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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT8 アンダーワールドでの生活
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第五話「海水路の水上輸送ボート」

 アンダーワールドの海抜0メートル層。

 そこには幅50メートル級の海水路があった。

 両岸には天井までつながったコンクリートの壁があるのみ。

 暗闇の中、海水はゆっくりと静かに流れる。

 そしてとある場所にはコンクリート製のプラットフォームが波止場のように突き出ていた。

 そこには何隻かの四角い小型ボートのようなものが停泊している。

 波止場に隣接する壁のドアを開けて少女が飛び出す。


「わぁぁ。お舟だよ。お舟」

「マーシャちゃん、危ないから走っちゃ駄目よ?」


 少女の名はマーシャ、キャシー・パイロによって住んでいたエリアの住民ごと両親を殺され、ディバが引き取ることになった10歳の少女である。

 マーシャの後に続いてぞろぞろと波止場に何人もが歩み出る。

 そこにはディバ、マキ、ネリ、そしてカムイとユリカ、そしてユリカの母親の老婆の加代さんの姿があった。

 ネリが解説する。


「アンダーワールドにはいくつもの海水路が走ってる。

 そしてそれを利用したボート輸送をしている連中がいる。

 これがアンダーワールドでの長距離移動の主な手段だ。

 気を付けろよ?

 海水路輸送のボートが走っている場所は深さ30メートル~100メートルある」


 ネリはボートの一つに乗って眼鏡型デバイスで何かの映像を楽しんでいた船頭の元へと歩み寄り、交渉を始めた。

 ボートの大きさは横5メートル、長さ15メートルほど。

 長方形の形をしており、水面から1メートルほど顔を覗かせたプレートに、転落防止用の柵があるような作りである。

 交渉をしていたネリが振り向いて皆を呼ぶ。


「お――ぃ。話がついた。大人数なので3割負けて貰った。皆船に乗るんだ」

「わぁぁぁ」


 マーシャを先頭に全員が船に乗り込む。

 船頭は船の隅にあった小型の台のようなものに備え付けられたパネルを操作し、乗り込むための小型のステップを収納して入り口の柵を閉じた。

 カムイが上を見上げる。


「へぇ、天井は無いんだな」

「雨が降らないですからねぇ」


 マーシャが船の中央で四つん這いになって興奮する。

 船の中央付近の床、面積の3分の1ほどは透明アルミ製のシースルーになっており、水中が観察できるようになっていた。


「お嬢ちゃん、お魚が見たいかい?」

「見たい!」


「よぅし、今ライトを付けてあげるからね」


 船頭がパネルを操作すると船底から下へ向けて、ライトが水中を照らし出した。


「わぁぁ! お魚が一杯泳いでるよ!」

「ほんと、凄いわねぇ」

「時々ねぇ、大きなクジラが通るんだよ?」


「嘘だぁ!」

「さすがにクジラは来ないでしょう? もっと外洋にいるはずよ」

「いや、本当なんですって」


 ディバがマーシャの隣にしゃがみ込んで水中を見て魚を指さして談笑する。

 反対側にはユリカと加代婆さんもしゃがみ込む。

 そして船頭が目につく魚を解説しながら船を進めていた。

 手すりを握り、ボートの進む先を眺めていたマキの横にカムイが立つ。


「どうだ? アンダーワールドの生活には慣れたかい?」

「ドレッド・ベレーとの闘いの怪我の治療で、三日間ほど治療用カプセルの中に居ましたし……、実質ここでの生活はまだ四日目ですが、ネリさんもユリカさん達も親切に色々教えてくれるのでなんとかやっていけそうです。

 それにディバさんも居るので不安はほとんど無くなりました」


「そうか……。そうそう。

 情報屋のティアラさん覚えてるよね?」

「はい。クラブ音音のナンバーワンの方ですね?」


「君が売った映像がえらく気に入ったらしい。もしなにか情報がさらに必要になったら何時でも言って貰えれば、場合によっては自分から出向くってさ」

「情報……。レジスタンスについて……まだ何も掴めていないんです。こうして胸に手をあてていると焦りを感じます。何かが差し迫っているという気持ちだけ感じます。

 早く接触しないと……」


「レジスタンスに関してだが、最近妙な動きがみられるらしい」

「妙な動きですか?」


「レジスタンスのメンバーのキットやワンが過去にカイと親しい接触のあった人々の前に突然顔を出して探って回っているそうだ。

 何か預かっているものは無いか。伝言のようなものは無いかってね」

「P-X……。ひょっとしてカイはレジスタンスの誰にもその断片を受け渡せていない……」


「ティアラさんも同じ見解だ。それとカイには地上の統治機構の中にも支援者が居た形跡があるそうだ」

「……テロリスト……と呼ばれる組織にはよくある話ですね」


「詳しい情報が手に入ったらまた教えてくれるってさ」

「そうですか……情報の提供ありがとうございます。

 ところで今日たまたまユリカさんの様子を見に来ておられたんですよね?

 カムイさんは何故……私やユリカさんに、事件が終わった後もここまで親切にしてくれるのですか?」


「何でかね……。多分まだ終わっていない……そう……俺の本能が何かを嗅ぎ付けているから……かな。ま、今日はアンダーワールドの名所を観光したかっただけなんだけどね」

「私も楽しみです。狭い研究所の中や限られた範囲を歩き回って、全て計算通り、予想通りの世界の中で生きていた私にとって、白蓮神社と周囲の森の風景、そしてそこに居る人達も衝撃的でした。

 あれほど大量の木々と昆虫が居るとマッピング情報を作る際のメモリー消費が激しすぎて途中で中断してたんです。

 分からない物の中で……分からない人々と共に過ごす。

 普通のロボットであれば……正気を失っていたかも……」


「はっはっは。ロボットが正気を失う? ……い、いや、失礼」

「でも私は……何故か適応出来たし、懐かしささえ感じました。

 私は数年間で人工的に作られたのではなく、この地に根差して生きてきた。

 そんな気がしたんです。

 私は外の世界を探索しながら、自分の内面を探索しているのかもしれません」


 ボートは静かにコンクリートで囲まれた海水路を進み続ける。

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