第八話「桃源百菜餐館」
アンダーワールドのチャイナタウンを横切る商店街。
雨龍武術館の門へと続く脇道の前に大きなレストランがあった。
原色が多く使われた緑の竜の絵が建物全体を覆うように描かれたそのレストランは『桃源百菜餐館』という名の看板が掲げられている。
ネリ達一行はディバ達が入っていった脇道が見える窓際の大きな丸テーブルを囲み、テーブルに並べられた食事を楽しんでいた。
チャイナドレスを着た女性のウェイターが左手に皿を3つ持ってネリ達のいるテーブルへと歩み寄る。
「お待たせしました。海老のから揚げに、上海蟹の姿蒸し、フカヒレのスープです」
「わぁぁ――」
「凄い豪華だな」
「皆で旅行なんて滅多に無いもの。こういう時こそ奮発しなきゃね」
ウェイターが皿を一つずつ机の上のターンテーブルに配置する。
皿を持っている左手首には機械式のグローブのようなものが取り付けられ、その先からは金属光沢のある昆虫の足のように節の付いた触手が6、7本伸び、器用にバランスを取りながら皿を支える。
最初は料理に注目していたマーシャだが、今度はその手に興味を持ったようである。
「ねぇねぇ、そのおててに付けている物は何?」
ウェイターは皿を置き終わり、マーシャに微笑みながら手をかざす。
「これ? これはね、ウェイターの皿運びを補助する道具よ。6つや7つの料理を安全に運べるのよ」
「ふ――ん。ねぇ見て! カムイおじさんも左腕にいっぱい機械を付けてるんだよ?」
「あら、凄いわねぇ。それ何なんですか?」
「うん。まぁ。ちょっとした悪者退治の七つ道具が入ってるんだよ」
「へぇ……。お客さんはひょっとしてバウンティハンターですね?」
「まさかアンダーワールドでその言葉を聞くとは思わなかったよ。良く知ってるね。どうして分かったの?」
「耳の影に小型カメラが見えたのでもしかしてと思いまして……。私のこのウェイター補助アームはここから3軒隣りにある、『雷百花仙』というガンショップで特注で作ってもらったんです。
店主の宝さんとは昔から近所づきあいがある知り合いだったので。
宝さんが言ってました。
最近、珍しい銃を探し求めて来て、高額を吹っ掛けても買っていく人達が良く居るそうです。
それが地上でのバウンティハンターと呼ばれる職業の人達だと……」
「驚いた。俺なんて地下の存在すら知らなかったのに、入り込んでる奴等がそんなに居たのか。あとでちょっと寄らせて貰うか」
「宝さんは体に障害をもっていて……その……ちょっと変わった人ですが驚かないでくださいね」
カムイがウェイターと話している頃、マーシャの興味はすでにユリカにターンテーブルから取り分けて貰った上海蟹に移っていた。
「ねぇこれどうやって食べるの?」
マーシャの隣、ユリカと反対側に座っていた加代さんが教える。
「それはね? こうやってまず足を取り外してから……、甲羅のここに爪を立ててこうやって開くと……ほら、この黄色いのが蟹の卵よ」
「わぁ――。凄い」
「美味しい?」
「美味しい――!」
机の端でネリはお茶を飲みながら頬杖をついて窓の外を眺めていた。
『雨龍武術館』へと続く横道から二人の人影が現れて商店街に出ると、周囲をキョロキョロと見回しているのに気付く。
ディバとマキである。
ネリは二人に窓越しに手を振った。
ディバとマキもレストランに入り、一通り食事を楽しんだ後、目的地である藍式神社へ向かう為、商店街の通りを歩いていた。
だが途中でカムイが足を止める。
「ごめん、皆先に行っててくれないか? 後で追いつくよ。このまま真っすぐなんだよね?」
「どうしたんだ?」
「ちょっとこの店、『雷百花仙』ていう店のことをレストランのウェイターに聞いてね。中の様子を見てみたいんだよ」
「分かったわ。気を付けてね。カムイさんなら大丈夫でしょうけど」
「まぁ迷う道は無いし大丈夫だろう。愛式神社はここから3キロほど先だが、祭りの人だかりに従って進んでいけば沢山の鳥居がならんだ門に出る。
私たちは道中で出会わなければ、鳥居をくぐってすぐの場所で待ってるよ」
「オーケー。分かった。それじゃ悪いが先に行っててくれ。またな」
カムイは一行と別れると『雷百花仙』の看板のある店へと入る。
扉は頑丈な二重扉になっており、一つ目の扉を潜るとロックされ、左右からセンサーが出現してカムイの体をスキャンした。
そして奥側の扉が自動で開く。
そこはジャンクフードのチェーン店のフロアほどの広さの部屋であった。
棚が何列か立体的に並び、様々な銃や用途不明の機械がびっしりと陳列されている。
天井には背中側から無数のケーブルが伸びて天井のあちこちに繋がった女性型ロボット一体が宙吊りになっている。
全身のパーツが黒で統一され、顔だけが人間に似せたシリコンのような皮膚をしたロボットはカムイを振り返った。
そして天井から吊り下げられたままゆっくりとカムイの方へと移動し、目の前で降りて来る。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか? 当店では拳銃、サブマシンガン、ライフルや小型ミサイルなどの兵器、最新型からレトロ製品まで揃えています。
護身用でしたらこういうのもございます」
宙にぶら下がったロボットはたまたま手に持って居た小手のようなものを自分の右手に装着した。
そして空中にターゲット用の二重サークルのあるボードが格納された頑丈そうな箱が上から降りて来る。
ロボットは小手を装着した腕でハンドシグナルを形作り、ターゲットを指さすと小手からターゲットにレーザーが当てられ、直後に放電が走り音を立ててターゲットを粉砕した。
破片は箱の中に飛び散り、そのまま回収される。
「い、いや、それはいいや。それより店主の宝さんてのはどこに居るの?」
「あそこです」
ロボットが指さす方向には会計用のカウンターがあり、隣にバケツを縦長にして一回り大きくしたような水槽が置いてある。
「あそこ? どこ?」
「あの水槽の中です」
水槽の中には手足が無く、口に呼吸用のマスクをつけ、目全体をバイザーで覆った男が格納されていた。




