第六話「アーマードバトルアンドロイド『スコルピオ』」
「こっちよ! 早く!」
「ティアラさん、一体どこへ行こうとしてるんですか?」
ティアラはインフォメーションバイザー・グラスを装着し、AR表示された移動ルートに向かって走っているようである。
すぐ後を育子の手を引いたちぃが追いかけ、マサコは時々曲がり角で拳銃を構えて追跡する人の音が無いかチェックしながら後を追う。
「港よ。私のプライベートボートがあるのよ。
……緊急時には水中にも潜れるのがね」
「こっ、国外逃亡ですか!? いやぁぁ! 私、家にいっぱい趣味の品物を残してるのにぃ!」
「そんな訳ないでしょ!
海中のセーフハウスに向かうのよ。
そこから……私達に手を出した連中に思い知らせてやるわ!
前回は手打ちにしたけど、今度という今度は許さない!
全面戦争よ!」
「ティアラ、ちょっとそれ見せてみろ」
走って追いついたマサコがティアラのインフォメーショングラスを横から片手で取り、自分の目に当てる。
「ちょっと、返しなさいよ!」
「このルートは駄目だ。先回りで包囲されてるぞ」
「ええ!?」
「コンピューターが弾き出した最短、最適のルートだからな。
間違いない。
この先はデッドエンドだ。
短絡的な答えが常に正解とは限らない。
……上へ抜けるぞ」
「上? 警察のホバーヘリにすぐ捕捉されるわよっ!」
「上は建設途中の環状商業地区。
まだ開業予定が半年後だったから、内部配線も完了してないはずだ。
つまり、公共カメラや公共セキュリティセンサー類はまだ機能していない」
マサコはグラスをティアラに返すと斜め前を指さす。
「あそこの階段が環状商業地区の支柱の中を通り、上の連結ビルへと繋がっている。
エレベーターもまだ機能してないからあそこから上まで登るぞ」
「上って……たしか環状商業地区ってビルの10階くらいまでの高さが支柱、その上にどこまでも続く横長のビルが載ってる構造よね……。
……マジで上るの」
「かっ、勘弁してください……」
***
ティアラ達は地下2階の高さから、地上10階まで続く螺旋階段を登り切った。
「はぁ、はぁ、休んでいい?」
「駄目だ。無理しない程度に……走るぞ。このビルの中を1キロほど進めばハーバーエリア、お前のプライベートボートのある港が横にある」
「私、学生時代陸上やってましたけど……最近はなまってるみたいです……。
……きびしい……」
ティアラ達は内装がされておらず、建材むき出しのビルの中を走り続ける。
「はぁ……はぁ……、上に天窓があるけど大丈夫かしら?
ホバーヘリで覗かれたら一発でバレるんじゃない?」
「私達がここに居ると想定して捜索してたらな。
だが今頃連中は地下封鎖で必死だろう……」
一つの広大な部屋を通り抜け、扉から次のフロアへ入ろうとしていたが、突如、マサコ達の背後で激しいガラスの破裂音が響いた。
一行は驚いて振り返る。
天窓が破られ、無数の破片が宙を舞い、雨のように地面に降り注ぐ。
そしてその中心には後頭部から長い鞭状の機械をつけ、人間の美女の顔をして、体が機械化されたアンドロイドが腰をかがめ、片手を地面に付いて着地していた。
片手には小型のハードプレートで覆われた四角いスーツケースのようなものを持っている。
「厄介そうな奴が来た。急げ!」
ティアラ達を追い立てると同時に、マサコはポケットから小型のカプセルを取り出し、針を飛び出させて自分の首に薬物を注射する。
アンドロイドは立ち上がりながら小型スーツケースを脇に挟んで構える。
スーツケースの前面のカバーが素早く開き、5つほどの穴が露出した。
「うぉおおらっ!」
マサコは壁際にあった金属製の工事用の高さ2メートルほどの発動機を引き倒して入り口を塞ぐ。
直後にアンドロイドの小型スーツケースから発射されたクロスボウの矢のようなものが発動機に次々と命中し激しい金属音を立てる。
「な、何?」
