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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT11 カルト宗教結社、天声会
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第九話「居住リングの案内AIホログラム、キーパーとの対話」

 マキとカムイは居住リングに二つ並んで用意された部屋の前に立っていた。

 カムイは左手を上げて腕時計を見る。


「さすがに疲れて遊興ハイブに行こうなんて気になれないよ。

 今は……おっと、もう22時か。

 これじゃぁ今日はあと寝るだけだな」

「私の注入した抗体ナノマシンはカムイさんの体内に居るアムブロシアー、有害ナノマシンを10分で90%、30分で99.9%駆除するはずです。

 その間はゆっくり休んでいて下さい」


「マキちゃん、ひょっとして俺が寝ている間、アトラス内を探ろうとしてる?」

「はい、怪しまれない程度に調べようかと……。

 もしカムイさんから見て、怪しそうな所があれば教えて頂ければそこを優先的に見ようと思います。

 どこかあります?」


「闇雲に探しても無駄さ。

 普通に入れる場所に隠したりしないよ。

 そうだな……、廊下でずっと立ち話もなんだし、一旦中へ入ろうか」


 カムイは自分の部屋のドアにキーをかざしてロックを解除した。

 ドアが自動的に開き、マキに人差し指でクィクィと入る様に促す。


「分かりました」


 マキがカムイの部屋に入り、カムイも後に続いた。


 ***


 部屋の中は白いプラスチック質のパネルで全面が覆われており、机と情報デバイスの乗ったテーブル、ベッドがあった。

 壁にはボックス型の棚が埋め込まれ、一人用のバスルームもある。

 カムイは無造作に床に置かれた大きな鞄二つを持ち、周囲を見回した。


「えぇっと……、あそこかな?」


 棚の埋め込まれたらしき壁に歩み寄り、壁を見回すがスイッチらしきものも無い。

 高さ1メートル、幅2メートルほどの四角い窪みに幾何学的な飾り彫りがされているだけで、そばの壁に貼り付けられた『荷物棚』というプレートだけが存在を主張するのみである。


「たしか案内ホログラムが居るんだったな。

 えーと、何て呼ぶんだっけ?」

「キーパー!」


 マキが呼ぶとテーブルの上の情報デバイスの上に、純白の作業着の上に弥生時代の衣服のような長く大きな一枚布を重ね着したような恰好の女性のホログラムが現れた。

 ホログラムは胸に片手を当てて、カムイ達の方を向いてお辞儀する。


「実験都市アトラスへようこそ。

 私は居住リングの案内をさせていただきますAIホログラム、キーパーです。

 何かお困りでしょうか?」

「荷物をしまいたいんだけど、この戸棚どうやって開けるの?」


「戸棚は今、水野様の目の前には一つだけ見えておりますが、アトラスは一般的なホテルと違い、長期の滞在となりますので裏に合計5つの棚が隠されております。

 ご自由に用途を決めて使い分けて頂ければ結構です。

 棚はデフォルトで1番から5番まであり、ご使用の際は戸棚から離れて『何番、セット』と言葉で話して頂ければその番号がセットされます。

 開け閉めは「オープン」または「クローズ」と言っていただければその通り動きます。

 番号についてはご自由に命名することが可能です」

「1番、セット」


 カムイが言うと壁の戸棚がガコンと5センチほど壁の奥へ引き込まれた。

 そしてグルンと下へ移動し、上から別の戸棚が現れて押し出される。


「オープン」


 棚はこちら側へ倒れ込むように斜めになって開いた。


「結構広いな、鞄全部余裕で入るよこれは」


 カムイは二つの鞄を棚に入れる。


「クローズ」


 棚は閉じられた。

 カムイはベッドに移動して腰かける。

 そしてポケットから金属製の円筒形の機器を取り出し、先端の吸引口を咥えてスイッチを押しながら息を吸った。

 2100年初頭辺りに流行り始めた電子タバコ、タンクアトマイザーと呼ばれるもので、機器中央のガラス部分で黄色く波打っているリキッドをコイルの熱で蒸気に変えて吸い込んで楽しむ。

