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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT10 パワーゲーム
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第十話「レジスタンスの急襲」

「4、3、2、1、プラットフォーム・カバーをオープン。全員が退出後、撤退開始までの間、水面下で待機します」


 潜航艇のプラットフォームの天井部分が開いていき、曇りがかった灰色の空が広がる。

 パワードスーツに乗った谷川が空を見上げて呟いた。


「俺はレジスタンスに加わって命懸けの作戦をいくつもこなして来た。

 いつ死んでもおかしくない、負け組の人生だと思うこともあるが、この空を拝められる奴はアンダーワールドにはほとんどいねぇ。

 この空を拝めるのは……俺達の特権だぜ……」


 マキは黙って谷川の顔を見て、続けて空を見上げる。

 彼らの憧れの空、それは地上の人間にとっての日常なのだ。

 マキにとってそんな彼らの感情など、存在を想像すらしなかったものであった。

 各員のバイザーにキットの音声が響く。


「偵察ドローンを射出するよ! 発射完了まで2メートル以内に近寄らないで!」


 ツリー状に配置された偵察ドローンが10機、次々と上空へと飛び立っていく。

 今度は別のオペレーターの音声が響く。


「偵察ドローン10機全て射出完了。重装パワードスーツの3名はホバー・リフティング・デバイスを使用し、そのままリゾートビル屋上へ浮上してください。

 ……ブリッジのセット完了、地上部隊はブリッジを経由して移動して下さい」


 パワードスーツは3機共、腰の周囲を囲むように装着されたホバーリフティングデバイスをアクティブにする。

 その中の一機に乗る山岸が人間としては紅一点の歩兵隊員、リーフェイの方を向いて親指でパワードスーツの背中側を指して言った。


「リーフェイ、行くぞ、乗れ」


 リーフェイは素早く山岸のパワードスーツに駆け寄り、山岸が差し出した巨大で平たい電磁射出砲、シャープシューターの後部を踏み台にして登り、上部のハンドルに掴まる。


「よし、上昇開始!」

「上昇開始!」

「上昇開始!」


 3体のパワードスーツと、その一機に掴まったリーフェイが空中高く上昇していく。


「行くぞっ!」


 ワンを先頭に地上部隊もブリッジを伝って港へ駆け込み走る。

 最後にマキが走り出ると潜航艇はプラットフォームのカバーを閉じ、即座に水の中へと潜って消えた。

 その間もワン達はリゾートホテルを海沿いに走り、マキは最初に高さ3メートルの電源設備に飛び乗り、そこからリゾートホテル壁面の出っ張りへとさらに3メートル跳躍、さらにワイヤード・ロケットパンチを射出して8階ほどの高度のベランダに掴まり、ワイヤーを巻き戻しながら壁面を走る。


 ***


 20秒後、パワードスーツ3機は同時に15階建てリゾートホテル屋上へと着地した。

 即座にリーフェイは山岸のパワードスーツの背中から飛び降りて周囲をクリアリング、屋上へつながる階段のある入り口に吸着地雷を仕掛け、貯水等を背にしてしゃがんで待機する。

 空はキットのコントロールする偵察ドローン10機がはるか遠くまで飛び回っており、各員のバイザーの3D戦術マップに次々と兵員情報を表示されていく。


「ホアンさん、ハンニバルズのホバーヘリ2機を見つけたよ」

「情報確認、撃墜する」


 ホアンの乗るパワードスーツが持つ巨大なレールガンのチャージ音が鳴り、3秒後には発射された。

 レーダーに映る想定外の敵に驚き、こちらへ機体を回転して向けようとしようとしていたハンニバルズのホバーヘリに命中。

 空中で爆炎が上がり、破片が地上に降り注ぐ。

 そしてそれと同時にホアンのパワードスーツの背中から大型のミサイルが射出されていた。

 それはもう一機、1キロ先を飛んでいたホバーヘリへと向かっていく。

 ホバーヘリは慌てて回避行動を試みたが至近距離でミサイルは爆発した。

 6つあるホバースラスターの内、右尾翼2機を破損、制御を一瞬失ったタイミングで、レールガンのプロジェクタイルが飛んだ後のプラズマの筋が機体を貫き、同時に爆発して落下する。


