第七話「嵐の突撃」
13階は一般兵たちの待機する部屋に当てられていた。
マキが突入した部屋も例外ではない。
中には一人の兵士が居た。
突然轟音を立てて強化ガラスを打ち破り、突入してきて怯んだ兵士だが流石に鍛え抜かれたプロだけあり、床に転がって椅子の裏に隠した拳銃を取るとマキへと向ける。
だがその時には既に至近距離に駆け寄ったマキが足を振った後。
拳銃は入り口近くまで蹴り飛ばされる。
素早く首筋に親指と人差し指を添え、パリパリという音と共に失神させると部屋の入り次へと走る。
部屋は内側からはノーロックで開くようになっており、マキはドアを開いた。
兵隊たちの反応は素早く、左右、そして第三貨物倉庫があるフロアへ繋がる通路に次々と兵士が現れて銃を向ける。
マキは左の壁を駆け上がりながら直進、そのすぐ後を熱小銃が銃弾のミシン目を付けていく。
天井を走りながら一つ目の十字路で待機する兵士を通過し、右の壁を駆け下りながら突進を継続。
二人並んで立ちはだかる兵士を軽く空中回転させて地面に叩きつけながら走る。
最後のL字路で曲がり、マキは記憶したマップを頼りに最短ルートで第三貨物倉庫へ走る。
ホバースケーティング・スラスターが機能していればあと50%は加速出来ただろう。
だが今のマキも十分に早い。
そしてこの作戦、豊国議員の救出、レジスタンスの無事な逃亡を満たすには1秒も無駄にする時間が無い状況であることをマキの状況判断プログラムは理解していた。
***
14階。
ワン達6人のレジスタンスは銃を構えながらも豊国議員が軟禁されているフロアV2のS33号室へ迷わずに突進していた。
十字路で左右から兵士達が飛び出してこちらに銃を向ける。
しかし素早く停止した二人のベテラン・レジスタンスの銃弾を受けて兵士は倒れ、レジスタンス6人は突進を続ける。
走りながらワンは片手を上げ、5本の指を見せると右を指さす。
曲がり角で5人は右へ、ワンは一人直進した。
豊国議員が居るのは直進した道、右のルートは回り道である。
だがワンは未だ科学で解明されていない、彼の人生で鍛えられた感覚で何かを察知していた。
突如ワンは横に飛び、同時に天井の換気口の蓋と共にナタほどもある巨大な高周波ナイフを持った筋肉質の男が落下する。
男は異常に隆起した筋肉で全身を覆われ、両足を拘束する足枷、両手を拘束する手枷、センサー類の密集したマスクで頭部を包んでいた。
薬物強化兵特殊部隊、KUTUWAの隊員である。
「フゴオォォォォ!」
薬物強化兵はワンに突撃し、両手で逆手に構えた巨大なナイフを振り下ろす。
飛びのいたワンの背後のスチールの壁を荒々しく切り裂いた。
ワンに背を向けるとバク転するように仰け反り、ジャンプしながらワンの居る場所にナイフを振り下ろす。
ワンは男がバク転を繰り返して行う連続攻撃をバックステップで右へ左へとかわす。
最後にワンはナイフの横スウィングを冷静に腰を落としてかわすと、右手を腰に、左手の甲を相手に見せるように前へ出して半身に構える。
「ハイッ!」
ワンは薬物強化兵の脇腹に強烈な掌底を放った。
下手な銃弾は通さないと言われる異常な硬さの薬物強化兵の脇腹周辺の筋肉が波打ち、ゴキッという音がする。
「まだ、電磁手錠が解かれていないとは、まだ状況の混乱で指揮が行き届いて居ないようだな」
ワンは迷わずナイフを振り下ろす薬物強化兵の頭の上に回転しながら飛び上がる。
「ハイィィ――ヤッ!」
膝蹴りで薬物強化兵の首を90度曲げ、打ち倒した。
再びワンは廊下を走り始め、先回りして銃を構えて警戒しながら待ち構えるレジスタンスに合流する。
「議員の場所はあと20メートル、あの曲がり角から直ぐです」
「マスターキーを用意しろ」
「既にここに」
ワンは曲がり角に到着すると壁に背を付け、小型のスティックカメラを取り出して曲がり角の先を探る。
S33号室の前には二人の重装歩兵が3人でヘビーマシンガンを周囲に向けて警戒をしていた。
***
マキは第三貨物倉庫のある巨大フロアの入り口を走って通り抜けた。
二体の中型パワードスーツが片手にイージスガン、片手にサーマルバルカンを構えて周辺を警戒している。
そして一体がマキを見つけた。
マキは素早く近くの巨大トレーラーの背後に移動、すぐ後をサーマルバルカンがハチの巣にする。
「侵入者発見! 東側通路から出て近くのトレーラーの裏だ!」
「了解! スキャン中……」
トレーラーの陰で隠れたマキは背後のエアダクトの蓋を開け、その中に潜り込む。
そして床下の狭い通路をに潜るとワイヤードロケットパンチを射出。
50メートル離れたフロア反対側のパイプを握ると、ワイヤーを引き戻しながら滑って移動する。
(分かってると思うけど、第三格納倉庫にエアダクトは無い。入り口は一つ。
正面扉だけだ。中には50人の兵士が居る。田辺が正しければね)
(オーケーです)
(開けるよ)
突如第三格納倉庫の扉がゆっくり左右に開き始めた。
マキはエアダクトから出て正面から突入、遅れて振り向いた中型パワードスーツはサーマルバルカンを構え、沈黙する。
マキの正面に居るのは50人の兵員である。
「撃てぇぇ!」
「いやまて、味方にあたる!」
慌てふためく兵士の群れのど真ん中を突進。
通行妨害をする兵員が次々マキの体術で空中に投げ上げられて回転して地面に叩きつけられる。
マキはついにマリオネット・インプラントのコントロール装置を手に取った。
だが兵士達はマキの背後に密集し、脱出の妨害を試みる。
「舐めるな! 俺達はエリート、格闘のエリートでもある!」
なだれ込む様にマキに兵士たちが襲い来る。
マキは冷静にすべての拳をさばき、一歩ずつ踏み出し、体を右へ、左へ交互に反転させながら前進、兵士達はマキの周辺に次々と倒されて呻く。
雨龍武術館で美雨先生の指導の様子を分析して身に着けた詠春拳である。
押し寄せた兵士、最大4人、5人の兵士がナイフやエレクトリックナックルでマキに攻撃する。
大量のプロの格闘家が同時に繰り出す拳をさばくマキのスピードは常人には残像の集合にしか見えなかった。
十数秒の乱闘の末、マキは第三貨物倉庫の入り口に到達していた。
問題はここからである。
二体の中型パワードスーツのサーマルバルカンは精密にマキをロックオンしており、フレンドリーファイヤー状態の解除と同時に狙撃命中させる構えにあった。
(凄い戦いだったね。感動したよ。じゃぁ今度は僕の番だ)
フロアにある複数のトラック、トレーラーが勝手に動き始め、中型パワードスーツに一斉に突進を始める。
左から来たトラックをパワードスーツは受け止め、直後に背後からトレーラーの追突を食らって挟まれる。
身動きが取れない状況になった隙にマキはフロアの出口へと駆け出した。




