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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT8 アンダーワールドでの生活
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第十話「地下に雨降る藍式神社」

 マキとディバとマーシャ、そしてユリカとその母親、加代はネリに先導されて一列になり、大勢の人込みで溢れた商店街を進んでいた。

 祭りの期間というだけあり、はぐれると完全に迷子になる程の人だかりである。

 そして遂に朱色に塗られた大きな鳥居がずらりと並び、トンネルのようになった場所へと辿り着く。


「凄い。アンダーワールドにこんな幻想的な風景があるなんて」

「驚くのはもっと先さ。……それにしてもカムイさんは結局追いつかなかったな」

「ねぇねぇ、あのトンネルは何なの?」


 加代さんがマーシャの傍にしゃがみ込んで教える。


「あれはね。鳥居と言って神様が住む神社と人間が住む世界を区切る門なのよ」

「あそこを潜ったら神様がいるの?」


「そうよ。神聖な場所だから神様に失礼のないようにお行儀よくしないと駄目なのよ」


 突如バサバサと音が聞こえ周囲の人々が騒ぎ出す。


「おい、鳥だぞ」

「初めて見たわ」

「空を飛んでるよ」


 一匹のカラスが大勢の参拝客達の頭を掠めて鳥居のほうへとび、その上に止まった。

 そしてマキ達を見下ろす。

 加代は鳥居の上に止まるカラスを見て再びマーシャに語り掛ける。


「ほら、神様の使いがマーシャちゃんのことを見てるわよ」

「あれは何?」


 ネリが答える。


「カラスだな。普通アンダーワールドに鳥なんて来ないし滅多に見ない。どこかの地上と繋がるエアダクトから迷い込んだんだろう。まぁ珍しい事もあるもんだ」

「悪い、悪い、お待たせ!」


 鳥居の前のマキ達の元に雷百花仙のロゴのある手提げ袋を手にしたカムイが走り寄る。


「買い物して来たんですね」

「まぁちょっとね」


 カムイを見て思い出したようにネリが自分の持っていた手提げ袋を広げ、中からバトンほどのサイズの包みを取り出して配り始める。


「ここから先はこれが必要になる。一人一つずつ配るよ。これは……マーシャ用だな」

「ネリお姉ちゃんありがとう。これは何?」


「折り畳み傘ってやつだ。こうやって広げて使う」


 ネリは自分用の折り畳み傘を開いて見せた。

 マーシャがそれを真似して開くと、ピンクの花がいくつも散らばったデザインのビニールの布が広がる。


「まぁ、可愛い柄ね」

「ふふ……ネリさんもそういうのを選ぶのね」

「べ、別にいいだろ。……おっと一つ足りないか」

「俺はいいよ。雷百花仙で祭りの期間だからってことでおまけで貰ったんだ」


 カムイは雷百花仙のロゴ入りの傘を開く。

 全員が傘を手にすると、使用用途がまだ分からず皆の見よう見まねで不思議そうに傘を担いだマーシャを連れて一行は鳥居の中へと進み始めた。

 しばらく進むと、遠くからザァ――――っという音が近づき大きくなってくる。

 そして遂に傘にボタボタボタッという音を立てて雨が当たり始めた。


「わぁっ、何?」

「マーシャは初めてだな? これがアンダーワールドでこの神社だけで降る雨だよ」


 鳥居のトンネルを抜けると白い小石の敷き詰められた広大な広場が現れ、人が通るように点々と並ぶ石板の上を進む。

 周囲一帯はザァザァ降りの雨で湯気のようなものも地面から漂っている。

 上を見上げても真っ暗である。

 マーシャは興奮しながらキョロキョロ見回す。


「凄い! 凄い!  こんなにいっぱいのシャワーが辺り一面に降ってるよ! 凄い量だよ!」

「地上では当たり前の現象だが……アンダーワールドでは珍しいんだな」


「凄――い! 信じられないほどの水が降ってるよ! 神様って凄いお金持ちなの!?」


 上を見上げていたディバがネリに尋ねる。


「一体どうなってるの? 水道を通してる……訳じゃ無いのよね?」

「地上に大きな川が流れてる。そしてその川底から一定量の水がしみ出して岩盤の層に溜まるんだが、太古の珪藻類の化石が無数に集まった岩盤だったために長い期間をかけてカルシウムが溶けだし、ついには無数の小さな穴となって水を通すようになったらしい」


「つまりこれは天然の現象なのね!?」

「ああ、今は状態保存の為の調査とメンテナンスはしてるらしいがな。この空間も神社も朽ちながらも存在してたそうだ」


「世の中には私が想像もしないことがまだまだ有るのね」

「雨だ――! 雨だ――!」


 走り回るマーシャの傍で、マキは胸の疼きを感じ、胸に手を当てて目を閉じる。

 カイの見た情景がまた一つ浮かびあがる。



 カイは傘をさし、目の前で雨を受けてはしゃぐ家族連れやカップルを眺めていた。

 小石をジャリッと踏みしめてカイの隣にサイボーグモンクのワンが歩み寄る。


「ワン……、アンダーワールドの人達は……雨を知らないんだ」

「悲しい事だ。私が故郷で当たり前に受け入れてきた天の恵み…………だが、それを奪うのは人だ」


「地上の人々は……ただ知らないだけなんだ。アンダーワールドの存在を」

「だが知っている者も居る。その多くは人では無い」


「ワン……おかしいのは、狂っているのはごく一部の人間。地上にも愛すべき人々が居る」

「それは理解している」


「アンダーワールドの人々が本物の雨を浴びる事が出来るように、本物の太陽を見る事が出来るようにしたい。本来それは自然な結末であるべきだ」

「……そのためには戦わなければならない。天はただ見守るのみ。人の歪みは人が正さなければならない」

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