第四話「地下の雨降る神社」
マキが玉藻前診療所で表皮の修復を始めて三日。
ディバの情報提供とサチ婆さんの熟練した技術により、元通り、人間と変わらない見た目にまで回復していた。
「もういい頃合いだね。カプセルを開けるよ」
サチ婆さんは端末を操作した。
マキが横たわるカプセル内に溜まった黄色がかった半透明の液体が徐々に排出され、空になる。
そしてカプセルの蓋が自動的に開き、マキが上半身を起こす。
「ありがとうございます。全身の傷が完治しています」
「これで外を出歩いても変な目で見られないわね」
「別な心配をしなと言いたいが……マキちゃんならその心配はないか。どうするね?
人工筋肉の能力、普段抑えていては不便だろう?」
隣で見守っていたディバはしばし沈黙し、答えた。
「人工筋肉はパワーレベルに応じて行動論理が違ってくるんです。それぞれのパワーに応じた最適な動き方がある。
だからドライバが別物になっています。
日常生活を送るのに最適なのはデフォルトのレベル1。
レベル3はマキが能動的に切り替えられるようにして頂きたいです。
安全性に関しては……マキなら大丈夫だと思いますがいざという時は私に任せてください」
「……そうだね。隠したって察しは付くさ。普通は有るもんだよ、制限コマンドやドライバリセットコマンドがね……」
サチ婆さんはコンピューターに向かいプログラムを操作する。
「あとこいつはおまけさ。マキちゃんもアンダーワールドの自警団なら必要になるだろうからね」
「……何を……」
ディバがサチ婆さんとマキを交互に見守る中、マキは上半身を起こしたまま片手を出して手の甲を内側へ曲げた。
そこからは内臓のEMPスピアがシュッ飛び出て、ハサミのように二つに割れた後、その中からEMPロッドが飛び出し、電極を出して小さな放電を行う。
「EMPデュアルスピアー、この三日で0からドライバを作ったのですか!?
構造解析しただけで何の情報も無く……」
「構造は分かってしまえば簡単な部類さ。マキちゃんの内蔵装備の中ではね。
他はスーパーコンピューターで何年間も演算して状況に応じた最適動作を導き出さないといけない代物ばかり。
人工筋肉レベル5やエネミーアナライザ、ホバースラスターやタクティカルインフォメーションリンクをあんたが持ち出せていたら本当に最強だったろうね」
「えぇ、最新鋭の軍用アンドロイドですから……」
「自警団をするならレベル2の人工筋肉も使いたいねぇ。人間の鎮圧にEMPスピアーをぶっ刺す訳にはいかないだろ。歩く、走るといった日常動作程度のプログラムなら在庫があるよ。
軍人向け、ちょうどマキちゃんの人工筋肉レベル2相当だ。
それも入れてあげようか。
格闘とかのプログラムは入ってないから自己学習するんだね」
「何から何までありがとうございます。マキ、立って人工筋肉レベル2を起動してご覧なさい」
「はい」
マキはカプセルから降りて床に立つとインプットされたプログラムを起動した。
【人工筋肉:レベル2、ドライバインストール完了、Active……】
マキはその状態で数歩歩く。
勢いあまって少しバランスを崩しそうになるが自力での制御可能な範囲内である。
「そうだね……、いい場所を教えてあげるよ。
アンダーワールドにも武術を教えるところがあるんだよ。
ここからは少しな晴れたチャイナタウンにある雨龍武術館へ行くと言い。
多くの自警団の人間がそこで稽古をつけて貰っていると聞くよ」
「アンダーワールドにもチャイナタウンがあるんですね」
「地上と同じくらい色々な人種が居るからね。
ついでだからさらにその近くにある藍式神社へも行くといい。
今週は祭りだから人も多い。アンダーワールドでは数少ない観光地さ」
「神社があるんですか!? でも外に出たら色々とマズイのでは?
衛星で存在を隠しきれませんし、政府が……」
「藍式神社は地下にあるんだよ。とある河川の地下100メートルにあってね。
川底に染み込んだ水が雨のように常に降り注いでいる。
行くときは雨具を持っていくんだよ?」
「アンダーワールドで……雨……。誰かが作ったのですか? そもそもアンダーワールドの人々は神道を信じているのですか?」
「何百年も前の昔からあった秘密の神社だそうだよ。
地上の人は知らないだろうね。
アンダーワールドの住人が住処を拡大していて掘り当てたらしい。
多少は崩壊対策のメンテナンスをしているが昔のままの神社だそうだ。
一体誰が何の目的で建てたのか……七不思議の一つだねぇ」
「面白そうですね。治安はどうですか? 出来るならマーシャちゃんも連れて行ってみたいわ」
「大勢が押し寄せる観光地だからマシなほうだね。
でもアンダーワールドの治安に絶対は無い。
気を付けていきなよ?
まぁ人工筋肉レベル3とEMPスピアの使えるマキちゃんが付いていればよっぽどの相手じゃないと負けないだろうけどね」
「それじゃぁ、ネリさんと……隣の部屋のユリカさんと加代さんも呼んで皆で行きましょうか。どう? マキ」
「面白そうですね。私も地下の神社を見てみたいです。それに大勢の人々が集まるなら人探しも捗ると思います」
サチ婆さんがマキの初耳な発言を聞いて聞き返す。
「人を探してるのかい? 一体誰だい?」
「カイというレジスタンスのリーダーをしていた人、その仲間のレジスタンス達を探してます」
「へぇ……そりゃまた何で?」
「私も初耳よ? マキ。一体どうしてテロリストを……?」
「ディバさん、私に埋め込まれたデジタルハート、これはレジスタンスのリーダー、カイのブレインスキャンデータです」
「なんですって!? ちょっと待って……どういう事? これを極秘に依頼してきたのは黒沢議員……。一体何を探り出そうと……」
「それは……今は言えません」
「ディバ、以前たしかこのマキちゃんは浸透作戦(スパイとして敵集団に潜り込む諜報活動)にも対応できるアンドロイドだと言ったね?」
「はい。そのために人間そっくりの生体の表皮を持っています」
「……まぁいいさ。怪我をしたとき、マキちゃんもどこか修理が必要になった時は何時でもおいで」