 カムイは真っ白な煙をプワ――っと空中に吹いた。

 キーパーはそれを見ていくつもの絵柄のハンドサイズのタンクのホログラムを空中に並べる。


「アトラスでは公共の場所では禁煙ですが、ご自身の居住する室内では自由に吸っていただいて構いません。

 常時換気は行っておりますが、『高速換気』と言っていただければ高速での換気を行います。

 また、室内販売サービスでは各年代ごとの主要な人気フレーバーのリキッドを取り扱っております」

「俺のようなヘビースモーカーがずっと住んでたらエアダクトの中とかヤニだらけになっちゃうんじゃないの?

 潜水都市にとってそういうメンテって死活問題だよね?

 大丈夫?」


「月に一度、メンテナンスロボが掃除致しますのでご心配は無用です」

「ほらっ、(すぅ~~、すぅ~~)前の住人のフレーバーが」


「アトラス浮上前日、昨日掃除は完了していますのでそれはあり得ません」

「浮上前日なんだ」


「アトラス全域のエアダクト掃除をすれば相当量のゴミが発生致します。

 ゴミを保持しておく期間は最小限が好ましいのです」

「へぇ、よく考えてるなぁ。

 そうそう、明日色々歩いて回ろうと思ってるんだけど、アトラス全体のマップとか見れる?」


「アトラス全域マップを表示します」


 キーパーの横、空中の2メートル四方ほどの空間にアトラス全体マップが表示された。

 カムイは身を乗り出して遊興ハイブを指さす。


「まずここだよね。拡大して」

「遊興ハイブを拡大致します」


「池上さん、お酒とかいけるんだっけ?」

「普通程度には」

「遊興ハイブ内で飲酒が可能な店舗をリストアップ致します」


 拡大された遊興ハイブのマップ内でいくつかの店舗が赤くライトアップされ、キーパーの反対側に店舗名がホログラムで並ぶ。


 ***


 カムイとマキはキーパー相手に1時間近くに及び、アトラス全域のマップを表示させ続けていた。

 さすがに疲労が限界に達し、カムイはベッドに倒れ込む。


「駄目だ、もう残りは明日。

 キーパーさん、お疲れ。

 もういいよ」

「了解しました。

 それでは最後に、プライバシーに関して心配する方が良くおられますが、『キーパー』と私の名を呼ぶか、明らかに危険と判断される悲鳴、うめき声等に対してのみ反応し、室内のスキャンを開始いたします。

 それ以外では居住者のプライバシーが侵害されることは無く、各種法律を遵守して国家的な定期検査を常にパスしておりますのでご安心ください。

 それでは失礼致します」


 AIホログラムは消えた。

 カムイは寝転がったままインフォメーショングラスをポケットから取り出してかける。

 そして空中に見えるパネルを操作してマキに秘密のコミュニケーションルートから話しかけた。


(展望台フロアからアトラス全域を見たのを覚えてるかい?)

(はい、視界に映った人工物は全てメモリーにマッピング済みです)


(さっきキーパーに見せて貰ったマップの精度は?)

(照合出来る範囲においては、かなりの確率で精密に一致していました。

 正確な建築データをベースに生成されたものと思われます)


(キーパーが見せてくれたマップに『嘘』はあった?)

(一部違いは有りましたが、後で増築された等の可能性もありますし)


(そこだよ。

 人間はどうでもいい事に関しては隠さないんだ。

 隠すってのは、どうしてもそこに触れられたくない致命的な理由があるからこそ隠す。

 ささやかなものなんてのは無いんだよ。

 夜中、もし探りを一人で入れるなら、俺が示すポイントのエアダクトにちょっとばら撒いてもらいたい物がある)

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