第一話「レジスタンスの協力者達」
マキとキットを後部座席に乗せ、ボウの運転する違法改造電動バイク『鵺・スーパーカスタム』は金属パネルで覆われたメンテナンストンネルを進んでいた。
ここは地上に露出した大規模エアダクトから入り込み、地下に二層ほど潜ったエリアで、人の姿は全く見えない。
バイクは徐々にスピードを落とし、直径100メートル、深さ50メートルはありそうな広大な円形の空間の壁面の通路で停止した。
フロア中央には大きなブリッジが中央の柱で支えられており、壁に空いたいくつもの穴から横倒しの円柱状のトラックほどの大きさの貨物を受け取り、回転しつつ上下に動いて別の穴へと送り込み続けている。
「ここは……大型貨物パケットトランスファーシステムの中継サーバーですね?」
ボウはゴーグルを外して頭に掛けながら片手でバイクのコントロールパネルのボタンを押し、スタンドを出す。
「そうだよ。それよりお姉さんの腕の中でぐったりしている少年を起こしてくれる?」
「キットさん、……キットさん!」
キットは薄目を開け、何度も瞬きしながらぼんやりした顔で背筋を起こす。
「……良かった……生きてたよ……」
「おはようキット。寝起きで悪いけどネオ東京に戻るための細工をお願い」
キットはバイクから降りるとフラフラしながら壁のパネルの方へと歩き始めた。
「うぇぇ……気持ち悪い。ほんと寿命が縮むよぉマジで……あ……」
「座席の掃除ならボクが自分でやっとくよ。それより急いで」
キットは壁のパネルを開いて配線を確認した後、側頭部のカバーを開いてポーチから取り出したスティックを差し込む。
そしてそこにケーブルを差し込んで連結し、配線と直結させた。
フロア中央のブリッジが一つの貨物を乗せた状態でマキ達の立つ通路の高さまで移動し、回転してブリッジを繋げる。
同時に貨物の扉が自動で開いた。
「ネオ・東京行きで観葉植物の業務輸送用ポッドだ。バイクと人間二人が入るスペース付き」
「バイクを入れるからちょっと降りてね。行くよ、キットも急いで」
マキはバイクの後部座席から降りる。
ボウはバイクのスタンドを再び収納するとイオンスラスターの噴射を利用しながら器用にウィリーさせてバランスを取り、フレーム内蔵の人工筋肉で車体をバウンドさせ、通路の柵を乗り越えてブリッジに飛び移り、そのまま輸送用ポッドの中へと入っていた。
「割れ物注意、空調指定の便を選んだんだ……、すぐ見つかって運が良かった」
「キット、急いで!」
マキはまだフラフラしているキットに駆け寄ると片手で肩に担ぎ、柵を乗り越えてポッドの中へと続く。
全員が入ると扉が閉じられ、完全気密されたプシューという空気音が扉から響いた。
ブリッジは再び動き始める。
「ネオ・東京まで真空管の中をマッハで移動する。ワン達とどっちが早く着くか競争だね……オエェェェェ」
***
ネオ・東京のアンダーワールド。
滞留した工業廃水の泡がゆっくりと漂う大きな水路の横を、ワンとレジスタンス、そして全身にまだインプラントと動作補助用のギブスを付けた豊国議員が歩いていた。
「豊国さん、足元に注意してください。右のあの通路に入ります」
一行はトンネルほどの大きさの通路を進む。
左右にはボロボロのフード付きジャンパーを被った男、何処からか拾って来た絨毯をマント替わりに羽織り、赤ん坊を抱いている女性、あぐらをかいて拾った玩具で遊ぶ子供などが、まばらに通路の両端に座り込み、通り過ぎる一行を眺めている。
「ここは?」
「地上で言うと、平和島地区辺りです。
アンダーワールドに点在する協力者集落の一つ。
我々の滞在の秘密を守り、危険や不審なものが近づけば有れば彼らが知らせてくれます。」
「そうか……せめて彼らには衣類や毛布、ミルクや食料を提供したいところだな……」
「ご厚意に感謝します。しかしそれは状況が落ち着いてから。
まだ豊国議員ご自身の身も安全とは言えません。
それに彼らもずっとアンダーワールドで生き延びてきた。
そうヤワでは御座いません」
一行が一番奥の部屋に辿り着くと、ドラム缶でたき火をしながらビール瓶を掴んで酒を飲んでいた男が立ち上がり、素早く壁に立てかけた3枚のトタンのようなパネルを掴んで横にずらす。
そして只の壁に見える場所を手で押して、隠されたドアを開き、ワン達を手招きした。
ワンはその男とすれ違い際に小声で囁く。
「重要人物だ。いつも以上に見張りを念入りに頼む」
男は無言でさっさと入れと手を振り、一行が全員入り終わるとドアを閉じ、パネルを元の位置に素早く戻した。
そして再びドラム缶のたき火の前で座り込み、酒を飲み始める。
***
ワン達はむき出しのコンクリートの柱が4本立ち並んだ大きな部屋の中に入り込む。
中には机が幾つか並べてあり、既にキットとマキは着席していた。
「早いな、キット」
「やぁ、ワン。僕達の勝ちだね」
豊国議員を中心に、レジスタンス達とマキは机を囲んで座りなおした。
そしてワンが立ち上がり、マキの方に手を向ける。
「豊国さん、改めて紹介させて頂きます。
彼女が軍用アンドロイドのマキ。
胸にブレインスキャンしたカイのイミテーション頭脳を保持しているらしいです」
「そうか……、どこかで見た事があると思っていたが、八菱重工研究所の……。
五十嵐の特殊作戦チームの襲撃から逃げ抜いたアンドロイドか」
マキは少し興奮して問い返す。
「特殊作戦チーム……。貴方は八菱重工研究所の事件の情報をご存知なのですか?」
「マキちゃん、君が暴走して研究員を殺傷した事件とされているようだね。
だがそれは指名手配して君を見つけ出すのに好都合だからねつ造された……真っ赤な嘘だ。
五十嵐の狙いはP-Xの断片。
君の中に眠るカイの記憶だ。
君が五十嵐達の手から逃げ延びてくれた事、カイの記憶を守り通してくれた事、本当に感謝する。
それにすべてが掛かっている。
本当にありがとう……」




