第八話「突入S33号室」
マキはメガリニアの13階の通路を走る。
目標は豊国議員の囚われている14階、フロアV2のS33号室の真下の部屋である。
本来上への移動はエレベーターや階段を使うが、この状況では厳重な警備、トラップが張られているのは自明である。
目の前の十字路の右から警備兵が零式熱小銃をこちら向けて身を乗り出し、さらに奥の十字路では携帯型リニアキャノンを脇に抱え込んだ重装歩兵が現れた。
マキは素早く身を丸めながら、高さ3メートル、距離5メートルほどの跳躍を行い、その軌跡を遅れてなぞるようにサーマルガンの弾丸が壁に穴を開ける。
そしてその兵士の胸に思い切り蹴りを入れるように着地して押し倒すと同時に銃を奪う。
そのまま奥の重装歩兵に向けて再び疾走。
通路の奥の重装歩兵が抱えるリニアキャノンの小木の丸太のような砲身がレールを残して輪切り状に6つに分離し、前後にニュッと移動して伸びる。
その瞬間、マキは地面にスライディングするように滑った。
マキの上を目にも止まらないスピードで通り抜けたリニアキャノンの重量弾は轟音と共に通路の突き当りの壁に大穴を開けてパネルをひしゃげさせ、剥がれたパネルが床に音を立てて落ちる。
サーマルガンと違い、リニアキャノンのような高重量弾は瞬間的なプラズマ圧で加速させると銃身が持たない。
その為リニアキャノンは発射の瞬間だけ砲身、これはガスやプラズマを封印するものでは無く、電磁力の道筋を作る役割の砲身を延長させ、距離を稼いで磁力で加速する。
次弾装填は延長した砲身が元に戻って行われる。
当然、次弾発射などマキの接近までに行えず、重装歩兵はマキが手首から繰り出したEMPブレードに腕の装甲を貫かれた。
重装歩兵の腕は骨と神経と回路を内部で切断されて肉と皮で繋がった状態になり、叫び声をあげてその場に屈む。
マキは重装歩兵からリニアキャノンを奪ってさらに走った。
右手に零式熱小銃、左の小脇にリニアキャノンを構えた状態でしばらく経つと、両方の兵器のデジタル表示に所有者認証の文字が表示され、操作可能な状態に変わる。
事前に飲んでいた、レジスタンスのタブキーのパルス信号の作用である。
***
14階ではワン達が豊国議員の居るS33号室の前で膠着状態にあった。
ヘビーマシンガンを持つ重装歩兵はオートエイムプログラムを搭載しており、L字型に折り曲げて攻撃を試みたワンの熱小銃は大口径弾を受けて破壊され、対応に手間取る十数秒の間に反対の通路から小型パワードスーツと歩兵の応援が到着、手も足も出ない状況となったのである。
ワンの傍らで小銃を手にした男が首に掛けた通信機に手をかける。
「こちら突入部隊、S33号室の前は完全に固められた。
……甘く見ていた。
とても今の装備で突破は不可能だ」
ワンが粒子砲、いわゆるショットガンのようなものを縦に構えながら壁面に背を付けて弾丸を装填する。
「今しか無い。次のチャンスは無い。何とかして豊国議員を救出するのだ!」
「しかしワンさん。この状況は……」
「キット! 彼女の状況は?」
「今13階からそちらに向かってる。階段もエレベーターも無視。
おそらく降りた時と同じ手を使うつもりだろう」
「彼女に戦術情報を同期しろ。青木、日下部、二人同時に床と天井に索敵プローブを投げろ」
「分かった! いくぞ日下部、3、2、1、GO」
二つのピンポン玉ほどの大きさのレンズがあちこちについた金属球が同時に投げられ、角からS33号室を固めた兵士たちの目の前に飛び出す。
床から投げたプローブは角から出た瞬間に炸裂して粉々となった。
1秒遅れて天井のプローブも破壊される。
***
13階を走っていたマキは上を見た。
そして零式熱小銃をフレシェット弾モードに切り替え天井のあちこちにむけて走りながら射撃する。
そしてある地点で立ち止まりリニアキャノンを天井に向けた。
砲身がニュッと伸び、轟音と共に天井の端に大穴をを開ける。
ついでにいくつもの天井パネルが金属の破片類とともに床に落ちた。
リニアキャノンの二発目を発射。
天井の反対側の端に大穴を開け、二つの大穴の間部分がガラガラと崩れ落ち、一緒に小型パワードスーツ一体と重装歩兵二人、兵士3人が落下する。
マキは14階の床の重量を支える内部の梁状の構造物を狙っていたのである。
サーマルガンのフレシェット弾で兵士達を撃ちながら起き上がろうとしているパワードスーツに歩み寄り、コントロール装置のあるバックパックにEMPブレードを突き刺した。
そして次の瞬間、EMPブレードから飛び散る火花と共にパワードスーツは機能停止する。
さらに這いつくばった状態から振り向こうとした重装歩兵をフレシェット弾で撃ち抜く。
この程度の装甲であれば貫通するのである。
二人の重装歩兵を戦闘不能にしたマキは零式熱小銃を捨てて、ヘビーマシンガンを奪い、目的の部屋の錠を撃って破壊、突入する。
***
ワン達が隠れている角の奥で、あちこちで銃撃の音と兵士達の呻き声、その場に何人もが倒れる音が響いた。
「何だ? どうなってる? キット」
「マキは同期された兵士達を下からフレシェット弾で撃ち抜いた。 おっ何を……」
突如轟音が鳴り響き、ワン達の居る床までが振動、目の前を多数の破片が飛んで壁にぶち当たる。
「マキがリニアキャノンで天井、14階の床を撃った。……そういう事か……。
バイザーを付けてプローブをもう一個投げる準備をするんだ。
次が突入のチャンス。
マキが次のリニアキャノンを撃った瞬間だ!」
再び轟音が鳴り響き、破片が飛んで壁にあたる。
「プローブを投げろ!」
再びプローブが投げられ、ワン達レジスタンスのバイザーに壁越しの敵情報が映し出される。
床にぽっかりと穴が開き、パワードスーツと重装歩兵の姿が消えていた。
残るは遅れて駆けつけた4、5人の兵士。
全員床の穴に気を取られている。
「行くぞ!」
ワン達は飛び出した。
***
マキは豊国議員の居るS33号室の真下の部屋に入っていた。
窓に向けてヘビーマシンガンを撃ち、ガラスを破壊する。
同時に暴風が部屋に吹き込み、軽い調度品が音を立てて転がり、あちこちにぶつかった。
マキはリニアキャノンとヘビーマシンガンに付けられたベルトを肩にかけ、窓の外に出ると壁面に張り付きながら登る。
マキは体表から銀色のナノマシンを染み出しさせて壁や天井に吸着出来るのである。
S33号室の窓の横まで登ると、壁に背中を向けるように掴まり、リニアキャノンを構える。
そして体を反転させながら窓に向き直り、中を確認しつつリニアキャノンを向ける。
そこには車椅子に座ったままの豊国議員の後ろ姿と、全身がメタリックグリーンの女性型ロボットの姿が有った。
女性型ロボットは既にこっちに向けてリニアキャノンを構えている。
砲身が伸びきったリニアキャノンを見たマキが、素早く自分のリニアキャノンを手放して反転し、壁に再び隠れると同時に轟音が響く。
窓ガラスがマキの横で粉々にはじけ飛び、マキが空中に手放したリニアキャノンはひしゃげながら遥か彼方へと飛んで行った。
次弾を撃たせる訳にはいかない。
間髪入れずにマキは窓から中へと突入し、女性型ロボットへと突き進む。




