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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT8 アンダーワールドでの生活
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第三話「玉藻前診療所」

「ここからは二階の通路を移動する。……階段がガタついてるようだ。足元に気を付けろ」


 ネリは商店街の左側、木で作られた階段を登り、二階のベランダのような空中歩道へと向かう。


「木製の階段……。今の時代は貴重な素材ね。独特の雰囲気があって面白いわね」

「多分ここらをメンテナンスしている店主の趣味だな」


 3人はギィギィ音を立てる黒ずんだ木製の階段を登り切り、二階へと登った。

 しばらく進むと、小型の台机を歩道側に置いて、高さ30センチ程の小さな丸椅子に腰かけた老婆が居た。

 頭には様々な機能を持つ医療機器が密集したようなヘッドギアを付け、置物のように静かに階下の商店街を行きかう人々を眺めている。

 老婆が座る背後にはドアがあり、そのドアの上を見上げると『玉藻前診療所』と書かれた木製の看板が張り付いていた。

 ネリが話しかける。


「サチ婆さん。今日も元気そうで安心したよ」


 老婆は座ったままネリを見上げる。


「ネリかい。また怪我でもしたのかい?」

「ああ、ちょっと火傷をしてな。でもそれよりも後ろの奴を見て欲しいんだ」


 サチ婆さんはネリの後ろに居たマキに上に向けた人差し指をクイクイ曲げて近寄るように促す。

 マキは歩み出てサチ婆さんの前の台机の前に立った。

 サチ婆さんは側頭部に手を当てて何か操作をすると、頭上から額を通り、望遠レンズのようなものが降りて来て片目を覆う。

 そしてマキの体、負傷して黒い光沢を放つカーボンナノチューブ・マッスルがのぞく部分、体の傷を観察した。


「後ろを向きな」


 マキはその場で後ろを向く。


「背後から銃撃でも受けたのかい。こりゃ酷いね。顔を近づけて見せな」


 マキは再びサチ婆さんの方へ向き直るとその場にしゃがむ。

 サチ婆さんはマキの瞳を観察しながら言った。


「これを目で追ってみな」


 マキの顔の前に小型のペンライトを出し、左右に素早く振る。

 しばらくするとペンライトをしまい、目の前に降りていた望遠レンズを頭へと戻した。


「全身サイボーグ化した人間かと思ったが、このロボットだね。相当良い素材……と高い技術が使われている。何者だね?」

「ああ……説明すると長く……」

「八菱重工製の最新型第三世代軍用アンドロイドよ。骨格とカーボンナノチューブ・マッスルは通常弾の銃撃では傷一つ付かないけれど、生体組織で作られた皮膚の損傷が酷すぎてこのままでは残りの部分も徐々に壊死してしまうわ」


「……ということだ。どうだ? なんとかなりそうか? サチ婆さん」

「入りな」


 サチ婆さんは台机と椅子を横にどけて立つと、背後の扉を開いて中へと入っていく。

 ネリ、ディバ、マキの3人も後に続いた。

 中は小さな部屋になっており、中央に寝台がある。

 だがサチ婆さんは部屋の隅にあったガラスのように透明な円筒形のカプセルが斜めに置かれている場所へ歩き、そのカプセルをコンコン叩いた。


「ロボットのお嬢さん、ここに入りな」


 マキはディバの方をちらりと見る。

 ディバは周囲の機材を見回した後、マキに頷いた。

 カプセルのカバーが音も無く開き、マキはそこへ入って寝転がる。

 カバーが閉じられ、中が徐々に黄色がかった透明の液体で満たされていく。

 サチ婆さんはディバのほうに顔を向けて言った。


「治療と安全の為、体だけじゃなく、内部にもアクセスさせて貰うよ?

 それはあんたの会社にとっての機密事項に触れるかも知れない。

 こんな場所へ流れ着いているんだ。いまさら文句は無いね?」

「えぇ……お願いします」


 サチ婆さんが端末を操作するとカプセルの中でいくつかのケーブルが伸び、マキの髪の毛に偽装したアクセスケーブルへと接続される。

 隣に置かれていたホロディスプレイに並ぶ情報や数値を見ていたサチ婆さんが微笑んだ。


「AIのベースフレームはイザナミかい。フフフ……懐かしい物にこんな場所で、こんな時代にお目に掛かれるとはねぇ……」


 ディバはサチ婆さんの言葉を聞いて衝撃を受けて目を見開き、聞き返す。


「御存じなのですか!? 貴方は一体……」

「私も一体このAIをベースフレームにしてアンドロイドを一体作ったことがあるんだよ。

 30年前の話さ……。このAIはあんたが作ったのかい? えーと」


「ディバです。AIと表皮の生体細胞の機械との融合が私の担当です」

「……なかなか頑張ってるねぇ。……ま、何も知らないで生まれてゼロからスタートを繰り返す人の技は30年程度ではそれほど進化してないと見えるね。

 でも私はあんたのAIと外見のデザインセンスは好きだよ。

 ……面白いねぇ。第二の人格が植えてある」


「そ、それは……」

「こんな発想、危険を知り尽くした年寄りの私には出来ない冒険だねぇ。

 だがその無鉄砲さで、あんたとこのロボットは私が辿り着けない次元へとさらに進めるのかもねぇ」


「こんな一瞬でそこまで把握されてしまうとは失礼ですが意外でした。

 イザナミは政府と連携した研究にしか提供されない情報……、貴方もどこかの国家機関で研究・開発をしておられたのですか?」

「フフフ……、可愛らしいわね。このマキちゃん? 名前はマキだね?

 貴方にAIと外装を任せた人たちはセンスがあるわ。

 装備のゴツさとアンマッチだね。

 あと私の過去についてはそれ以上詮索しないで貰えると有り難いね」


「失礼しました。どうでしょうか? マキの表皮は治りそうでしょうか?」

「人間とほぼ同じ細胞に見えるけど、DNAが弄ってあるね。

 循環器系の情報が提供されないと難しいねぇ。

 あんたの張り付きの協力が必要だよ?」


 ネリが口を挟む。


「丁度いい、サチ婆さん、彼女をアシスタントとして雇ったらいいんじゃないか?

 スキルありそうだしな(あと私の任務が一つ解決する)」

「歓迎するよ。あんたがOKならね」

「……よろしくお願いします」


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