第七話「駆け抜けろ!」
マサコがスコルピオの腹の下で炸裂させたのは特殊作戦用のアンドロイド無力化用のグレネード、ただの煙と金属繊維によるレーダー妨害では終わらない。
空中を浮遊する粒子と金属繊維は機器の奥深くまで浸透し強烈な静電気によって吸着、電子機器に障害を発生させ続ける。
手で拭う程度で取れるものではなく、精密機器用の特殊な洗浄を行わなければ機械はただのガラクタとなる。
スコルピオは自分の首から上以外はむき出しの機械の体に、まるで昔駐車場で使われていたような石綿のコーティングがされて、アザラシの子供のように白く覆われて行くのを観察、分析していた。
一見すればただそれだけのように見え、進み始める。
(体内伝達信号の混信発生……信号ロス60%)
(体表に異常電圧発生……15万ボルト検出)
(異常電流によるマイクロチップ破損を検出:35個)
(補修用ナノマシン機能不全……再合成中)
この特殊繊維を全身にまとった状態で動こうとすれば、強烈な静電気が発生、事態はより悪化する。
少しの悪あがきでそれを悟ったスコルピオは完全に動きを停止した。
静電気で機能異常を発生して動作停止を繰り返す補修用ナノマシンを何度も再生産して、体を片手をついて駆け出そうとしたままの姿勢で静止させ、そのまま少しずつ異物の除去を開始する。
だがその状態でも暗号化通信を使用し、ハンニバルズへと戦術情報の同期を続けていた。
***
必死で育子の手を引いて走るティアラとちぃに、凄まじい速度で走ってきたマサコが並ぶ。
「マサコ! あの怪物ロボットは大丈夫なの」
「あのロボット、火車の特殊グレネードを味わうのは初めてだったようだな。
10分くらいはあの場から動けないだろう」
「しばらくは安全ということですね!? これでハーバーエリアまでたどり着けるますね!?」
「そうはいかない。私達の位置がバレたんだ。ここからは強行突破することになる。
……言ってるそばからお客さんが登場だ」
ティアラ達の頭上のガラスさらに上を軍用歩兵輸送ホバーヘリが通り過ぎ、一瞬影がさした。
「ティアラ、もう一回グラスを貸せ」
「ちょっと……いきなり取らないでよ」
「ほぃ、そのまま進め。私はすこし先に行く」
ティアラにインフォメーショングラスを返したマサコは、まだ鉄筋だけで下の階層が見えている横の床の空いた場所から下の階層へと飛び降り駆け抜けていく。
「すごい速さと身軽さですね。スー○ーマンですか!? あの人」
「薬物には反動があるのよ。ものすごい負担を心臓と体に受けているはずよ。
彼女は見た目はホステスなんてできる華奢な体だけど、心臓はサラブレッド並なのよ。
だから筋肉質の大男多数相手に立ち回って戦える。
それでも火車の薬物強化兵がその力を発揮できるのは最大で15分……と推測されているわ」
***
ティアラ達が走っている建設途中の環状商業地区。
その上空を通り過ぎたホバーヘリから、4人の武装したハンニバルズの退院がホバリング降下中であった。
4人は細長い建物の幅に対して等間隔で横に並び、ティアラ達の逃亡ルートを遮る位置に降りていく。
そして開けた空間、まだ仮の床があるだけで、壁も内装も何もないフロアの天窓を同時に突き破った。
そのままガラスの破片と共に床に着地し、ティアラ達が駆け出てくるであろう2つの扉に向けて銃を構える。
4人のホバリングデバイスが一斉に腰からパージされ、床に落ちて音を立てる。
「ブラボチーム……目標ポイントに到達!」
緊張した空気の中、隊員たちは2つの扉に交互に銃を向けて警戒する。
二人の銃の装填されているのは徹甲弾、もう二人の銃が装填しているのは犯人捕縛用の筋弛緩剤を飴状にして固めたスタン・ダートである。
ギギギギ……
突如金属を切り裂く音が響く。
「何の音だ?」
「おいっ、そこの床!?」
4人並んだ隊員のちょうど真ん中の二人の間、その床で特殊な高周波ナイフの刃が2つ、金属のプレートを切り裂きながら動いていた。
「なっ! なっ!」
「どうした? 何が起こってる?」
隊員が落ち着きを取り戻すより早く、切り裂かれた床のプレートが落ち、代わりにマサコが飛び出した。
床の穴から飛び出て隊員たちのど真ん中に出たあと、仁王立ちで床の穴をまたぎ、ハンドガンを握った両手を真横に広げて立つ。
「なっ!」
「撃てぇ!」
「まて撃つな! 俺を撃つなぁ!」
「悪いね」
フレンドリーファイヤを恐れて躊躇した隊員達を尻目に、マサコの両手のハンドガンが同時に火を噴く。
それぞれの銃から発射された徹甲弾はまずマサコの左右の隊員の頭を貫き、貫通して更に外側の二人の頭を貫く。
マサコのハンドガンから放たれた2発の徹甲弾で、4人の隊員は一斉に倒れた。
「こっちも必死なんだよ。
それと、お前らは音を立てすぎ、自分の位置を知らせすぎだ。
私の部下だったら殴り飛ばしてるぞ」
直後に2つ並んだ扉の一つが開き、ティアラ達が走り出る。
「ひえっ!」
「ひぃぃっ!」
「ここは戦場、彼らは兵士だ。覚悟の上さ。
それより進むぞ、そこの階段を降りればハーバーエリアだ」
***
レジスタンスの乗る潜航艇は都市の地下の開水路を最高速で移動中であった。
もちろん目的は、ティアラ達を救出する為である。
潜航艇の司令室で額に汗を流しながら沈黙するワンや豊国議員、レジスタンスの幹部たちに、情報ルームからキットの音声が届く。
「大丈夫、情報屋のティアラ達はこんどは4人のハンニバルズ隊員の待ち伏せを切り抜けた。
凄いね、ほんと何者なんだろう!?」
「地上にも凄まじい人間が居るものだな。
多数のNSAT、スコルピオ、そしてハンニバルズ4人を抜けてくる……ホステス……とは……」




