロの海水の層は、光学兵器はもちろんの事、レールガン、衛星からの質量兵器、核兵器だって防ぎきります」


「シェルターのようなものですか?」

「ふふ……まぁ、シェルターとしてもこのアトラス以上のものは無いでしょうね」

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