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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT9 地上最速、世界最大重量、メガ・リニア
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第一話「マリオネット」

 ネオ東京の地上、平和島地区の歓楽街。

 このエリアはアルコロジーこそないが、高度500メートル級のビルが密集して空中歩道や柱で連結されて土台を作り、さらにその上に200メートル級のビルが点在するという二層構造になっている。

 日本をくまなく走る幹線道路の中継地点でもあり、大規模な商業地区として繁栄していた。

 ビル群の中にはショッピングモール、バーやカジノ、ホテルやアミューズメントパークが無数にあり、地上へ降りることなく延々と休暇を楽しむ人々もいる。

 第一層のビル群の北端近くには様々な料亭、風俗店が密集し、ネオ歌舞伎町エリアと呼ばれている。

 その中でも第一層からさらに上に伸びた十数本のビルはVIP級のサービスを提供し、政財界の大物が頻繁に利用する。

 そんなビルの屋上からさらに上にユリの花が咲いたような形の白い末広がりの柱が伸び、その上には透明アルミ製のプレートが載っていた。

 夜はその白い支柱がライトアップして照らし出され、プレートの上ではビヤガーデンのように机と椅子が並べられ、ドリンクや料理が提供される。

 同様の建造物は間隔をおいていくつも周囲に並び、一つのプレートが1団体の貸し切りである。

 上空は強い風が吹くものだが、このガーデン周辺の風は下にある空調設備でコントロールされている。


 深夜、そのプレートの一つの上で、まるで銀河の星のように全方位に広がるビル群の輝く夜景を眺めながら、一人の中年男性が片手にグラスを持ち、片手には垂れ耳バニーガールの腰を抱き寄せていた。

 現政権与党、民青党幹事長の五十嵐 聖二である。

 五十嵐は空になったグラスをテーブルの上に置くと、バニーガールのブラにその手をかけ、ずり下した。

 二つの大きな胸が露わになってプルルンと跳ねる。


「きゃぁっ!」

「グラスで飲むのにも飽きたわい。わしが両手で抑えててやるから、その谷間に注げ」


 バニーガールは片手に持っていたトレーから年代物のワインボトルを取り、自分の胸の谷間に注ぐ。


「おおっと! こぼれるわい!」


 五十嵐は顔をバニーガールの胸に埋めるように寄せて、谷間から垂れ堕ちるワインをすする。

 そんな五十嵐を3メートルほど離れた場所から侮蔑する視線で眺める男がいた。

 男は全身にギブスのようなパワーアシスト器具を付けており、顔も耳から下は電極のようなものがあちこちに埋め込まれている。

 そして直立したまま動かない。


「おい、マリオネットインプラントのロックを解いて豊国を自由にしてやれ」


 五十嵐が顔中についたワインをバニーガールに拭わせながら指示すると、背後で並んでいた黒服の男たちの中から3人程歩み出て全身ギブスの男の元へ近づき、携帯型のリモコンのような物を操作し始める。

 そして体の何か所かにキーデバイスを接触させる。

 するとその男は自分で動き始め、一歩前へと進んでから五十嵐へと向き直った。


「こんな事はいつまでも続かんぞ。私が行動と発言の自由が全て奪われ、ただの動く人形と化していることなど見る者が見ればすぐにばれる」

「そう思う個人が発生することはあったかも知れんなぁ。だがそこで終わりだ」


「私が邪魔ならば即殺したらどうだ?」

「それが出来るならそうしている。だが行方不明になれば事件となり、私の手の掛かった警察も動かざるを得なくなる。

 もうしばらく、交通事故で負傷したがサイボーグ技術で元気に国会へ出席を続け、私の望む法案に賛成してくれる豊国議員で居てもらわなくてはな……ふふ」


「……」

「いい加減に白状しろ。P-Xの断片をアンダーワールドのレジスタンスに流したのはお前なんだろう?」


「何度言ったら分かる。妄想もたいがいにしろ」

「P-Xの断片は今どこにある?」


「知らん」

「おい、あれを連れて来い」

「ははっ!」


 黒服の男がお辞儀をすると少し離れて、眼鏡型デバイスで何者かに小声で命令する。

 しばらくしてプレートの中央エレベーターのドアが開き、二人の黒服の男がぐったりとしたスーツ姿の男を両側から肩を担ぎ、支えるようにして現れた。

 スーツの男は豊国の目の前へ連れてこられた後、両ひざを地面につく。


「小林! 大丈夫か!?」

「…………」


「ホールド、マリオネット」


 五十嵐が発した言葉と共に、スーツの男の傍にしゃがみ込んでいた豊国の体が硬直し、その場で直立する。

 そして五十嵐は椅子から立ち上がると、プレートの端、手すりの方へと移動した。

 豊国は自分の意志に関係なく体が動き、五十嵐から少し離れて手すりの傍に立つ。


「そいつを連れて来い」


 黒服の男たちがその場にへたり込んでいたスーツの男の腕を掴んで無理やり立たせて、五十嵐と豊国の間に引きずるように移動させた。


「今の時代、ナノマシンの発達で、見た目の体の損傷無しに、エグイ拷問を行うことが出来る。

 そこの君の秘書は中世の車裂きや鉄の処女、火あぶりを超える拷問を受けて、君とレジスンタンスとの関係について口を割らなかった。

 正直言って驚いたよ。

 今の時代に、そんな中世の英雄のような強靭な精神力を持った人間を見るとはね」

「小林……。すまん……」


「だから責める相手を変える事にした。

 いいかね?

 どれほど偉大な伝説的英雄に匹敵する精神を持って居ようとも……」


 五十嵐は片手を上げると手すりの外を指さし、クイクイと動かす。

 黒服の男たちが小林を両脇から担ぎ上げた。


「五十嵐ィ! 貴様、自分のやろうとしている事が分かっているのか!?

 祖国と何億人もの人間を……」


 黒服の男たちは小林を手すりの外へと放り投げた。

 小林は人形のように手足をぶらつかせつつ、回転しながら遥か下へと落ちていく。


「小林――――!」

「どれほど高潔で強い精神を持っていようがわしに逆らう事は出来ん」


「五十嵐! 貴様ただでは済まさんぞ!」

「君が協力を拒み続ける間、君と親しい人間は次々と地獄へ落とされていくだろう。

 あと祖国と言ったな? ふふっ、この国はわしの祖国では無いし、国民が身内とも思っておらん。

 子供も孫も既に中国籍だよ」


「……貴様は人間では無い」

「お上品で人の罵倒の仕方も知らないと見えるな」


 五十嵐は豊国に近寄るとその場に蹴倒した。

 豊国は体の自由が利かず、顔をしかめるのみ。

 五十嵐はその顔に足を載せてグリグリ踏みつける。


「この売春婦の豚の子め。わしに感謝しろ。

 明日中国から四国に訪問する議員団を歓迎する式典に参加させてやる。

 そして夜は余興としてお前に裸踊りをやらせてやろう。

 メガ・リニアで一時間ほどの旅だ。

 楽しみにしていろ」

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