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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT7 ドレッド・ベレーとキャシー・パイロ
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第四話「戦いの準備」

 アルコロジー輝夜2080.

 円柱型の芯の周囲を何層にもわたってドーナツ状の居住区、商業地区、工業地区に区画整理された空中都市が階層的に積み重ねられたような形のアルコロジーである。

 その中でもVIP階層の人間が居住する最上部の居住区ユニットにて、坊主頭の白人男性がソファーに座ってホログラム映像を鑑賞していた。

 男には両腕が無く、機械部品やコネクタのむき出しの断面があるのみ。

 両足も明らかに生身の人間ではない。

 この男は通称ドレッド・ベレーと呼ばれ、アンダーワールドの住人の『狩り』を仕事にしている。


 男が見ている映像は、前回の『狩り』の記録映像である。

 逃げ遅れた老婆の背中にサブマシンガンの銃口が向けられハチの巣にされる。

 子供を抱きかかえた母親が目の前でへたり込み命乞いをする。

 しかし容赦なく母親の顔面をつぶれるまで銃弾を撃ち込み、それを見て絶叫する子供をハチの巣にする。


 ドレッド・ベレーがいる居間の扉が開き、シャワーを浴びてバスタオルを巻いた状態の女性が部屋に入る。

 彼女は通称キャシー・パイロ。ドレッド・ベレーと行動を共にして『狩り』をする危険人物である。


「また見てるのかい? 飽きないねぇ」

「キャシー、久々の仕事だ。今度は思い残しが無いようにやることを予習してんだよ。

 くっひっひ、見ろこのシーン最高だ」


 キャシーは机に歩み寄って端末を弄る。

 映像が切り替わり、四方八方からの金切り声の叫びへと変わった。

 周囲を火だるまになった人間達が逃げまどう。


(あーら、ゆっくりしていっていいのよ?)


 映像の中ではキャシーが一人の男を抱き寄せ、業火で焼き尽くす。

 男は叫び続け、猛烈な炎が皮膚を焼き尽くして炭に変え、内臓にまで浸透し、男の鼻や口から叫び声の代わりに火を吹き出し始めた。


(あぁーーっはっはっは。最高に熱くなれるでしょう?)


「こっちの映像のほうが素敵じゃない」

「お前のは生々しさが足りねぇ。それよりそろそろ準備しないとな。

 ちょっとそこから腕を取ってくれ」


 キャシーはドレッド・ベレーが顎で示す方向の壁に歩み寄る。

 壁には武器ラックのようにいくつもの金属製の突起がが突き出ており、20本以上の機械式の『腕』が陳列されていた。


「今日はどれで行くの?」

「今日はスピーディーに行くぜ。SRX-997を取ってくれ」


 キャシーは陳列された腕のうち、青い金属光沢ラインが印象的な細身の腕を掴むと、二本続けてドレッド・ベレーへ放り投げた。

 ドレッド・ベレーは一本目を口で加えて受けて素早く片腕に装着すると、即座にその腕で二本目の腕をキャッチする。

 そしてもう片方を装着すると壁の武器ラックからサブマシンガンを取り出した。


「お前もそろそろ準備しな。出発するぞ」

「あと30分待ってくれない?」

「まったく、女ってやつは……」


 キャシーは同じ部屋に置いてある鏡台の前に座ると、防火ワックスを取り出して顔や耳、首から上に露出した肌に塗りたくる。

 ドレッド・ベレーはドアを開けて別の部屋へと入る。

 そこにはガラスで敷居の作られた5メートル*3メートルほどの牢獄があった。

 中には体中に虐待の痕のある女性が3人、抱き合って震えている。

 ドレッド・ベレーはパネル操作して入り口を開けた。


「新しいのが入荷される。お前らはもうお役御免だ」


 サブマシンガンの音と、女性の悲鳴や呻き声が短時間響いた。



 アンダーワールドの自警団の作戦会議は続いていた。

 コーディーが地下施設の地図を示す。


「奴らが侵入してくるルートはおそらく、メンテナンスエレベーターからだ。

 ここは普段封鎖されていて動かないが、ソリッドグラウンドフレーム管理局に許可を得て作動させてくる」

「12か所あるぞ……。これじゃぁ戦力が分散されてしまう。どこから来るか分からないのか?」


「分からない。だからこそ奴らはエレベーターを使うはずだ」

「それじゃぁ見つけた奴が通信で連絡を……」


「君はまだこういうミッションは初めてだったな?」

「『狩り』の間は全通信が遮断され、妨害電波が流されるわ。アンダーワールドの住人が連携出来ないようにするためにね」

「まじかよ……」


「とりあえず、二人組で別れるぞ。そしてそれぞれどこのエレベーターに付くか決める。

 ネリ、お前は今日はマキと組め」


 マキはしばらくアンダーワールドの3Dマップとエレベーターの位置、メトロ20地区の居住区情報を見て沈黙していた。

 そしてエリアの中央付近、碁盤の目状に通路が縦横に走るエリアのエレベーターを指さす。


「ネリさん。私達はここにしましょう?」

「ん? あぁ、まぁそこでいいよ」

「決まりだな。エレベーターC29にはネリとマキが付け。他は……」


 役割を決めた二人は会議室として使っている大規模空調ルームの壁へと歩く。

 ネリは壁にもたれかかりながらマキに尋ねた。


「何故エレベーターC29を選んだんだ? 何か理由があるんだろ?」

「兵士の心理分析プログラムが私のトレーニング過程にありました。

 敵との距離の取り方には3種類のタイプが居るそうです」


「3種類?」

「自分の身を安全な場所に隠して、罠にかかった敵を狩りたがるスナイパータイプ、目にした敵と正面から撃ち合いたがる一般兵士タイプ、相手の想像を超えた至近距離に突撃して潜り込み本能と反射神経で不意を突いて倒す突撃タイプ。

 どれも一長一短ですが長い間戦い続けて命の選別をされ、生き残った兵士の場合、最も戦局を左右するのは突撃タイプの兵士です。

 さらに未知の戦場、複雑なアンダーワールドの地形にいきなり飛び込んで活躍出来るのもこのタイプ。

 往々にしてこのタイプは脳内のアドレナリンの分泌によりハイになって戦いに快感を感じています。

 おそらくドレッド・ベレーはこのタイプです。

 中央エリアを縦横無尽に駆け回ってかく乱しつつ、変化する戦況を瞬時に見極めて判断し、常に自分の身を死線に置きながら戦うはずです」


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