第三話「マゼラン03号」
「10時00分 夢の島発高松行き、メガ・リニア。マゼラン03号は現在、第二ステーションデッキに停車中です。
ご乗車の方はインフォメーショングラスを着用の上、構内案内ガイドに従ってご乗車手続きを行ってください」
放送が流れる中、マキは黒髪を後ろで団子状に纏め、青い稲妻風に染めた前髪が顔の半分を隠す髪型で構内を速足で歩いていた。
インフォメーショングラスには構内セキュリティネットワークをハッキングして割り込む形で、レジスタンスのメンバーの合成音声が響く。
「オーケーそのまま進んで。各所に配置してある監視カメラの範囲内は極力入らない様に気を付けて行動するんだよ?
公的な場所のカメラは全て警察のシステムとリンクしてて、多少変装しようが、歩き方や動きの癖、骨格や虹彩、手術痕から照合してあっという間に逃亡犯を割り出してしまう。
君は特A級の指名手配がされていることを忘れないでね?」
「前方150メートル、移動ルートに監視カメラが複数あります。自然に身を隠して通り抜けるのは不可能です」
「分かってる。ちょいちょい、ちょいっと……。よし、そのまんま進んでいいよ。
あのカメラには君のシルエットは一切見えなくなった」
マキは監視カメラが複数並ぶ通路をスタスタと通り抜けた。
しばらく緊張して周囲の様子を歩きながら伺うが、特に変わった様子は無く、大勢の人々が行きかっているだけである。
「警察のネットワークは最高度のセキュリティが施されているはず。貴方のスキルは特A級ですね」
「褒めても何も出ないよ。さぁ次、搭乗前のMRIゲートチェックだ」
「それは困ります。私がアンドロイドであることがばれるという以前に、内部の精密なデジタル機器が悪影響を受けます」
「サイボーグを理由に拒否することも出来るけど、その場合は専門の検査官による厳密なチェックをすることになる。むしろそっちのほうが面倒なんだよ。
ここも君は心配しなくていい。そのままゲートを通り抜けてくれ」
マキは言われるままMRIゲートの中をスタスタと通り抜ける。
だがマキのセンサーは一切の磁気を検知しなかった。
そのままゲートを通り抜ける。
「一体どうやったのですか?」
「MRIゲートのシステムに、ちょっと白昼夢を見て貰ったのさ。それより見えてきてるはずだよ。
登場予定のマゼラン03号がね」
マキが歩く空中歩道は建物の地上10階ほどの高さがあり、天井は透明アルミが半分を覆いつくし、周囲の風景や青空が見える。
そして斜め上と反対側の斜め下には並行して一本ずつ別の空中歩道があった。
メガ・リニアに搭乗する人たちが通路内部の動く歩道の上で列をなして歩いている。
通路の先の方を見ると、玉ねぎ型の巨大なメガ・リニアの車体がある。
車体はビルでいうところの20~30階ほどの高さがあり、何層にも渡って透明アルミの天板の張られた通路や、広場が見える。
「見えました」
「あの玉ねぎみたいな乗り物の最上階がVIPエリア、五十嵐が居るエリアだよ。既に搭乗済みだ。
そしてその一つ下の階層、そこがいわゆるファーストクラスの乗客の居る階層。
でも今は五十嵐の関係者以外居ない。
おそらく直属の部下がいるはずだ。
さらに下の階層がビジネスクラスの階。
五十嵐の私兵の多くはここに滞在している」
「その下が一般客の居るエリアですね?」
「いや、コックやフロアマネージャーなど、運営に必要なメンバーと、五十嵐の呼んだコールガールしか居ない。人払いしてるのさ。
しかも五十嵐の私兵の居るフロアの下3階層は完全に誰も居ない。
代わりに警備ロボットが厳戒態勢をしいている。前後の乗客をみてごらん。女しか居ないだろ」
いわれる通り、マキの前後に並ぶ乗客は全て若い女性、しかも小綺麗で派手めなファッションをした女性ばかりである。
空中歩道を渡り切ったマキは開きっぱなしになったメガ・リニアの3重の分厚いゲートをくぐり、T字路をガイドに従って右に進むと、延々と弧を描く廊下が続く。
弧を描く廊下の外側にはアルファベットと数字の張られたドアが並んでいた。
「その廊下はメガ・リニアの内部でリング状に伸びている。
その外側に並ぶのはエコノミークラスの個室、全部窓があって外が見れるようになっている。
君の指定席は『5W323』だ。
ちなみに中央部分はレジャー施設やカジノがある」
マキは5分ほど歩いた後、『5W323』と書かれた扉を見つけ、搭乗手続き時に受け取ったキーデバイスを当てた。
扉が静かにスライドして開く。
中はホテルの個室のようになっており、窓辺には机とそれを挟む二つの椅子が置かれている。
部屋の入り口の近くには液晶グラスに囲まれたシャワールームまである。
そして部屋の中央にはバーカウンターのような台座が置かれていた。
「いいかい? 五十嵐は覗き趣味もある。
コールガール達が居る個室は全て、気が向いた時に覗かれていると考えていい。
五十嵐はそうやって見定めて、その上で自分の元へ呼び寄せるコールガールをチョイスするんだ。
『らしく』振舞うんだよ?」
マキは窓辺の椅子に座り、頬杖をついて外の景色を眺めながら、テーブルの中央にあるパネルを操作した。
しばらくして近くのスピーカーから電子音声が響く。
「メガ・リニア内、サービスエージェントです。
ご指定のコーヒーとデザートをお持ちしました。お入りしてよろしいですか?
「ええ、いいわ」
部屋の中央のバーカウンターの中央の蓋が開き、片手にショートケーキの乗った皿、片手にポットを持ったロボットの上半身が現れる。
「カプチーノとイチゴのショートケーキでございます」
サービスエージェントはバーカウンターの机に皿を置き、ティーカップを配置してコーヒーを注ぐ。
「本日、スペシャルプログラムとしてこの階層に滞在されるお客様はドリンクと食事、デザート、VRムービープログラムなど、全てが無料となります」
「無料?」
「とあるVIPのお客様が全て代金をお支払い頂けるそうです。それでは楽しい旅を」