「航空戦力の撃破完了、しばらくの上空の安全は確保した!」

「いいぞ、ホアン」


 残り2機のパワードスーツも屋上からハーバーエリアを見下ろし、次々とシャープシューターでハンニバルズの重装歩兵を撃破していく。

 奇襲は完全に成功した。


 ***


 ティアラのプライベートボートの中で、壁を背にしゃがみこみ、銃を構えていたマサコは外に響く音の異変に気が付いた。


「今何か爆発音が……」

「しっ……」


 しゃべりかけたティアラをマサコが制止する。

 二回目の大きな爆発音、そして周囲の遠くで断続的に鳴り響く爆発音を確認後、マサコは鏡の破片を持ってリゾートホテル側の窓へと移動した。

 そして鏡に映して周囲を探る。


「どうしたの? この爆発音は何?」

「どうやら援軍が来たようだ。サーチアイミサイル……対空ミサイルの飛行音も聞こえた。

 空にはレールガンの発射後の水蒸気の筋も残っているし、いくつかの見たことのない偵察ドローンも飛び交っている。

 周囲の小さな爆発音はおそらくシャープシューターの爆散ディスクの破裂音。

 シャープシューターは人間が持てる武器じゃない、重装パワードスーツまで出ているという事だ。

 おそらく援軍の方角は南。

 ティアラ、この援軍に心当たりは?」


「分からないわよ。

 でも援軍が来たという事は、私達は助かると言う事ね?

 ここに居るんだと教えないと!」

「偵察ドローンを私は鏡越しに直接見た。

 それはつまり、相手側もこちらを見たという事だ。

 教えるまでもなく知っている。

 問題は相手が何者か、それ次第で動きは変わる」


 ***


 リゾートホテルの横で、ワンの指示により小岩、センロン、ドノバンが離脱、退路の確保とクリアリング、監視に移った。

 ワンはそのままホテルを回り込み、ハーバーエリアを囲む建物の下を走り抜ける。


接敵コンタクト! グファ……」

「気をつけろ! 右から来てるぞ、グッ、ゲホッ、ゴボボ……」


 マサコ達を包囲していたハンニバルズの兵士達を次々と打ち倒し、ワンは特攻する。

 ワンの斜め前、屋上からは射線の通らない位置にいたハンニバルズのパワードスーツがワンに銃口を向け始める。

 だが空を裂く短い飛行音の直後、何かがパワードスーツの頭上から降り注ぎ爆発した。

 上のベランダからワンと同じ方向に走っていたマキがポータブルミサイルランチャーを撃ったのだ。


「助かったよ、マキ」

「重装兵は任せてください」


 ***


 プライベートボートの中で、壁を背にしゃがみこみ、目を閉じて静かに音を聞いていたマサコが、口だけを動かして言った。


「分かったぞ、援軍の正体が」

「誰なの?」


「闇社会で流通しているポータブルミサイルランチャーの音が聞こえた。

 こんなものを使うのは……マフィアだな。

 お前マフィアに助けられるような心当たりあるか?」

「人脈が無いとは言わないけれど……あいつらにそんな義理無いわよ!」


「そうか……あんなものを使うのはまっとうな組織じゃない。

 そしてあっという間にホバーヘリ2機を撃墜した動き。

 マフィアにしては手際が良すぎる……クレバー過ぎる……思い当たるのは今朝のニュースの……」

「……まさか……レジスタンス……何で私達を……」

「ティアラさん……一人だけレジスタンスと繋がりを持ちそうな人に心当たりがありますが……」


「……マキ……」

「あいつか」


「……状況が読めてきたわ。あの『援軍』は私達の味方よ。私達を救出に来たのよ」

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