「マズイ事になった。
相手の方が私達よりも早い。何とかしてかく乱して回避する。
ティアラ、そこは左の部屋に入れ!」
ティアラ達は直進を諦め、左への入り口へと入った。
マサコは全員が入り終わると、近くに置いてあった鋼材を拾い、捻じ曲げてドアノブと近くのパイプを結ぶように固定する。
「マサコさんの腕、凄い事になってますよ……」
「彼女の本気よ。薬物強化、レッドカルマをうったわね……」
「急げ! 止まらず走れ!」
マサコは近くの鉄筋を一本引き寄せ、壁に斜めに立てかけてさらにドアを補強する。
だが激しい音と共に壁の一部から機械仕掛けの鋼の長い尻尾のようなものが突き出した。
先端が鍵爪状になって開き、中央のカメラをキョロキョロ動かして部屋の中を探る。
そしてマサコを見た後引っ込んだ。
「ちっ」
マサコは反転して地面に何かを設置し、ティアラ達の後を追う。
だが直後に激しい金属のこすれあう音と共に、鋼の尻尾で壁が×字に切り裂かれた。
建材がはじけ飛び、土煙のようなものが舞う。
そして鉄筋を吹き飛ばしながら、アンドロイドが壁を突き破って突入する。
トカゲのように地面に這いつくばりながら、美女の顔だけが不自然な角度でマサコ達を見上げ、後頭部から伸びた鋼の尻尾が次の攻撃の為に後ろにしなる。
マサコはライターのような器具を取り出し、アンドロイドに向けた。
それを見て少し身構えたアンドロイドは慌てて地面を見回す。
だが腹の下で、小型のスモーク&チャフグレネードが炸裂し、煙と輝く金属繊維がアンドロイドを包む。
***
アンドロイドがグレネードで躊躇している間もティアラ達は先へと進む。
「人間の顔をしていたけども……あれはサイボーグなの? それともこの前来たマキちゃんみたいな完全なロボット?」
ティアラ達に追いついたマサコが答える。
「あの顔は……表情筋が苦痛と恐怖の状態で死後硬直している。何かの薬剤で懲り固めて無理やり直しているようだが私には分かる……死体の顔だ……。
そして目の動き、反応。中身は完全にロボットだ」
「ひえっ。冗談でしょう?」
「私は幾つもの死体を見て来た。前内閣直属特殊部隊・火車として人身売買組織、殺人ショーを行う現場にも乗り込んだ。
何度も見て来た……被害者の死体の顔だ。
間違いない。
それをロボットに被せて動かすとは……趣味の悪い奴のコレクションといったところか」
***
アンダーワールドではレジスタンスの指令潜行艇が海水路を移動していた。
指令室ではワン、マキ、豊国議員、そして他のレジスタンスが緊張した表情でホログラムの戦略情報を見守っている。
「大変だ皆」
情報ルームにいたキットからの通信が入り、キットの姿がホログラムで映し出された。
「ネットワークの情報を分析していて分かったんだ。
情報屋ティアラを追跡している警察やNSATに、さらに別の戦力が加わった」
「誰だ?」
「ハンニバルズ……そして五十嵐の3体の護衛用アーマードバトルアンドロイドの一人、スコルピオが出動している」
ホログラム映像で、ハンニバルズの背後を歩くスコルピオの映像が映し出された。
「スコルピオは街中での戦闘や暗殺に特化したアンドロイド。
顔は五十嵐の趣味で定期的に変わる。
極めて危険だ。
人間じゃ太刀打ち出来ないぞ……」
「豊国さん、一体どうしました?」
豊国議員は映像を見て絶句していた。
戦略ホログラムデスクに置かれた両手の指が小刻みに震えている。
「彼女は……私の親友と……去年年の差20歳で結婚した奥さんだ。
若いのにしっかりした女性だったが、絶世の美女だったのが災いし、五十嵐が何度かちょっかいを出そうとしていた。
……私が阻止したのだ。
今日、まだ五十嵐の元に居た時……ニヤニヤしながら俺に見せたいものがあると言っていたが……。
その時はどうせ下らない事だと無視していたが……。
……こういうことかぁっ!!」




