第一話「ミッション終了、悲劇の傷跡と新たな住民」
アンダーワールドの自警団のメンバーとディバ、そしてマーシャは自警団の本部に集合していた。
ドレッド・ベレーとキャシー・パイロを撃退し、メトロ20地区での被害は最小限にとどめられた。
少なくとも、過去にこの二人が関わって来た狩りの中では……。
自警団の死者が7名、住人の死者数は42名である。
その中には、ディバにすがって泣き続けるマーシャの家族も含まれていた。
「ヒィィィ――、パパぁ――、ママぁ――」
「……マーシャちゃん、ごめんね、パパとママを守れなくて……、でもマーシャちゃんのことは私が絶対に守るわ」
傍で立つネリはマーシャに視線を向けないまま無言で腕組みして壁にもたれている。
マキは嗚咽し泣き続けるマーシャを見て、アイアン・エンジェルの事を思い出していた。
未熟なマーシャは一人で生きられない。
だから両親との繋がりは精神の奥底、マーシャの世界の中に根を張って存在している。
マーシャはそれの喪失の痛みに耐えかねているのである。
アイアン・エンジェルも人間の10倍の痛みを感じると言っていた。
彼女もまた、耐えがたい心の痛みを受けていたのだろうか?
そして自分の心の奥底に湧き上がるかすかな何か?
これは人間の感情の欠片?
これは一体何なのだろう?
デジタル思考だったマキに今はえげつなく心を握る何かが押し寄せているのを感じていた。
(マーシャは……、今の私よりもディバさんを必要としている)
カツンカツンと金属プレートを踏む音が響き、自警団の本部の風洞へと数人の男たちが入り込む。
赤目のノアと側近の男、そしてライフルを抱えた4人の護衛である。
自警団のボス、コーディーが慌ててノアに向き直って敬礼をする。
「ノアさん、自らこのような場所へ来られるとは思ってもみませんでした」
「気にするな。すぐに帰る」
ノアは泣き続けるマーシャの傍に立ってしばらく沈黙したあと続ける。
「悪名高きドレッド・ベレーとキャシー・パイロの討伐、本当によくやってくれた。
あの二人組に殺されたアンダーワールドの人間の数は5桁に及ぶ。
私も今回は正直心配していたのだよ。
他の区域の自警団への応援依頼も裏で行っていたが、全て断られてね……」
「二人ともそこのネリとマキが片付けました。今回の報告内容を聞いたところですがどちらが欠けても危うかった。
このタイミングでマキが自警団に入団したことが神の導き、奇跡であったとしか思えません」
「この生き物のような宇宙服を着た女性は誰かね?」
「ディバさん。八菱重工研究所からマキと同じタイミングで脱出した、マキ担当のエンジニアです。
アンダーワールドの下水溝を彷徨っていた彼女がそこの少女、マーシャを保護してキャシー・パイロから逃げ切りました。
しかし残念なことに彼女の両親はメトロ20地区、乗り継ぎサークルエリアの元商店街に住んでおり……」
「もういい。それは聞いている。山岸、彼女のチェックを」
「了解しました」
山岸と呼ばれた側近の男はPDAを取り出すと不安そうに見上げるディバの顔を映し、何か操作を始める。
マキがその場の人々を見回しながら尋ねた。
「マーシャはこれからどうなるんですか?」
コーディーが即答する。
「もちろんアンダーワールドの、少なくとも我々のエリアの住民達は皆で助け合って生きている。なんとかするつもりだ」
しばらくの沈黙の後、山岸がPDAをノアに手渡した。
受け取ってそれを眺めたノアがディバの方を向いて話し始める。
「八菱重工軍用アンドロイド部門の研究員のミズ・ディバ、貴方はそこのアンドロイド、マキのプログラムを改変して暴走行為を意図的に誘発したテロ容疑で指名手配中だ」
「な、なんですってっ!?」
「君のアンドロイドの記憶領域への不正アクセスのログが証拠として提出されている」
「…………」
マキが庇うように口を挟む。
「ディバさんは私のワガママで行った些細な冒険行動、許可されていない商店街を歩いたりとかの記録をこっそり消してくれたりしてただけなんです。そうですよね? ディバさん」
「…………、少なくとも暴走誘発もテロもしてないし、あの時研究所には大勢の武装した特殊部隊のようなチームと軍用ロボが押し寄せてきてたのよ?」
「……信じよう。だが地上ではマキちゃんが一人暴走して全ての破壊や殺戮を行って脱走、首謀者は貴方ということになっている。
既に地上に貴方が生きる場所が無くなったのだ。貴方の言う事が本当であればなおさらね」
「…………」
マキがノアに向き直る。
「ノアさん。私の体を熟知しているのはディバさんだけ。それにマーシャちゃんもディバさんを信頼し、必要としています……」
「その先はいい。イエスだ。彼女がここに住むことが出来るように手配しよう。
よくぞアンダーワールドの住人、そしてマーシャを救ってくれた。
君たちに感謝する」
ノアはそのままコーディーの元へと向かい、なにやら話し込む。
ディバはマーシャを抱きしめたままマキを見る。
「ディバさん。再びあえてうれしいです」
「酷い有様ね。生体組織の皮膚の損傷が自然治癒出来るレベルを超えているわ。一度全身をチェックしたほうがいいわね」
傍にたって聞いていた自警団の男がネリに言った。
「ネリ。中央渓谷商店街のサチ婆さんのところに連れて行ってやれよ。あの婆さんならこういうのには慣れっこだからな」
ネリは両手を頭の後ろで組んで壁にもたれ掛かりながらディバとマキをチラ見する。
「そうだな……。居住の手続きを終えたらいくか?」
「はい、お願いします」




